月夜のギャンブラー

「もしかして、彼女?」
「いえ、そういう訳では……」

明らかな動揺。
歯切れも悪い。

そうだよね。
こんなイケメンに彼女がいない訳ないよね。

「ねぇ、私の事は結構話したからさ、君の話を聞かせてよ」
「いやいや、大した話は無いですよ。それに、僕はまだ、本当にお姉さんは悪くないのか考え中です」
「えー! 今の話で私が悪者になる要素ある?」
「あはは、ないですね。でも、彼氏さんもそんなに悪くないと思います」
「え?」
「元カノが一番の悪かと……」
「まぁ、確かにそれはそうかも」
「じゃあ、引き分けという事で、彼氏さんに連絡してみませんか? そろそろ冷え込んできますし、身体に悪いですよ」

急に話をまとめ始める青年。
少し様子がおかしい。

なんだか、そわそわしているような……。

「うーん、君さ、私の事を心配するふりして、自分の話題から避けてない?」
「そ、そんな事は無いですよ……」
「じゃあ、私の目を見て言える?」

カバンの奥にしまっていたスマホを取り出し、手早くライト機能を立ち上げる。
辺りがほんのりと明るくなった。

「僕の話なんて、つまらないと思いますよ。特に、お姉さんみたいな人には……」

ライトを避けるようにうつむく青年。
憂いに満ちた横顔も、やはり美しい。

「どうしてそんな事が分かるの?」
「お姉さんが幸せの真っただ中だからです」
「絶賛、喧嘩中ですけど……」
「でも、迎えに来るって信じてますよね?」
「それはまぁ……そうだけど……」

私の曖昧な態度に、青年は黙り込んでしまった。

だんだんと空気が重くなり始める。

気まずいな……。

さっさと連絡して迎えに来てもらう?
いや、でもな……。

手にしたスマホにはメッセージも着信もない。

たった一言、迎えに来てほしいと伝えればいいだけなのに、やっぱりどこか許せない自分がいた。

このまま迎えが来なければ、私は始発に乗って、別の未来へ行くことになる。

結婚か婚約破棄か――。

二つの未来の狭間で悩みあぐねいていると、突然、陰鬱な空気を打ち消すように軽快なメロディが流れ始めた。

「――っ!?」

うつむいていた青年が跳ねるように立ち上がる。

「電話?」
「はい、すみません」

言うが早いか、青年はあっという間に駅を出て行ってしまった。

そんなに慌てなくても……。

窓から青年の姿を眺めてみる。

上下に揺れるご機嫌な肩。
時々聞こえる笑い声。
絶え間なく吐き出される白い息。

青年は、月光に照らされた銀盤の上で楽しそうに電話をしていた。

やっぱり彼女居るじゃん……。

私は一人、寂しくおでん缶をつつく。

全て食べ終わる頃には、缶は冷たくなっていた。