月夜のギャンブラー

タクシーから降りた瞬間、吐いた息が目の前を曇らせる。
 
夜になると、こんなに寒くなるのか……。
 
深呼吸すると全身が凍えそうになった。
初めての感覚に戸惑いながらも、覚悟を決めて歩き出す。
足の裏に伝わる未知なる感触。
力の入れ所が分からず、恐る恐る足を進めると、あっという間に視界に夜空が広がった。
 
「痛っ!!」

尻餅を突くなんて、小学校の運動会以来だ。

恥ずかしい。

けれど、辺りに人の気配はない。
ただポツンと、小さな駅舎が建っているだけの暗闇の世界。

目的地を前にして、私は途方に暮れていた。

湖面のように輝くアスファルトが、行く手を阻んでいるからだ。

『夜は凍結してスケートリンクみたいになるから、出歩かない方がいいよ』

そう忠告されたのは数時間前。
まさか、早々に背くとは思わなかった。
おかげでこの有り様だ。

でも、もういい。
あの人達とは二度と会わないし、ここに来る事も無いだろうから――。

立ち上がろうと地面に手を付くと、手袋が引っ付いて離れない。
無理矢理引き剥がすと、表面がボサボサになってしまった。

これ、高かったのに……。

嘆く私の耳に、追い打ちをかけるように電車のブレーキ音が届く。

たぶん、もう間に合わない。
まぁ、急いでいる訳でも無いし、次の電車でいいか。

冷たい氷の上に座り込んだまま、スマホで次の電車を確認する。

嘘でしょ……。

冷えた体から、血の気が引いて倒れそうになった。

まだ十時台なのに終電!?

急いで立ち上がり、何度も足を滑らせながら駅に向かう。

あと一歩という所で再び盛大に転んだ。

無情にも、発車を知らせる汽笛が虚しく夜空に溶けて行く。

こんな田舎、来るんじゃなかった……。