さて、と先輩が頭の後ろで手を組んだ。
「これから一晩、どうするかを確認しよう」
「確認、ですか」
うん、と先輩は鞄を漁り始めた。なにしろさ、と手を動かしながら話を続ける。
「展望台への道すがら、コンビニはおろか商店も見掛けなかった。まあ仮にあったとしても早目に店仕舞いをしそうだが。ともかく食料を買う場所は無い。だから持っている食べ物を分け合おうと思ってね」
ほい、と先輩はブロック状の栄養食品をひと箱取り出した。
「山登りのエネルギー補給用に持って来た。これを二人で食べよう」
その言葉に俺も慌てて鞄を開ける。そして飴を一袋取り出した。
「これも分けましょう」
途端に先輩が目を丸くした
「袋ごと、丸っと持って来たのかい」
「飴ってそういう物じゃないですか?」
「小分けにしなかったんだね。まあ、助かるけど」
そう言いながら小さく吹き出した。ちょっと、とこっちは唇を尖らせる。
「おかしなことはしていないです。コンビニにもこの状態で売っています」
「うん、そう、そうなんだよ。別に変な真似はしていない。だけど、丸ごと持ってんのかい、ってツッコミを入れたくなっちゃって」
あはは、と笑って目元を拭った。泣くほど面白いかね。むくれていると、ごめんよ、と手を合わせた。
「ありがたく頂戴する」
「ええ、どうぞ」
そして、仲良く食べましょう、と小声で付け足した。かなり気恥ずかしかったけど、二人で一晩を過ごす今日なら言える気がした。そうだね、と先輩が微笑む。
「いただきます」
揃って手を合わせてから、栄養食品を一本ずつ取り出した。
「ありがとうございます、先輩」
「むせて吹き出さないようにね」
子供じゃないんだから、と言いたくなる。先輩は先に口へ運んだ。俺も食べ始める。そして飲み込もうとした時、粉が喉に張り付いて思い切りむせた。
「だから注意したのに」
先輩に応じる余裕も無い。鞄からペットボトルの緑茶を取り出し急いで流し込む。幸い、貴重な食料を吹き出してしまいはしなかった。何度か咳き込みつつ、どうにか呼吸を整える。
「言わんこっちゃない」
「反論出来ません」
はあ、と溜息を吐いた。子供じゃないか。
「ところでお茶をほとんど飲んでしまったようだが大丈夫かな。まだ夜の八時半にもならないし、始発は六時五十分まで来ないよ」
げ、と声が漏れる。飲料は死活問題だ。一晩だけとはいえ、喉が渇く苦しみはひどい。だけど窓から確認しても自販機の明かりは見当たらない。どうしよう、と青ざめる。途端に先輩がまた吹き出した。そしてホームを指差す。
「そっちにあるから買って来なさい」
「先輩! 無駄に焦らせてからかいましたね!?」
「本当に君は面白いなぁ」
「マジで慌てたのに!」
声を上げると、仕方ない、と先輩は立ち上がった。そして肩に掛けたダウンコートをしっかりと着る。
「お詫びに奢ってあげるよ」
待合室から出て行こうとして、扉のところで振り返った。急かされていると察し俺も急いで上着を羽織る。二人で並んでホームへ歩いた。其処には確かに自販機があって、むしろ気付いていなかった自分が恥ずかしくなった。だから、別にいいですよと断ったけど、からかい過ぎたから、と先輩は財布を取り出した。
「何がいい? コーヒー? ココア? コーンポタージュ?」
「暖かいし美味しいですけどもっと喉が渇きますよ」
「私はコンポタにしようっと。お腹も満たせるし」
「あ、成程。確かに」
感心している傍らで既にボタンを押していた。そして同じ物をもう一本買い。はい、と差し出してくれる。
「ありがとうございます。あと、お茶は自分で買います」
「そ」
そう応じた先輩は、真面目だねぇ、と俺の肩を軽く叩いた。勘違い、ではない。今は普段より先輩との距離感が近い。だってこんな風に触られることなんていつもなら無い。まあ、さっきは必要に迫られたからとはいえ肩車までしているのだ。肩を叩くくらいは気にしなくてもいいのかな。だけど、いや、と心の中で首を振る。やっぱりドキドキする。だって俺は先輩を好きだから。そして距離感が縮まるのは大歓迎だけど、心臓がもたなくなりそうでもある。
「寒いから早くしなさい」
振り返った先輩が立ち尽くす俺に声を掛けた。はい、と返事をしてお茶を買う。しかし我ながら相当あからさまな態度だと思うけど、先輩は微塵も気付かないのだな。鈍感であり、同時に意識する対象に挙げられていないのだ。気持ちを察せられないのは助かる反面、ちょっと寂しくも感じる。
「これから一晩、どうするかを確認しよう」
「確認、ですか」
うん、と先輩は鞄を漁り始めた。なにしろさ、と手を動かしながら話を続ける。
「展望台への道すがら、コンビニはおろか商店も見掛けなかった。まあ仮にあったとしても早目に店仕舞いをしそうだが。ともかく食料を買う場所は無い。だから持っている食べ物を分け合おうと思ってね」
ほい、と先輩はブロック状の栄養食品をひと箱取り出した。
「山登りのエネルギー補給用に持って来た。これを二人で食べよう」
その言葉に俺も慌てて鞄を開ける。そして飴を一袋取り出した。
「これも分けましょう」
途端に先輩が目を丸くした
「袋ごと、丸っと持って来たのかい」
「飴ってそういう物じゃないですか?」
「小分けにしなかったんだね。まあ、助かるけど」
そう言いながら小さく吹き出した。ちょっと、とこっちは唇を尖らせる。
「おかしなことはしていないです。コンビニにもこの状態で売っています」
「うん、そう、そうなんだよ。別に変な真似はしていない。だけど、丸ごと持ってんのかい、ってツッコミを入れたくなっちゃって」
あはは、と笑って目元を拭った。泣くほど面白いかね。むくれていると、ごめんよ、と手を合わせた。
「ありがたく頂戴する」
「ええ、どうぞ」
そして、仲良く食べましょう、と小声で付け足した。かなり気恥ずかしかったけど、二人で一晩を過ごす今日なら言える気がした。そうだね、と先輩が微笑む。
「いただきます」
揃って手を合わせてから、栄養食品を一本ずつ取り出した。
「ありがとうございます、先輩」
「むせて吹き出さないようにね」
子供じゃないんだから、と言いたくなる。先輩は先に口へ運んだ。俺も食べ始める。そして飲み込もうとした時、粉が喉に張り付いて思い切りむせた。
「だから注意したのに」
先輩に応じる余裕も無い。鞄からペットボトルの緑茶を取り出し急いで流し込む。幸い、貴重な食料を吹き出してしまいはしなかった。何度か咳き込みつつ、どうにか呼吸を整える。
「言わんこっちゃない」
「反論出来ません」
はあ、と溜息を吐いた。子供じゃないか。
「ところでお茶をほとんど飲んでしまったようだが大丈夫かな。まだ夜の八時半にもならないし、始発は六時五十分まで来ないよ」
げ、と声が漏れる。飲料は死活問題だ。一晩だけとはいえ、喉が渇く苦しみはひどい。だけど窓から確認しても自販機の明かりは見当たらない。どうしよう、と青ざめる。途端に先輩がまた吹き出した。そしてホームを指差す。
「そっちにあるから買って来なさい」
「先輩! 無駄に焦らせてからかいましたね!?」
「本当に君は面白いなぁ」
「マジで慌てたのに!」
声を上げると、仕方ない、と先輩は立ち上がった。そして肩に掛けたダウンコートをしっかりと着る。
「お詫びに奢ってあげるよ」
待合室から出て行こうとして、扉のところで振り返った。急かされていると察し俺も急いで上着を羽織る。二人で並んでホームへ歩いた。其処には確かに自販機があって、むしろ気付いていなかった自分が恥ずかしくなった。だから、別にいいですよと断ったけど、からかい過ぎたから、と先輩は財布を取り出した。
「何がいい? コーヒー? ココア? コーンポタージュ?」
「暖かいし美味しいですけどもっと喉が渇きますよ」
「私はコンポタにしようっと。お腹も満たせるし」
「あ、成程。確かに」
感心している傍らで既にボタンを押していた。そして同じ物をもう一本買い。はい、と差し出してくれる。
「ありがとうございます。あと、お茶は自分で買います」
「そ」
そう応じた先輩は、真面目だねぇ、と俺の肩を軽く叩いた。勘違い、ではない。今は普段より先輩との距離感が近い。だってこんな風に触られることなんていつもなら無い。まあ、さっきは必要に迫られたからとはいえ肩車までしているのだ。肩を叩くくらいは気にしなくてもいいのかな。だけど、いや、と心の中で首を振る。やっぱりドキドキする。だって俺は先輩を好きだから。そして距離感が縮まるのは大歓迎だけど、心臓がもたなくなりそうでもある。
「寒いから早くしなさい」
振り返った先輩が立ち尽くす俺に声を掛けた。はい、と返事をしてお茶を買う。しかし我ながら相当あからさまな態度だと思うけど、先輩は微塵も気付かないのだな。鈍感であり、同時に意識する対象に挙げられていないのだ。気持ちを察せられないのは助かる反面、ちょっと寂しくも感じる。
