それがいつものノリなのか、朝宮は榊の写真フォルダーに保存されていた動画や写真を自分に送信し、その後全てを消去した。
「あ、ちゃっかり自分にだけ送ってるし」
 それは常川田と意見が一致している。俺も思った。
「俺はいいんだよ。張本人だし。これで土日は生きていけるし」
 どう生きていけるというんだ。人間はそれだけでは生存していけないことぐらい、頭のいい朝宮なら理解しているはずだろう。
 密かなツッコミをしたところで、朝宮とバチっと目が合った。
「間山もいる?」
「ッ……だ、大丈夫デス」
 俺らで仲良くそのデータを持っていたら、さすがにおかしいだろ。……ん? おかしくないのか? もう感覚がバグってきてる。
「もしかして嫌だった?」
「え?」
「間山が嫌ならすぐ消す」
 あ、まただ。
 常川田や榊に向けた鋭(えい)利(り)な刃物のような声色はもうどこにもない。
 そこにあるのは、ただ俺の思いを第一優先に考えてくれるやさしい朝宮だけ。
 そのどこまでも底のないやさしさに触れるたびに、朝宮に抱く感情が色濃く増していく。親友、ではない。だからといって好きと当てはめていいものなのかも分からない。
「……消さなくていいよ。朝宮が持っててくれるだけなら」
 恥ずかしさで『勝手にしていい』とこれまでだったら答えていたかもしれないけれど、今は朝宮にちゃんと届く言葉を選んで、俺なりに朝宮を大切にしたい。
 それは朝宮が俺を大切にしてくれる意味とはまた異なるだろうけれど、俺なりに、俺ができる形で、向けられている好意を傷つけたくはない。
 朝宮は、少し驚いた様子で僅かに目を見開いた。俺がこんなことを言い出すとは思わなかったのだろうか。
「間山がいつも以上に俺にやさしい」
「そ、そうかな?」
 そこに常川田と榊が、まるで『よかったな』と言わんばかりに、朝宮の背中を叩く。
 しかも教室全体が祝福ムードに染まり始める。「おめでとう」と誰かが涙ぐんでいるが、どう考えても俺だけがこの空気についていけていない。おめでとう、じゃないんだよ。