「すみません、長電話をしてしまって……」
帰って来た青年の声は弾んでいた。
そりゃそうだ。
彼女と電話していたんだから……。
「別にかまわないけど、行かなくて大丈夫なの?」
「どこにですか?」
「彼女のところ」
「大丈夫です、彼女では無いので」
「そう、それならいいんだけど……」
「気になりますか?」
「う、うん。まぁね。私ばっかり情報を晒したような気がして、なんか不公平だなって」
拗ねたように言うと、青年は無言で私の隣に腰を下ろした。
ぼんやりだけど、表情が分かるぐらいに近い距離。
なんだか、戻って来てから様子が違うような……。
彼の妖艶な雰囲気に惚けていると、
「お姉さん、僕と賭けをしませんか?」
唐突にゲームが始まる。
「賭け?」
「はい、彼氏さんが迎えに来るかどうかです。もちろん、僕は来ない方に賭けます。お姉さんが勝ったら、僕の事を何でも教えてあげますよ」
「君が勝ったら?」
私の問いかけに、青年の体が更に近づいた。
「そーですね。彼氏さんとは別れて、僕と結婚してください」
「は?」
神様ごめんなさい。
婚約破棄からの交際ゼロ日婚は冗談だったんです。
いきなりこれは心臓に悪いです。
訳が分からなくなる私の横で、青年は声を弾ませる。
「ごめんなさい、気が早過ぎました。まずはお互いの価値観を擦り合わせるために、同棲からですよね」
「いやいやいや、ちょっと待って落ち着こう。なんか話が飛躍し過ぎてない!?」
「確かにそうですね。でも、彼氏さんが迎えに来てくれるって自信があるなら、僕の賭けに乗れますよね?」
確信を突かれて我に返る。
「それはそうなんだけど、君の事を何でも聞けるのと、私と君の結婚は同等の事なのかと思って……っていうか、私と君の結婚って何!?」
じわじわと浸透して来るイケメンとの結婚話。
あらゆる感情が一気に押し寄せて言葉を無くす。
「お姉さん、リアクション最高です。一緒に暮らしたら毎日楽しそうですね」
「ちょ、ちょっと、話が勝手に進んでない!?」
「はい、楽しみなので!」
「あのさ、結婚以外はないの? お友達じゃダメ?」
「うーん、じゃあ、結婚前提のお付き合いはどうですか?」
暗闇なのに、満面の笑みである事が分かるほどに声色が明るい。
良い子だし、イケメンだし、意外と年齢も近かったから悪い気はしないんだけど……。
なんだろう。
何かが引っかかる。
あの電話の後から様子がおかしい。
「ねぇ、どうしてそこまで私との結婚にこだわるの?」
耐えきれずに聞いてみると、さっきまで楽しげだった青年が、急激に勢いを無くす。
「だって、お姉さんが僕の物になったら、彼氏さんはフリーになるでしょ?」
う、うん。
そうだね。
そうなんだけど……。
分かるようで分からない謎の返答。
何度も脳内で反芻させてみるが、答えには辿りつかない。
結局、理解出来ずに変な声がたくさん出た。
「ん、んんん? どういう事?」
「あはは、お姉さん動揺し過ぎですよ」
「だって、意味が分からないから」
「うーん、僕もちょっと意味が分からなくなってきました。最初は冗談だったんですけど、お姉さん素敵だから、ありかなって」
「えーっと、ありとは?」
首を傾げていると、そっと手が握られる。
手袋越しに感じる温もり。
その感覚はどんどん強くなり、逃れられないほど強く捉まれる。
え? 何……?
「もうすぐ答えが出ますよ。ユキさん」
「――っ!? どうして私の名前を――」
じっと私を見つめたままの青年。
私は彼を知らない。
でも、彼は私を知っている。
この人、一体誰なの――?
帰って来た青年の声は弾んでいた。
そりゃそうだ。
彼女と電話していたんだから……。
「別にかまわないけど、行かなくて大丈夫なの?」
「どこにですか?」
「彼女のところ」
「大丈夫です、彼女では無いので」
「そう、それならいいんだけど……」
「気になりますか?」
「う、うん。まぁね。私ばっかり情報を晒したような気がして、なんか不公平だなって」
拗ねたように言うと、青年は無言で私の隣に腰を下ろした。
ぼんやりだけど、表情が分かるぐらいに近い距離。
なんだか、戻って来てから様子が違うような……。
彼の妖艶な雰囲気に惚けていると、
「お姉さん、僕と賭けをしませんか?」
唐突にゲームが始まる。
「賭け?」
「はい、彼氏さんが迎えに来るかどうかです。もちろん、僕は来ない方に賭けます。お姉さんが勝ったら、僕の事を何でも教えてあげますよ」
「君が勝ったら?」
私の問いかけに、青年の体が更に近づいた。
「そーですね。彼氏さんとは別れて、僕と結婚してください」
「は?」
神様ごめんなさい。
婚約破棄からの交際ゼロ日婚は冗談だったんです。
いきなりこれは心臓に悪いです。
訳が分からなくなる私の横で、青年は声を弾ませる。
「ごめんなさい、気が早過ぎました。まずはお互いの価値観を擦り合わせるために、同棲からですよね」
「いやいやいや、ちょっと待って落ち着こう。なんか話が飛躍し過ぎてない!?」
「確かにそうですね。でも、彼氏さんが迎えに来てくれるって自信があるなら、僕の賭けに乗れますよね?」
確信を突かれて我に返る。
「それはそうなんだけど、君の事を何でも聞けるのと、私と君の結婚は同等の事なのかと思って……っていうか、私と君の結婚って何!?」
じわじわと浸透して来るイケメンとの結婚話。
あらゆる感情が一気に押し寄せて言葉を無くす。
「お姉さん、リアクション最高です。一緒に暮らしたら毎日楽しそうですね」
「ちょ、ちょっと、話が勝手に進んでない!?」
「はい、楽しみなので!」
「あのさ、結婚以外はないの? お友達じゃダメ?」
「うーん、じゃあ、結婚前提のお付き合いはどうですか?」
暗闇なのに、満面の笑みである事が分かるほどに声色が明るい。
良い子だし、イケメンだし、意外と年齢も近かったから悪い気はしないんだけど……。
なんだろう。
何かが引っかかる。
あの電話の後から様子がおかしい。
「ねぇ、どうしてそこまで私との結婚にこだわるの?」
耐えきれずに聞いてみると、さっきまで楽しげだった青年が、急激に勢いを無くす。
「だって、お姉さんが僕の物になったら、彼氏さんはフリーになるでしょ?」
う、うん。
そうだね。
そうなんだけど……。
分かるようで分からない謎の返答。
何度も脳内で反芻させてみるが、答えには辿りつかない。
結局、理解出来ずに変な声がたくさん出た。
「ん、んんん? どういう事?」
「あはは、お姉さん動揺し過ぎですよ」
「だって、意味が分からないから」
「うーん、僕もちょっと意味が分からなくなってきました。最初は冗談だったんですけど、お姉さん素敵だから、ありかなって」
「えーっと、ありとは?」
首を傾げていると、そっと手が握られる。
手袋越しに感じる温もり。
その感覚はどんどん強くなり、逃れられないほど強く捉まれる。
え? 何……?
「もうすぐ答えが出ますよ。ユキさん」
「――っ!? どうして私の名前を――」
じっと私を見つめたままの青年。
私は彼を知らない。
でも、彼は私を知っている。
この人、一体誰なの――?

