月夜のギャンブラー


大学生か高校生か、確実に未成年。
十歳くらいは下だろうか。
少年は怯えた様子で私を見つめている。
彼の表情を見て、私が臨戦態勢だったことを思いだした。

「ごめんなさい。人違いでした」
「あ、そうだったんですか、良かった……」

安心したようにニッコリと笑う少年。
色白で、異国を思わせるハッキリとした顔立ちに目が釘付けになる。

恐るべし雪国。
イケメンの宝庫。
苛立っている私の心も穏やかにしてくれる。

「驚かせてごめんね。あ、終電なら出たばかりだよ」
「あ、はい、知ってます。大丈夫です」
「え? じゃあどうして……」
「えっと、自販機に飲み物を買いに来たら、お姉さんが居たので……その、終電逃したのかなって……」
 
少年はホカホカの缶コーヒーを握りながら、たどたどしく答えた。
 
「心配してくれたの?」
「はい……」

なんて優しい子なんだろう。
これは学校でモテモテだろうな。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。もうすぐ彼氏が迎えに来てくれるから」

たぶん……。
来るよね?
来なかったら殺す。

「そうなんですか。でも、ここ――」

少年が上を向いた瞬間、音も無く照明が落ちた。

「なるほど、タイマーが設定されているのか……」
「お姉さん冷静ですね。怖くないんですか?」

クスッと笑う声。
イケメンの笑顔が拝めないのは非常に悔しい。

「夜の無人駅って初めてで、どうなるのかちょっと気になってたの。怖いよりも感動かな」
「夜の無人駅が初めて? お姉さん、都会の人ですか?」
「うーん、割と都会で育ったかも。ゲレンデ以外で雪が積もってるのも初めて見たし」
「あぁ、だからか……」
「ん?」
「二回も転んだって……」

遠慮気味に話す少年。
恥ずかしさのあまり、下品な笑いで誤魔化した。

「あはは、そうなの。雪国の人は普通に歩けて凄いね。滑って転ばない遺伝子でも持ってるの?」
「遺伝子!? お姉さん、面白い発想しますね」
「だって、雪国育ちの彼氏が、雪で滑って転んだ事なんかないって豪語するから」
「はは、彼氏さんも面白い人ですね。地元の人でも転ぶ時は転びますよ」
「やっぱ、そうだよね」
「はい、からかわれてるだけかと……」

爽やかな答え。
湧き上がる怒り。

「教えてくれてありがとう。彼氏が迎えに来たら、氷の上に放り投げてみるね」

それで転んだら思い切り笑ってあげよう。
結婚しても、一生ネタにしてやるんだから。
 
我ながら最高の嫌がらせを思いついたと自負していると、少年の影が僅かに近づいて来た。

「仲良しなんですね。あの、良かったら彼氏さんを一緒に待っても良いですか?」

はい?