枕に顔を埋めて、それからスマホをずるずると取り出す。
なにも考えずにSNSの画面をスクロールしていけば、「やめろ」という声とともに朝宮が出てきて思わず手が止まった。どうやら常川田が以前撮影した動画が誰かに画面録画され拡散されているらしい。
そういえば、常川田が前に朝宮から怒られたとか言ってたな。もしかしてこの動画のことだったのか。
コメント欄を見れば「レべチすぎ笑」「さすがにイケメンすぎて草かよ」「男の俺でも惚れる」「撮ってくれたお友達さまありがとう」などという絶賛の声で溢れかえっている。
こうして見ると、住む世界が違うのだなと実感する。
それは当たり前のことで、初めから分かっていたことじゃないか。
それなのに、どうして心が変に痛もうとするのだろう。感情の抱き方が見つからない相手に、俺はどうしたらいいの。
「え、榊ってばまた別れちゃったの?」
後ろの席から聞こえてきた声に、俺は思わず耳を澄ませていた。
いつの間にか、朝宮の席に常川田と榊が集まるようになっていた。
元々、朝宮が行くところにふたりが面白がってついていくといった構図をよく見かけていたが、最近のお気に入りはここらしい。
つまり三人の会話が丸聞こえというわけだ。
「気になる子がいるって」
「向こうが? 一途そうに見えたのに」
「いや、俺が」
お前かよ、という榊へのツッコミは誰もしなかった。会話に入っていない俺でさえぐっとこらえたぐらいだ。
「またそのパターン? 榊って今まで彼女と付き合って最長何か月?」
「二……いや、三か」
「二か月とか三か月ぐらいってことか。それならまあフツウかなあ」
常川田が納得したように言うと「違うだろ」と朝宮が言った。
「二週間から三週間じゃねえの」
「そう」
当たり前のように榊がうなずくものだから、俺は驚きを隠せない。最長がそれって、短かすぎないか。なんて俺が言ったところでどうにもならないけど。
「榊っていい意味でストライクゾーン広いからなあ。今度は誰が気になってんの」
「わんさか」
「最低じゃねえか」
聞いて呆れてしまう。わんさか、という答え方はいかがなものか。いや、これは余計なお節介だな。人を好きになれるというのはある意味才能だ。
「ああ、間山はいいかも」
「は!?」
突然俺の名前が出てきて勢いよく振り返ってしまった。
「間山はいいんだ」
常川田が面白く反応した中で、「おい」とドスが利いた声がする。これはいつの日だったかバルコニーに閉じ込められたあとに聞いたことがある類の声だ。
「お前、それ次言ったら殺すぞ」
「本気なのに」
「……ふざけてんのか」
「間山の独り占めはどうかと思う」
「うるせえよ」
「朝宮ガチギレじゃん。間山、面白いことになったね」
バチバチになりかけた光景を、常川田はよくもまあ笑っていられるものだ。
「いや、なってないんだけど」
やめてほしい。男子校で同学年の女の子がいないから飢えてんのか。
そうじゃなくても榊はモテるほうなのに、よりにもよってなんでこっちに火種が飛んでくるんだ。やめてくれ。
なにも考えずにSNSの画面をスクロールしていけば、「やめろ」という声とともに朝宮が出てきて思わず手が止まった。どうやら常川田が以前撮影した動画が誰かに画面録画され拡散されているらしい。
そういえば、常川田が前に朝宮から怒られたとか言ってたな。もしかしてこの動画のことだったのか。
コメント欄を見れば「レべチすぎ笑」「さすがにイケメンすぎて草かよ」「男の俺でも惚れる」「撮ってくれたお友達さまありがとう」などという絶賛の声で溢れかえっている。
こうして見ると、住む世界が違うのだなと実感する。
それは当たり前のことで、初めから分かっていたことじゃないか。
それなのに、どうして心が変に痛もうとするのだろう。感情の抱き方が見つからない相手に、俺はどうしたらいいの。
「え、榊ってばまた別れちゃったの?」
後ろの席から聞こえてきた声に、俺は思わず耳を澄ませていた。
いつの間にか、朝宮の席に常川田と榊が集まるようになっていた。
元々、朝宮が行くところにふたりが面白がってついていくといった構図をよく見かけていたが、最近のお気に入りはここらしい。
つまり三人の会話が丸聞こえというわけだ。
「気になる子がいるって」
「向こうが? 一途そうに見えたのに」
「いや、俺が」
お前かよ、という榊へのツッコミは誰もしなかった。会話に入っていない俺でさえぐっとこらえたぐらいだ。
「またそのパターン? 榊って今まで彼女と付き合って最長何か月?」
「二……いや、三か」
「二か月とか三か月ぐらいってことか。それならまあフツウかなあ」
常川田が納得したように言うと「違うだろ」と朝宮が言った。
「二週間から三週間じゃねえの」
「そう」
当たり前のように榊がうなずくものだから、俺は驚きを隠せない。最長がそれって、短かすぎないか。なんて俺が言ったところでどうにもならないけど。
「榊っていい意味でストライクゾーン広いからなあ。今度は誰が気になってんの」
「わんさか」
「最低じゃねえか」
聞いて呆れてしまう。わんさか、という答え方はいかがなものか。いや、これは余計なお節介だな。人を好きになれるというのはある意味才能だ。
「ああ、間山はいいかも」
「は!?」
突然俺の名前が出てきて勢いよく振り返ってしまった。
「間山はいいんだ」
常川田が面白く反応した中で、「おい」とドスが利いた声がする。これはいつの日だったかバルコニーに閉じ込められたあとに聞いたことがある類の声だ。
「お前、それ次言ったら殺すぞ」
「本気なのに」
「……ふざけてんのか」
「間山の独り占めはどうかと思う」
「うるせえよ」
「朝宮ガチギレじゃん。間山、面白いことになったね」
バチバチになりかけた光景を、常川田はよくもまあ笑っていられるものだ。
「いや、なってないんだけど」
やめてほしい。男子校で同学年の女の子がいないから飢えてんのか。
そうじゃなくても榊はモテるほうなのに、よりにもよってなんでこっちに火種が飛んでくるんだ。やめてくれ。

