月夜のギャンブラー

「ユキ!!」

混乱の中、聞き馴染みのある声に名前を呼ばれて我に返った。
 
真っ暗な駅に飛び込んで来たのは、ボサボサ頭の大柄な男。
息を整える事に必死になっているこの男は、私の彼氏のリョウタだ。
リョウタは私の姿を目に留めると、安堵した様子で椅子に崩れ落ちる。
 
「リョウタ……」

溜息交じりに彼氏の名前を呼ぶと、私の手を握っていた青年が闇に溶けるように離れて行った。

「あーあ、残念」

つまらなそうな青年の声が辺りに響く。

「アキラ、お前何やってんだよ!」

椅子にもたれたまま、青年を見上げるリョウタ。

「え? リョウタの知り合いなの!?」
「知り合いも何も、会わせたばかりだろ!」

リョウタは気怠そうに立ち上がり、アキラと呼ばれた青年の肩を叩く。

私に会わせた?

確かに、この町に来てからリョウタの友達をたくさん紹介してもらったけど、彼の顔に見覚えはない。何より、彼自身も初めて会うような態度だった。

「いやいや、流石にこんなイケメンを紹介されてたら忘れないよ。何でそんな嘘を吐くの?」
「嘘じゃねぇ! 実家に集まった時、俺の幼馴染として紹介しただろ!」

幼馴染……その言葉で思い起こされたのは、リョウタの友達ではなく、あの忌まわしき元カノの顔だ。

この際だから、思う存分文句言ってやろう!

「あー、はいはい、物凄い美人の幼馴染ね。あんたの事が大好きで、ベッタリ張り付いて、アタシが結婚したかった~って喚いてた女ね」
「そうだ。その女がこいつだ。アキラだ。自称俺の元カノだ!」
「ハイハイ、そうですか、こいつですか、へー……え……えぇ!!」

このイケメンが、リョウタの元カノ!?
何!? どういう事!?

リョウタの言葉を理解するのに、暫く時間を費やした。
状況を把握できていない事が伝わったのか、リョウタは青年を引き寄せて私に差し出す。

そんな事をされても、こんな暗闇では確認のしようがないんだけど……。

確信を得られずに悩んでいると、頭上でチリチリと音が鳴り、駅舎周辺が明かりに包まれた。

もうすぐ始発の電車が来る。
賭けは私が勝った。
 
それはつまり……。