「間山って身体柔らかいの?」
「いや、かなり硬い」
「じゃあ加減ってしたほうがいい?」
「してくれたら助かるけど……」
 開脚している俺の背中を、朝宮がぐいぐいと押してくる。
「ちょちょちょ、ギブ!」
 さっきまでの会話は一体なんだったんだ!?
 俺、ちゃんと身体が硬いことも、加減してくれってことも頼んでたよな!?
 それなのに、朝宮は遠慮なく俺の背中をこれでもかと押してきて、挙句の果てには片膝までのせるという鬼畜な技までくり出してきた。
「間山って硬いんだな。もうちょっといけそうだけど」
「だッ、だからギブ……!」
 採点しろって言われたときは俺に甘いくせに、こういうときだけ謎にSを発動してくるところも困りものだ。俺はそういうのを求めていない。
「はい、あと一〇〇秒」
「だ、か……ら、むり、われる……さけるッ」
 スパルタすぎんだろ。可哀想だと微塵も思ってくれないじゃん。
「交代! 朝宮が下!」
「もう終わりか」
 不服そうに今度は朝宮が座る。手を前に出したが、そこから進もうとしない。
「どうした? もしかしてやらないパターン?」
「いや、全力でやってる」
「え?」
どこからどう見ても動いていない。前に傾かないし、背中も気持ち丸まった程度だ。これで前屈をやってますは、さすがに無理がある。
「俺より硬くない?」
「俺、柔らかいとは言ってないよ」
 たしかにそうだ。その発言をしたのは俺だけど、それにしても意外だ。
「……因果応報って知ってる?」
「間山、なんか企んでんの?」
 さっきあれだけやられたんだから、多少はお返しをしてもいいはずだ。
 朝宮の背中に両手を置く。そういえば朝宮に俺から触ったのは初めてだ。うん、やっぱりでかい背中。
「人に散々やったんだから、ちゃんと報いは受けないとな」
 ぐいぐいと背中を押せば「たんま」などと聞こえてはくるが、お構いなしに続ける。
 俺だってギブ宣言しても止めてもらえなかったんだから、ちゃんとお返しをしないと。
 調子にのって押し続けていると、するりと手が滑り、朝宮にもたれるような体勢になった。すぐ近くで、綺麗な瞳が視界に入り、それから整った顔に息が止まる。
「あ……ッ! ご、ごめん」
 これはやりすぎた。さすがに朝宮も怒るか。
 身を引こうとすれば、手首をがしっと掴まれる。
「もうちょっとこのままで」
「このままって……」
 この体勢を続けるってこと?
 だとしたら、これはやばい。
 変な話、俺が朝宮に抱きついているとしか見えないような状況だ。これはあくまでも事故であって、こんな展開にしたかったというわけじゃないことをどう説明すればいいんだよ。
「おーい、イチャイチャすんな」
 すぐ隣から聞こえてきて、朝宮から離れた。手首もそのタイミングで解放される。
「お前ら、最近すげえ仲いいよな」
常川田から不思議そうに声をかけられた。
「間山はいつから朝宮と仲いいの?」
 しかも話を朝宮じゃなくて俺に振ってくるあたり、コミュ力がとんでもない。
 そういえば、入学当初は一匹狼だった朝宮といつの間にか友達になっていたな。SNSでは有名なようで、インフルエンサーというやつらしい。よく写真を撮っているのを見かけるし、常川田自身がおしゃれさ全開だ。
「盛るなら俺が見える場所でやってくれ」
 その後ろに、榊。変態なのに彼女が途切れたことがないという武勇伝を持つ男。今の発言にこの男の全てが詰まっているような気がする。