「分かる! 俺も我が弟ながら可愛いって思うことしょっちゅうだから。最近はちょっと兄離れしてツンツンしてんだけど、それも含めていいと思ってる」
だから余計な情報を入れないでほしい。そりゃあ昔に比べて天にくっついて回ることはなくなったけど、今もそんなことをしていたら、それはそれで鬱陶しいはずだ。天はそうは思わないかもしれないけど。
「あ、やばい。俺バイトだったんだ。じゃあ」
天は爽やかな笑顔でバタバタと忙しなく去って行く。その背中が遠くなっていくのを見送っていると「似てないな」と隣で声が落ちてくる。
その一言が、妙に胸をざわりとさせた。
「似てない」、それは今まで何度言われてきたことだろう。
比較されることには慣れている。俺は天とは似ていない。俺が欲しいものを全部持っているのが天だ。
「あー……うん。兄貴はなんていうか、根っからの陽キャだから。見た目は多少似てるらしいけど、中身が全然っていうか」
「見た目?」
顎に手を添えて朝宮は「うーん」と言った。
「まあ目のパーツは似てたかも。でも、そもそもが違うっていうか」
さすがに朝宮も天のことを好きになってしまっただろうか。だって顔は似てるから。
そしたら、出来がいいほうを選びたいはずだ。それなら天がいいに決まっている。俺には何もないから。
「うん、間山はやっぱり可愛い」
「……は?」
なんでそうなるんだ。結論づけられたけど全くもって納得がいかない。
「間山のツンツンか。俺もされたい」
「変な願望を見せなくていいから」
こうなるとは、正直思わなかった。でもそれは、朝宮を今までの人たちと一緒だと、俺が勝手に見誤っていただけの話で。
「間山の家族に会えてよかった」
「え?」
「間山の一部が見れたみたいで嬉しいし。ほら、兄離れとか。昔も可愛かったんだろうなと思って」
可愛くなんてなかった。俺をそう思う人なんて、きっと朝宮ぐらいだ。
「……兄貴は、なんでもできるんだよ。俺とは備わってるものが違うっていうか。スペックが高くて、みんなから期待されて」
俺はそうじゃないから――と続けようとして止めた。
そんなことを言っても朝宮を困らせるだけだ。
「じゃあ、俺は間山のことが好きになれてよかった」
自然と顔を上げた。気分が落ちるにしたがって、下を見ていたらしい。けれど朝宮の声で、ハッと見上げてしまう。
「俺は間山だから好きになったんだよ」
さらりと、手首に触れる朝宮の長い指。
「間山のいいところを俺は知ってるつもりだから」
そんなことを言ってもらえるとは思わなかった。朝宮はどうして俺がほしい言葉ばかりをくれるのだろう。
なんで、朝宮と一緒にいると心地いいと思うんだろう。
「あのさ」
「ん?」
「朝宮って……俺がどんな奴でも好きになってた?」
気がついたら、そんなことを口にしていた。
だから余計な情報を入れないでほしい。そりゃあ昔に比べて天にくっついて回ることはなくなったけど、今もそんなことをしていたら、それはそれで鬱陶しいはずだ。天はそうは思わないかもしれないけど。
「あ、やばい。俺バイトだったんだ。じゃあ」
天は爽やかな笑顔でバタバタと忙しなく去って行く。その背中が遠くなっていくのを見送っていると「似てないな」と隣で声が落ちてくる。
その一言が、妙に胸をざわりとさせた。
「似てない」、それは今まで何度言われてきたことだろう。
比較されることには慣れている。俺は天とは似ていない。俺が欲しいものを全部持っているのが天だ。
「あー……うん。兄貴はなんていうか、根っからの陽キャだから。見た目は多少似てるらしいけど、中身が全然っていうか」
「見た目?」
顎に手を添えて朝宮は「うーん」と言った。
「まあ目のパーツは似てたかも。でも、そもそもが違うっていうか」
さすがに朝宮も天のことを好きになってしまっただろうか。だって顔は似てるから。
そしたら、出来がいいほうを選びたいはずだ。それなら天がいいに決まっている。俺には何もないから。
「うん、間山はやっぱり可愛い」
「……は?」
なんでそうなるんだ。結論づけられたけど全くもって納得がいかない。
「間山のツンツンか。俺もされたい」
「変な願望を見せなくていいから」
こうなるとは、正直思わなかった。でもそれは、朝宮を今までの人たちと一緒だと、俺が勝手に見誤っていただけの話で。
「間山の家族に会えてよかった」
「え?」
「間山の一部が見れたみたいで嬉しいし。ほら、兄離れとか。昔も可愛かったんだろうなと思って」
可愛くなんてなかった。俺をそう思う人なんて、きっと朝宮ぐらいだ。
「……兄貴は、なんでもできるんだよ。俺とは備わってるものが違うっていうか。スペックが高くて、みんなから期待されて」
俺はそうじゃないから――と続けようとして止めた。
そんなことを言っても朝宮を困らせるだけだ。
「じゃあ、俺は間山のことが好きになれてよかった」
自然と顔を上げた。気分が落ちるにしたがって、下を見ていたらしい。けれど朝宮の声で、ハッと見上げてしまう。
「俺は間山だから好きになったんだよ」
さらりと、手首に触れる朝宮の長い指。
「間山のいいところを俺は知ってるつもりだから」
そんなことを言ってもらえるとは思わなかった。朝宮はどうして俺がほしい言葉ばかりをくれるのだろう。
なんで、朝宮と一緒にいると心地いいと思うんだろう。
「あのさ」
「ん?」
「朝宮って……俺がどんな奴でも好きになってた?」
気がついたら、そんなことを口にしていた。

