「邪魔すんな」
 そして、ひとりご立腹なのが朝宮だ。
さっきスルーしたけど、イチャイチャすんなと言われたとき、舌打ちをしていたのを俺はバッチリと聞いている。
「だって朝宮、最近俺らといるより間山と一緒にいる時間のほうが長くない?」
 常川田が榊に同意を求めると「俺らじゃ興奮しなくなったんだろ」と言い始める。
「お前らにするほうが頭おかしいだろ」
 何割か増しで俺といるよりも朝宮の口調が悪くなってる。そっか、俺の前ではちょっと猫をかぶってたんだな。
「うーん、朝宮が執着するぐらいだもんなあ」
「しゅ、執着かは……」
「ぶっちゃけ朝宮のことどう思ってんの?」
 にこにこと子どものように笑いかけてくる常川田に、いや、とこめかみを掻く。それを本人の前で聞いてくんのか。さすがコミュ力おばけだ。
 朝宮も答えが気になるのか、割って入ってこないし。榊に至っては「やっぱ全身脱毛したほうがいいよな」などと全く別のことを考えている。
「どうっていうのは」
 それは俺が一番知りたいことだ。
 友達かと聞かれたらちょっと違うような気もするし、かといってただのクラスメイトかって言われても違う気がする。
 ぴったりと当てはまる関係性が見つからないままだ。
「お前ら遊ぶな」
 そのとき、教科担任の注意が入ったことで、自然と話は流れていった。
 ほっとひと息ついたけれど、もやっとした何かが残る。俺は安心したけど、朝宮にとってはどうだったんだろうか。
「朝宮、次だって」
「んー」
 朝宮はクラスメイトに呼ばれ、持久走のスタート地点へと向かう。その背中がだんだん遠くなっていくのを見つめながら、そういえば朝宮が近くにいることがすごいことだったんだよなと思い出す。
 だってあの朝宮だ。
基本的になんでもできて、ふつうにイケメンで、存在感しかなくて。
 グラウンドに笛の音が響くと、並んでいた四人が一斉に走り出す。その中でも群を抜いて早いのが朝宮だった。
「朝宮、ぶっちぎりで一位じゃん」
「当たり前だろ」
 走り終わっても息が切れていない。常川田に褒められても、すんとした顔を見せるくせに、俺と目が合えば、その表情は柔らかくなる。
「次は間山の番だよ」
「あっ、う、うん」
 話しかけられると、嬉しいとは思う。
でもそれって、友達とは何が違うんだろう。