夜明けまで。

 待合室に戻って上着を脱ぐ。コーンポタージュを二人とも啜った。お揃い、と頭を過り顔が熱くなる。暖まるね、と微笑まれて、御馳走様です、と頭を下げる。先輩の笑顔を見る方が顔は熱くなる、と思いながら。
「さて、今日は早目に寝てしまうのが良いだろう。スマホの充電はポータブル充電器で行おう。君も持っているよね」
「ありますよ」
 コンセントから勝手に充電をするのは窃盗だからな。
「よし、オッケー。お手洗いは必要に応じて使わせて貰おう」
「無人駅なのにめっちゃ綺麗ですよね。助かりました」
 その時、あぁそうだ、と先輩は人差し指を立てた。
「初めて一夜を共に過ごす君には大事なことを伝えておこう」
「……変な言い方をしないでください。またからかっていますね」
 うん、と頷いた。黙って首を横に振る。冗談はさておき、と先輩は仕切り直した。
「私はとても怖がりだ。だから、お手洗いや自販機へ行く際には必ず君と一緒に行動をしたい」
 じっと見詰められた。また急なカミングアウトだな。いいですよ、と即答する。一緒にいられるのはむしろ嬉しい限りだ。一方、いいかい、と先輩は顎を引いた。真剣な表情を浮かべている。
「このお願いは、寝ている間も適用される」
 意味が分からず首を捻る。
「同じ部屋で寝るのですから一緒にいることになるでしょう」
「ええと、言葉選びが悪かったかな。もしも夜中、私が寝ている時に君がお手洗いへ行きたくなったら私を起こして欲しいんだ。そして同行させてくれ」
 随分徹底しているな。
「要は一人になりたくない、と」
「二人で一緒にいた方が絶対にいい、というのが正確な主張かな」
 どんだけ怖がりなんだ。いつも余裕のある先輩にしては珍しい一面だ。
「逆も然り。私がお手洗いへ行きたくなったら寝ている君を起こして連れて行かせて貰う」
「まあ、いいですよ。先輩がそんなに怖いのなら、起こしてくれて構いません」
 ありがとう、と先輩の肩から力が抜けた。
「よろしく頼む」
「承知しました」
 その笑顔を守るためならいくらでも起こしてくれて構わない。しかし棚からぼた餅と言うか、思いがけず一泊する羽目にはなったものの、さっきから先輩の知らない面を見られてとても幸せだ。結局、部員二人で合宿も間が抜けているという理由で遠出はすれども日帰りの撮影しかやったことはない。先輩はさっきからかったが、実際一晩ご一緒するのは初めてなのだ。大分イレギュラーな状況だけど、おかげで先輩の知らない顔をたくさん見させて貰っている。終電を逃してラッキーだったかも、なんて考えは流石に頭から追い遣るけど。先輩が実はタクシーで帰りたかった可能性もゼロではない。そうだとすると、今、泊まれて良かった、なんて思いは失礼にあたるから。心の声は聞こえないとしても、誠実でいたいもの。