「マリシス殿下、こちらは色違いでございますね。どちらをどちらへお渡しいたしましょう?」

「……そうだな、うーん……。アナの銀髪は透けるようだから、瞳と同じ緑。トリアージェの銀髪は顔周りが濃いだろう? だから紺が似合うと思うんだ」

「承知いたしました。ほんとお可愛らしいこと。これを付けてお散歩に出られる姿、容易に思い浮かびますわ。このお寝巻きも、殿下からのプレゼントと伺いましたが。色違いで三十着とは、ずいぶんとお気に召したようで?」

私たちの小さな身体を包む寝間着は、クリーム色の綿製で、とっても柔らかくて肌あたりがいい。
通気性も抜群なことから察するに、前世で言うところのガーゼ素材だろうか。

「自分でも不思議なくらい甘やかしたくなるんだ。俺……二人を嫁に出すなんてできないと思う。考えたくもないよ」

私たちは聞き逃さなかった。
マリシス兄様がさらりと口にした『嫁に出せない』——その一言を。

「…………(トリアージェ、起きてる?)」
「…………(うん、たったいま起きたわ)」

「…………(聞こえたわよね?「嫁に出すなんてできない」って)」
「…………(ええ、聞こえた。マリシス兄さま、サイッコー!!)」

「…………(先ずは、この人と仲良くなりましょう)」
「(そうね、まかせて!!)うあぁーーーん、あーん、ふぇーーーん、ぐすっ……うっうっ」

トリアージェ、得意のガン泣きである。

美しすぎる兄様は、途端に表情を蒼白へと変えた。
慌てた様子で玩具箱に走ったかと思うと、クマのぬいぐるみとガラガラ鳴る木製の玩具を手に、足早に戻ってきて。アマンダの手を借りながら、なんとか私たちをあやそうとする。

眉間にシワを寄せる表情ですら美しい。