月夜のギャンブラー

「あ、美味しい!」
「それは良かったです。お酒、欲しくなりますよね」
「そうだね。そしたらもっと暖まるか……も……?」
「お姉さん、お酒は強いですか?」
「ううん、強くは無いけど……あの、ごめんね、お酒飲める歳なの?」

静寂が流れる。
一つ、溜息が聞こえた。

「あー、やっぱりですか」
「え?」
「なんか、お姉さんの態度が子供を相手にしてるみたいだったので」
「ご、ごめん」
「僕、今年の六月で二十三歳になります」

ま、まさかの五歳下。
思ったより大人だった。
ちょっと話が変わって来たぞ。

「先程までの無礼をお許しください」

恭しく頭を下げると、少年――いや、青年は楽しそうに笑った。

「ははは、僕の方が年下なのは変わらないので、気にしないで下さい」
「う、うん? どうして私が年上だって分かったの? そんなに老けて見える?」

不機嫌な声で問いただすと、青年は慌てた様子でぴょんと立ち上がる。

「ごめんなさい! 見えないです! えっと、持ち物とかアクセサリーがちょっと高そうだったので、社会人なのかなーっと、僕、まだ学生なので」

青年は一気にまくしたてると、落ちるように座り直した。
 
少し脅かし過ぎたかな。
反省、反省。

「大学生だったんだ」
「はい、一応……」
「一応って?」
「休学してるんです、進路の事で色々と悩んでいて……」
「そっか」
「そ、そんな事より、お姉さんの話を聞かせて下さい!」
「あー、そうだったね。何から話したらいいんだろう」

少し話題を逸らされたような気もするが、私の話をする約束なので素直に従う事にした。
 
彼の話は後でたっぷり訊く事にしよう。
貴重な同世代イケメンだ、逃さんぞ。
婚約破棄からの交際ゼロ日婚とかあるかもしれないしな、ふふふ。

妄想に耽る私の横で、青年が唸った。

「あの……お姉さんは、彼氏さんと旅行に来たんですか?」
「うーん、旅行気分で里帰り――かな?」
「里帰り?」
「ここ、彼氏の地元なの。六月に結婚するんだ」
「六月……」
「君の誕生月だね」
「おめでたい月になりますね」
「無事に結婚できたらね」
「考え過ぎですよ」
「だといいんだけど……」
「何があったんですか?」

純粋な声が胸を抉る。

「今日のお昼、彼氏の実家で地元の友達を沢山紹介してもらったの。そしたら――」

思い出した瞬間、一気に怒りが込み上げた。
無意識に力が入り、竹串が缶の底に何度もぶつかる。