「先輩ってなんで部長候補になってるんですか?」
僕がそう尋ねると、向かいに座っていた荒垣先輩は、腕を組んだまま固まった。
「えっとねえ、あ〜、千尋〜! 説明して〜。」
「もうダメダメだな〜。じゃあ、教えてあげる。」
そう言ったのは、隣にいた宮坂先輩。2年生で、しっかり者って感じの人だ。
「なんで俺はここにいないといけないんだ?」
ぼそっと漏らしたのは三枝先輩。トロンボーンパートの3年で、最初は怖い人かと思ってたけど、意外と優しい。
「ほら、後輩とも仲良くしたほうがいいでしょ。」
部長がニヤッと笑いながら、三枝先輩の肩をぽんと叩いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さかのぼること1時間前。
この日は、本来なら通常練習だった。でも、顧問の先生が急用で不在になり、部活は急遽中止に。
放課後、部室に寄って荷物を取って帰ろうとしていたとき、音楽室の前を通ったら――
「おーい、雑談会やるぞー!」
「……へ?」
三枝先輩の声が聞こえてきた。目を合わせる間もなく、腕をつかまれ、そのまま音楽室に押し込まれる。
「雑談会って……?」
「おー! よく来てくれた! 色々とすでに有名な1年よ!」
「有名……?」
「ともかく、先生に頼み込んで、部員全員仲良くするために会を部長の私が開いてあげたのだ。感謝してね!」
目の前で得意げに語っているのは、先輩。3年生で、今の部長。
……え、部長ってこの人だったっけ?
ていうか、こんな感じの人だったっけ?
音楽室の中には、宮坂先輩も荒垣先輩もいた。1年生もちらほら見かける顔がある。
「え、雑談って何を?」
「決まってるじゃない。雑談だよ。」
答えになってねー。
とりあえず断る理由も見つからず、そのまま席に着いた。窓の外では夕陽が差し込んでいて、音楽室の中は、部活の時とはちょっと違う、ゆるい空気に包まれていた。
こんなふうに、みんなとゆっくり話すのは初めてかもしれない。
あの事件のことも、少しは吹っ切れるかもしれないしな。
= = = = = = = = = = = =
今日は先生がいなくて部活がない。だから、ちょっと悲しいけど、家で暇していることにした。私意外と部活好きだからなくなると悲しいんだよな。
そう思いながら3年生の先生に用事があってC棟へいき、音楽室の前を戻ってきたところ…
「あ、こはるいた!なんか、部長が雑談会を開くらしいから一緒に行こうよー。まあ、この教室でだけど。」
「雑談会って何するの?」
「知らな〜い、雑談でもしてればいいんじゃない?」
「それ答えになってないよ、千尋」
私たちは笑いながら教室へ入る。
= = = = = = = = = = = =
音楽室の中は、なんとも言えない空気に包まれていた。
部活の練習中とはまったく違う。誰も楽器を持っていないし、イスもパートごとの並びじゃない。適当に机をくっつけている。先生がいないせいもあるけど、ゆるくて、ちょっと騒がしい。
「じゃあさ、せっかくだし、自己紹介から行こっか!」
真ん中の席に座った宮坂先輩が、手を叩いて声を上げた。
どうやら進行役を買って出たらしい。
「ええ〜、自己紹介とかもう終わってるじゃん。」
ぶつぶつ言ってるのは、三枝先輩。
でも誰もそれを気にせず、自然と時計回りに話が回っていくことになった。
「じゃあ私からいくね!」
宮坂先輩がピッと姿勢を正す。
「宮坂千尋です。パートはトロンボーン!2年生です!好きな飲み物はミルクティー!最近の悩みは、寝る前に動画を見すぎて寝不足なことです!」
「それ、部活関係ない……」
誰かが突っ込むと、笑いが起きた。
次は、部長。
「はいはいはいっ、じゃあ次はわたし!名前は、えー、まだ知らない子もいると思うけど、3年の部長やってます。クラリネットパートです!……名前はあとで覚えて!」
「なんで!? 名前大事でしょ!」
「えへへ〜、後で質問コーナーとかで当ててくれたら褒めるよ?」
完全に場を回すのが上手いというか、自由人というか……。
でも、こういうタイプが上にいると、楽しいのかもしれない。
「はい、じゃあ次、そこの無口な男!」
「……俺かよ。」
渋々と前を向いたのは、三枝先輩だった。
「三枝です。3年。トロンボーンパート。以上。」
「短っ!」
「だって、言うことないし」
三枝先輩は顔をそらして窓の外を見た。
でも、その口元がわずかに笑っているように見えたのは、たぶん気のせいじゃない。
意外に面白い先輩なのかもしれない。
「じゃあ、私が次ね」
そう言ったのは、髪をゆるく結んだ女の先輩。ちょっと大人っぽい雰囲気。
「3年の谷垣です。パートはトロンボーン。趣味は読書。最近は推理小説にハマってます。」
続いて、もう一人の3年の女子。
「じゃあ、大島いきまーす。3年のトロンボーンです。好きな食べ物はイチゴタルトで、休みの日はよくカフェ巡りしてるよー。あ、でも見た目ほどおしゃれじゃないから期待しないでね〜」
「えー、でも先輩おしゃれだと思います!」
誰かが言うと、先輩は
「ありがと〜!」
と答えていた。
知らないことだらけだった。例えば荒垣先輩は学区から外れている小学校から来たとか、トランペットの変な先輩三名の意味不明な行動とか。ジャージのポケットの中に筆記用具を入れている人なんて初めて見たわ。
こうして、先輩たちの自己紹介が一通り終わると、1年生にも順番が回ってくる。
それぞれが簡単に名前とパートを言っていき、最後に僕の番が来た。
「えっと……、1年の和田陽介です。トロンボーンパートです。……まだ全然下手ですけど、頑張ります。えっと……、よろしくお願いします。」
「真面目〜! かわいい!」
「よっ、吹奏楽の天才!」
何か色々言われていて恥ずかしかったが、
「ほら、仲良くできたじゃん?」
誰かがからかうように言って、みんなが笑った。
そして、そのタイミングで、部長がパチンと手を叩いた。
「じゃあここで、質問コーナーいっちゃおうかな〜!」
「えっ、質問コーナーってなに?」
「つまり!この中で“ちょっと気になってること”を自由に質問してもらうコーナーです!内容は部活のことでも、そうじゃなくてもオッケー!ただし!変な質問は禁止ね!」
「変な質問って何?」
「それを聞くのが変な質問だよ、和田くん!」
「えぇ……」
笑いが広がる中、誰からともなく質問が飛び交い始める。
「部長って、普段なに食べてるんですか?」
「なんでそれ!? まあいいや、朝はパン派だよ!」
「三枝先輩って、怒ると怖いんですか?」
「昔はめっちゃ怖かったらしいよ〜」
「おい、誰だそんなこと言ったの」
「あっ、和田くん! 何か質問ある?」
「えっ、ぼくですか? ……えっと、じゃあ……」
少し迷ってから、思い切って聞いてみた。
「先輩って、なんで部長候補になってるんですか?」
一瞬、場が静まった。
部長――笑顔が特徴的な、ちょっと破天荒な先輩は、腕を組んだまま、数秒固まった。
そして――
「えっとねえ、あ〜、千尋〜! 説明して〜。」
「もうダメダメだな〜。じゃあ、教えてあげる」
隣にいた宮坂先輩が、肩をすくめながら言った。
その場の空気が、ふっとほぐれる。
「なんで俺はここにいないといけないんだ……」
三枝先輩がぼそっとつぶやいたのを聞いて、部長が笑いながら背中を叩く。
「ほら、後輩とも仲良くしたほうがいいでしょ?」
笑いが再び広がる。
夕暮れの音楽室は、どこかあたたかくて――
ちょっとだけ、ここにいてよかったと思えた。
= = = = = = = = = = = =
いや〜、楽しかった!和田くんについても色々しれたし。
だけどこんなに大きく前のループとはずれているのはいいことなのだろうか。
私はまだ不安でいっぱいだけど、6月に辞めなさそうってのはいいことだな。
もうループしないの…かな?
僕がそう尋ねると、向かいに座っていた荒垣先輩は、腕を組んだまま固まった。
「えっとねえ、あ〜、千尋〜! 説明して〜。」
「もうダメダメだな〜。じゃあ、教えてあげる。」
そう言ったのは、隣にいた宮坂先輩。2年生で、しっかり者って感じの人だ。
「なんで俺はここにいないといけないんだ?」
ぼそっと漏らしたのは三枝先輩。トロンボーンパートの3年で、最初は怖い人かと思ってたけど、意外と優しい。
「ほら、後輩とも仲良くしたほうがいいでしょ。」
部長がニヤッと笑いながら、三枝先輩の肩をぽんと叩いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さかのぼること1時間前。
この日は、本来なら通常練習だった。でも、顧問の先生が急用で不在になり、部活は急遽中止に。
放課後、部室に寄って荷物を取って帰ろうとしていたとき、音楽室の前を通ったら――
「おーい、雑談会やるぞー!」
「……へ?」
三枝先輩の声が聞こえてきた。目を合わせる間もなく、腕をつかまれ、そのまま音楽室に押し込まれる。
「雑談会って……?」
「おー! よく来てくれた! 色々とすでに有名な1年よ!」
「有名……?」
「ともかく、先生に頼み込んで、部員全員仲良くするために会を部長の私が開いてあげたのだ。感謝してね!」
目の前で得意げに語っているのは、先輩。3年生で、今の部長。
……え、部長ってこの人だったっけ?
ていうか、こんな感じの人だったっけ?
音楽室の中には、宮坂先輩も荒垣先輩もいた。1年生もちらほら見かける顔がある。
「え、雑談って何を?」
「決まってるじゃない。雑談だよ。」
答えになってねー。
とりあえず断る理由も見つからず、そのまま席に着いた。窓の外では夕陽が差し込んでいて、音楽室の中は、部活の時とはちょっと違う、ゆるい空気に包まれていた。
こんなふうに、みんなとゆっくり話すのは初めてかもしれない。
あの事件のことも、少しは吹っ切れるかもしれないしな。
= = = = = = = = = = = =
今日は先生がいなくて部活がない。だから、ちょっと悲しいけど、家で暇していることにした。私意外と部活好きだからなくなると悲しいんだよな。
そう思いながら3年生の先生に用事があってC棟へいき、音楽室の前を戻ってきたところ…
「あ、こはるいた!なんか、部長が雑談会を開くらしいから一緒に行こうよー。まあ、この教室でだけど。」
「雑談会って何するの?」
「知らな〜い、雑談でもしてればいいんじゃない?」
「それ答えになってないよ、千尋」
私たちは笑いながら教室へ入る。
= = = = = = = = = = = =
音楽室の中は、なんとも言えない空気に包まれていた。
部活の練習中とはまったく違う。誰も楽器を持っていないし、イスもパートごとの並びじゃない。適当に机をくっつけている。先生がいないせいもあるけど、ゆるくて、ちょっと騒がしい。
「じゃあさ、せっかくだし、自己紹介から行こっか!」
真ん中の席に座った宮坂先輩が、手を叩いて声を上げた。
どうやら進行役を買って出たらしい。
「ええ〜、自己紹介とかもう終わってるじゃん。」
ぶつぶつ言ってるのは、三枝先輩。
でも誰もそれを気にせず、自然と時計回りに話が回っていくことになった。
「じゃあ私からいくね!」
宮坂先輩がピッと姿勢を正す。
「宮坂千尋です。パートはトロンボーン!2年生です!好きな飲み物はミルクティー!最近の悩みは、寝る前に動画を見すぎて寝不足なことです!」
「それ、部活関係ない……」
誰かが突っ込むと、笑いが起きた。
次は、部長。
「はいはいはいっ、じゃあ次はわたし!名前は、えー、まだ知らない子もいると思うけど、3年の部長やってます。クラリネットパートです!……名前はあとで覚えて!」
「なんで!? 名前大事でしょ!」
「えへへ〜、後で質問コーナーとかで当ててくれたら褒めるよ?」
完全に場を回すのが上手いというか、自由人というか……。
でも、こういうタイプが上にいると、楽しいのかもしれない。
「はい、じゃあ次、そこの無口な男!」
「……俺かよ。」
渋々と前を向いたのは、三枝先輩だった。
「三枝です。3年。トロンボーンパート。以上。」
「短っ!」
「だって、言うことないし」
三枝先輩は顔をそらして窓の外を見た。
でも、その口元がわずかに笑っているように見えたのは、たぶん気のせいじゃない。
意外に面白い先輩なのかもしれない。
「じゃあ、私が次ね」
そう言ったのは、髪をゆるく結んだ女の先輩。ちょっと大人っぽい雰囲気。
「3年の谷垣です。パートはトロンボーン。趣味は読書。最近は推理小説にハマってます。」
続いて、もう一人の3年の女子。
「じゃあ、大島いきまーす。3年のトロンボーンです。好きな食べ物はイチゴタルトで、休みの日はよくカフェ巡りしてるよー。あ、でも見た目ほどおしゃれじゃないから期待しないでね〜」
「えー、でも先輩おしゃれだと思います!」
誰かが言うと、先輩は
「ありがと〜!」
と答えていた。
知らないことだらけだった。例えば荒垣先輩は学区から外れている小学校から来たとか、トランペットの変な先輩三名の意味不明な行動とか。ジャージのポケットの中に筆記用具を入れている人なんて初めて見たわ。
こうして、先輩たちの自己紹介が一通り終わると、1年生にも順番が回ってくる。
それぞれが簡単に名前とパートを言っていき、最後に僕の番が来た。
「えっと……、1年の和田陽介です。トロンボーンパートです。……まだ全然下手ですけど、頑張ります。えっと……、よろしくお願いします。」
「真面目〜! かわいい!」
「よっ、吹奏楽の天才!」
何か色々言われていて恥ずかしかったが、
「ほら、仲良くできたじゃん?」
誰かがからかうように言って、みんなが笑った。
そして、そのタイミングで、部長がパチンと手を叩いた。
「じゃあここで、質問コーナーいっちゃおうかな〜!」
「えっ、質問コーナーってなに?」
「つまり!この中で“ちょっと気になってること”を自由に質問してもらうコーナーです!内容は部活のことでも、そうじゃなくてもオッケー!ただし!変な質問は禁止ね!」
「変な質問って何?」
「それを聞くのが変な質問だよ、和田くん!」
「えぇ……」
笑いが広がる中、誰からともなく質問が飛び交い始める。
「部長って、普段なに食べてるんですか?」
「なんでそれ!? まあいいや、朝はパン派だよ!」
「三枝先輩って、怒ると怖いんですか?」
「昔はめっちゃ怖かったらしいよ〜」
「おい、誰だそんなこと言ったの」
「あっ、和田くん! 何か質問ある?」
「えっ、ぼくですか? ……えっと、じゃあ……」
少し迷ってから、思い切って聞いてみた。
「先輩って、なんで部長候補になってるんですか?」
一瞬、場が静まった。
部長――笑顔が特徴的な、ちょっと破天荒な先輩は、腕を組んだまま、数秒固まった。
そして――
「えっとねえ、あ〜、千尋〜! 説明して〜。」
「もうダメダメだな〜。じゃあ、教えてあげる」
隣にいた宮坂先輩が、肩をすくめながら言った。
その場の空気が、ふっとほぐれる。
「なんで俺はここにいないといけないんだ……」
三枝先輩がぼそっとつぶやいたのを聞いて、部長が笑いながら背中を叩く。
「ほら、後輩とも仲良くしたほうがいいでしょ?」
笑いが再び広がる。
夕暮れの音楽室は、どこかあたたかくて――
ちょっとだけ、ここにいてよかったと思えた。
= = = = = = = = = = = =
いや〜、楽しかった!和田くんについても色々しれたし。
だけどこんなに大きく前のループとはずれているのはいいことなのだろうか。
私はまだ不安でいっぱいだけど、6月に辞めなさそうってのはいいことだな。
もうループしないの…かな?

