「捕まると思わなかった」
 帰りは提出していなかった英語のプリントのせいで補習になってしまった。
 どう考えても自業自得でしかない。一気に押し寄せた疲労感の中、最寄り駅へとたどり着き、改札を抜けようとしたところで――。
「好きです!」
 大音量で聞こえて、思わず足を止めた。
 こんなところで告白?
 俺だけではなく、周囲にいた人間も同様に考えたらしい。公衆の面前で、これだけ好きをアピールできるのはどんな強者だ。
 それとなく視線で辿ったところで、ホームへと続く階段近くで告白の現場を見つけてしまった。そして一瞬で、そこにいるのがよく見知った顔で二度見する。
「あー……」
 好意を向けられている相手がまさかの朝宮で驚いてしまう。
 そうか、最近一緒にいるから忘れてたけど、朝宮って女の子からモテにモテまくるんだよな。
 あまり見てはいけないと思いつつも、どうしても気になってしまう。自販機に隠れるようにして様子を見るという格好になってしまった。
 それにしても、強者だと思っていた女の子は、朝宮の前でガチガチに固まり、目をこれでもかと強く瞑っていた。
 あ、緊張で声量がコントロールできなかっただけか。勇気を振り絞った結果、周囲を巻き込む告白となってしまったらしい。
 分かるよ、俺も声は小さいほうだから、大きな声を出そうと思ったら変にボリュームが出るんだよね。
「悪いけど」
 朝宮の声が聞こえる。
「こういうの、やめてほしい」
「え……」
「迷惑だから」
 スパンッ。断ち切られたその告白に、女の子は時間が止まったようにさらに固まった。さすがにそれは冷たすぎ……いや、でも今のは――。
「……そ、それは言いすぎでしょ!」
 突然、女の子はキレてその場を去っていった。泣いてしまうんじゃないかと心配したけれど、どうやら杞憂に終わったらしい。
 強い子でよかった。俺だったら多分、泣くのを堪えきれなかったはずだ。
「また酷い振り方してんねえ」
 はっとして振り返れば、そこには常川田がいた。コンビニで調達したのか、その手にはアイスが握られている。
「あれが通常で、間山に見せてる顔が異常なんだよ」
 常川田がパクパクとアイスを頬張りながら解説をした。
「い、異常……?」
「間山に見せるあんな猫かぶりの朝宮、俺見たことないし」
 そうなのか。それは知らなかった。
 朝宮は、はあ、と息をついてそれからホームへ続く階段を下りていく。その背中は一体何を考えているのだろう。