ピンポンパンポーン。

「本日は昼休みはありません。教室外にいる生徒は、速やかにクラスに戻り、先生の指示に従って体育館に集合してください。」

放送が鳴り、皆が急いで教室へ戻っていく。

言っていなかったが、前期の学級委員はすでに決まっていた。1組は大瀬と吉川だ。
大瀬はうるさい男子だが、「人気があるから」という理由だけで選ばれた。
僕も立候補したのに。
女子の方は、吉川ただ一人が立候補して、そのまま決まったらしい。

その学級委員たちは、気だるそうにしながらも、ちゃんと皆を整列させていた。

先生の指示で体育館へと向かい、1年生は左側に寄って座る。
2年生、3年生と徐々に生徒が集まり、体育館内はざわざわと騒がしくなっていった。

「静かにしてください。」
ザワザワ……
「静かにして。」
ザワザワ……
「静かにしろ!」

3回目で、ようやく静かになった。
生徒指導の先生は少しキレ気味だったが、教務主任に軽く制されながら、ようやく全校集会が始まった。

壇上に立ったのは、吹奏楽部顧問の岩田先生だった。

「昨日、ある事件が起こりました。――それは、楽器を壊されるという事件です。しかも、鍵がかかっているはずのケースが開けられ、楽器は潰された状態で放り投げられていました。」

ざわざわと、ざわめきが起こる。

「静かに。目撃者によると、犯人は新1年生とのことですが、まだ証拠は得られていません。なので、全校生徒を本日ここに集めました。」

再び、ざわざわとした波が広がる。

「いちいち喋るのはやめましょう。それでも中学生ですか? 話は最後まで黙って聞くのが普通でしょう。」

岩田先生の言葉が冷たく響く。

「話に戻りますが、新1年生がやったとして――問題は、どういう意図で、どうやってそれを行ったのか、ということです。そこで、楽器倉庫の中で副部長がたまたま見つけてくれたものがあります。……この針金です。」

体育館の空気が、冷えたように静まった。
誰も笑っていない。もちろん僕も。

先生の目が、ゆっくりとこちら側――1年生の列を見渡す。
僕は、少し身を縮めた。
だけど、それは「やましいから」じゃない。ただ、――どうしても気になることがある。

(やっぱり、昨日のあの新入生……)

体験入部のあと、あのとき確かに僕に話しかけてきた新入生。
「まるで初めてじゃないみたいだね」なんて、まるで僕のループを知っているかのような口ぶりだった。

あの人間が、これに関係しているのか。

「ここで重要なのは、ただのイタズラとは考えづらいということです。楽器を壊したのが、単なる衝動や悪ふざけであれば、こんな方法は使いません。」

岩田先生の声が強まる。

「これは――意図的な破壊行為です。人の想いや、時間や、練習の積み重ねを踏みにじる、最低の行為です。」

強い言葉が、体育館に重く響いた。

そのとき――

「すみません、ひとついいですか」

唐突に、誰かの声が体育館に響いた。
一瞬、皆がその声の主を探すように、首をめぐらせた。

立ち上がったのは――あの新入生だった。
昨日、僕に話しかけてきた、あの顔だ。

(なんで……?)

ザワッ、と周囲の空気が揺れる。

「私、ちょっと気になることがあって」

その新入生は、ごく普通のトーンで話し始めた。

「たとえば、その針金って……本当に犯人のものなんですか? たまたま落ちてただけじゃないんですか?」

空気が凍った。

岩田先生が一瞬言葉を詰まらせたのが分かった。

「……どういうことですか?」

「いや、ただ。副部長さんが拾ったんですよね? 拾った場所は金具の下? でも、それって、ほんとに“落ちてた”って言えるのかなって思って。誰かが、わざと置いた可能性もあるでしょ?」

その目が――僕の方を、ほんの一瞬だけ、見た気がした。

(わざと、置いた?)

なにかが、胸の奥でカチリと噛み合う。
その言葉は、明らかに“自分の犯行を否定するため”というよりも、“混乱を生むため”に放たれたものだった。

それに、どこか――試すような、挑発のような目。

(こいつ、僕の反応を……見てる?)

全校生徒の前で、淡々と発言するその新入生を、先生たちはやがて静かに座らせた。
岩田先生は一言、「貴重なご意見として受け取ります」とだけ告げて話を切った。

けれど、それ以降の話が、あまり耳に入ってこなかった。
ずっと、僕の中に残っていたのは、あの新入生の声と、視線と――

あの、意味深な笑みだけだった。