「俺は間山が好きだから、さっきのも嫉妬する。本気だから」
 真っ直ぐに見られて呼吸が止まるかと思った。
 ああ、俺はまた失敗してしまった。
 朝宮の気持ちを軽視していたわけじゃない。俺なりに受け止めてきたつもりで、それを無碍にしようと思ったことはない。
 だけど朝宮は俺が思っていた以上に好きだって思ってくれているわけで、それは本気だった。
 そのことを、俺はまだ自覚できていなかったのかもしれない。
「ごめん、面倒で」
「そんなことない。朝宮の気持ちは……ちゃんと受け止めたいから、こうやって言ってほしい」
 もっと感情を向けてほしい。柔らかいだけじゃなくていいから。
「俺、なかなか気づけないから。だから思ったことは言ってもらえたらうれしいタイプっていうか。朝宮のことも面倒だなんて思ったりしないから」
 これが正しいのかも分からなくて、朝宮に申し訳なくなる。
 それでも朝宮は、ん、とやっぱり柔らかく言った。抑え切れない愛情だけを宿した瞳で、本気だと、懸命に伝えるように。

「ここ、俺の家だから」
 朝宮から家まで送ると言われて、何度か断った。
俺と朝宮は家が真逆で、だから電車も同じく逆方向だ。それなのに朝宮は「俺がまだ間山と一緒にいたいだけ」と言い、譲らなかった。
「それに、これも償わせてほしいから」
 俺の手首を労わるようにそっと撫でる。
 赤い痕があるそこには、まだ朝宮の気持ちが鮮明に残っている。それを見て、断りたくはなかった。送ってくれるという行為で、朝宮の気持ちが軽くなってくれるなら、甘えてしまおうと思ったのだ。
 家の前で別れようとしたところで、ちょうど家の玄関が開き、天が出てきた。
「あれ、晴だ。おかえ……り?」
 天が俺の隣に立つ朝宮を見て首を傾げた。それから「ああ」と納得したように目を輝かせる。
「晴の友達か。兄貴の天です」
「朝宮光星です、間山とはクラスメイトで」
「じゃあ晴と同い年か。晴が友達連れてくるなんて母さんが知ったら喜ぶだろうなあ。母さーん!」
「いや、呼ばなくていいから! それに今日はパートでしょ」
「あ、そっか。俺だけが喜ぶなんてもったいないからさ。あがってあがって」
「送ってもらっただけなんだって」
「送るって晴を?」
 おや、と不思議そうにしている。
それもそうか、男子高校生が男子高校生を家まで送る状況はやっぱり疑問に思うことなのかもしれない。
 なんて言おうか考えていると。
「間山が可愛いんで、狙われるんじゃないかと俺が心配したんです」
 真顔で朝宮が言い出すものだから、ぎょっとしてしまう。
 さすがの天も「可愛い」と朝宮の言葉をなぞっていたが、そのあとはにこりと微笑んだ。