「うあぁーん、あーんあーん(喉が渇いたわよぉ〜なんで誰もいないのよ!?)」

「…………(え?いま喉が渇いたって言った?)」

妹のトリアージェがうるさく泣くから見ていたら、泣き声に掻き消されそうになりながらも「喉が渇いた」って言葉が聞こえた。

——うん、普通に意味わかった。

だから心の中で、素直に『え?』って呟いちゃったんだけど。
その『心の声』が想定外に、誰かさんの心にも響いたらしい。

トリアージェがピタリと泣き止んで。
ぐりんと顔をこちらに向けて、こう返してきたの。

「……え!?いま『え?』って言った??……ねぇ!言ったわよね!?」


——その瞬間、運命の歯車が、カチリと音を立てて動き出した。


「……えぇーむぅーおぁー(ねぇ、もしかしてお姉様も死に戻り?)」

「んむぅ〜てぇーてぇー(ううん、違う。私は異世界転生)」

「「……っ!?(ま、まさか私たちって……二人とも二度目の人生なの!?)」」

——ふたり同時に心の中で叫び、目と目を合わせた。

そうしてこの日、双子の姉妹——アナスタシアとトリアージェは、互いが『人生二度目』だということを悟ったのである。

しかも──!!

《心の声で会話できるチート能力付き☆》だった。


 ◇

肌触りの良い高級真綿のベビー服は桃色で、白いフリルの襟が可愛い。
もちろん二人お揃い。

無垢材のベビーベッドは真っ白だけれど、彫刻された紋章には金箔。
同じく彫刻された薔薇の飾りは、空色や桃色に塗られていて。

とっても女の子らしい、煌びやかで可愛いものばかりが目に飛び込んでくる。

見渡す限り贅を尽くした空間。
それでいて品も兼ね備え、趣味の良いセンスが光る空間。

ここは言うまでもなく、極めて身分の高い赤ん坊たちの部屋だ。

ルヴェルディ帝国初の双子にして初めての皇女——アナスタシアとトリアージェの子供部屋。

そして先ほどの会話は、まさにこの二人によって交わされた、現実のやりとりなのである。


 ──《つづく》