月夜のギャンブラー

自動販売機あり。
公衆トイレあり。
足を伸ばせるベンチあり。
 
意気揚々と木製の長椅子にカバンを下ろし、ポーチの中から貼れるタイプのカイロを三つ取り出す。
 
備えあれば憂いなし!
 
ペタペタとダウンコートの内側に貼り付けると、椅子に腰かけて一息ついた。
 
あと必要な物は……。
 
乱雑なカバンの中をガサガサと漁る。
いつ入れたのか、ミニサイズのひざ掛けを発見。
 
これは、座布団代わりにしようかな……。
 
とりあえず、これくらいあれば暫くは何とかなりそう。
あとは、ここの照明がいつまで点いてるか……なんだけど……。
 
天井を見上げると、二本の蛍光灯がチカチカと明滅していた。
 
無人駅の照明管理ってどうなってるんだろう。
終電過ぎたら消えちゃうのかな。
でもまぁ、今日は月明かりが綺麗だから、消えちゃってもいっか。
スマホもあるしね。
 
なんとなくSNSを開くと、明日に迫ったバレンタインの話題で持ちきりだった。
 
バレンタイン。
今日じゃなくて良かった。
二回も転ぶなんて、過去一最悪のバレンタインになるところだった。
 
そもそも、喧嘩するのがいけないんだけど……。
 
バッテリー温存の為、スマホをカバンに終う。
少しずつ暖かくなってきたカイロに安堵しながら、のんびりと窓の外を眺めた。

夜の無人駅ってなんかエモいな……なんて一人で感傷に浸っていると、駅の外に設置された自動販売機が、ガタンと大きな音を鳴らす。
 
なんだ、もう迎えに来たのか。
だったら旅館を飛び出す前に引き止めて欲しかった。
 
そしたら、二回も転ばずに済んだのに……。
 
なんだろう。
時々タイミングが合わない時があるんだよな。
本当に彼で良かったんだろうか。
 
婚約してから考えたって仕方ないんだけど……。
 
これが世に言うマリッジブルーってヤツなのかな?
それならまぁ、少しくらい悪態吐いたって許されるよね。
 
私はほくそ笑みながら、どんな悪口をぶつけてやろうかワクワクしていると、駅の扉がカラカラと開く。
 
覚悟しろ、浮気男!
 
「ねぇ、二回も転んじゃったんだけ……ど……」

あ、どうしよう。
知らない人だ。

大柄で筋肉質な男を迎え撃つはずだったのに、私は今、真逆の人物と見つめ合っている。

「えっと……その……」

冷たい外気と共に現れたのは、見知らぬ若い男性――いや、可愛らしい男の子だった。