月夜のギャンブラー

突然の申し出に言葉を見失う。

「ど、どうして?」
「どんな彼氏さんなのか気になりました。お姉さん、素敵だから」
「す、素敵!?」

な、なんだこの子、新手のナンパか!?
でも、悪くないな、ははは。

「もうすぐ来るんですよね?」

少年の真っ直ぐな声に心が痛む。

「あー、うん。ごめん、来るとは思うけど朝になるかも」
「そんなに遠くに住んでるんですか?」
「いや、ちょっと喧嘩しちゃって、泊まってた旅館を飛び出して来たの。行先は言ってないけど、私がこの町で知ってる場所はここしかないから、たぶん辿り着くと思う」

「……もし、来なかったらどうするんですか?」

そう聞かれて初めて不安になった。

一晩、頭を冷やせば冷静に考えられるだろうって、いつもそうやって仲直りをして来たけど――そうか、迎えに来ない可能性もあるのか。

もう二度とこの町に来ない! あの人達とも二度と会わない! 
 
――なんて感情的に思ってしまったけど、現実味が出てきて胸が苦しくなった。
少し栄えた隣街で一晩過ごして、明日また戻って来ればいいと軽く考えてたけど、彼氏に受け入れてもらえる保証なんてどこにもない。

婚約して安心してたけど、一瞬で終わる事もあり得るんだ――。

「……始発で帰る……かな」
「本気ですか?」
「うーん、迷ってる」
「お姉さんから連絡してみたらどうですか?」
「それはちょっと、負けた気がする。――っていうか、私は悪くないし」

語気を強める私に、少年は再びクスッと笑うと、少し離れた椅子に腰かける。
月明かりに浮かんだ彼のシルエットは、モデルのように美しかった。

「じゃあ、本当にお姉さんは悪くないのか確認させて下さい」
「え!?」
「お姉さんが悪くなかったら、彼氏さんが来るまで付き合いますし、来なかったら始発で帰るお姉さんを見送ります」

決定事項と言わんばかりの勢い。
いろんな意味で不安が込み上げた。

「えっと……確認するのは構わないけど、流石に始発までは付き合わせられないよ」

未成年だし……。

「いえ、深夜に女性が一人でいるのは普通に危険です。本当は家に来てもらいたいですけど、僕、一人暮らしなので、常識的にそんな事は言えませんし……」

下心の無い純粋な声。
しょんぼりする彼に申し訳なさを覚える。
 
うーん。
一人暮らしって事は、大学生か社会人一年目ってとこかな。
それならまぁ、大丈夫か。

「ありがとう。じゃあ、彼氏が来なかったら盛大に見送ってね」
「はい!! お任せ下さい!――って、喜んだら駄目ですよね。ごめんなさい」
「大丈夫、絶対来るよ」
「自信、あるんですね」
「いつもの事だから……」

でも、今回は少しだけ不安がある。
それは多分、突然現れた元カノのせいだ。
美人でスタイルが良くて私よりも若かった。
あっさりと、よりを戻す事だってあるかもしれない。
 
もしもそうなったら、私は――。

「大丈夫ですか? やっぱりウチに来ますか?」
「あー、大丈夫大丈夫! それより、私の方が悪かったらどうするの?」
「それは、直ぐにでも彼氏さんに連絡して迎えに来てもらって下さい」
「あはは、やっぱりそうなるよね」
「はい、それが一番だと思います。それに、せっかく旅館に泊まってるんですから、贅沢した方が良いですよ」
「確かに……ありがとね。それにしても君さ――」