逡巡していると、ではこうしよう、と先輩は人差し指を立てた。
「ターミナル駅に電話をして、終電を逃した旨を説明する。その上で、待合室で翌朝まで待つからエアコンを使えるか、訊いてみよう。使えそうなら一泊する。使え無さそうならタクシーを呼ぶ。お金は掛かるが仕方ない。これでどうかな」
成程、と俺は頷いた。
「わかりました。結果に文句はつけないと約束します」
よし、と先輩は再びスマホを取り出し操作をした後、耳に当てた。またよそ行きの声が響く。普段の口調とは違いとても丁寧なのもポイントが高い。事情を説明した先輩は相槌を何度か打った後、少々お待ちいただけますか、とスマホをベンチに置いた。
「肩車をするよ」
唐突な言葉に、え、と間抜けな返事をしてしまう。先輩を、肩車。肩車!?
「ほら、早く。相手を待たせているのだから」
考える暇も無く肩を押さえつけられた。ちょっと待って、と慌てて上着を脱いでしゃがむ。もこもこしているとバランスが悪いもの。サンキュ、と先輩はすぐに乗って来た。頭を掴まれる。失礼します、と俺は先輩の膝を押さえた。
「いきますよ」
「ドンと来い」
せーの、と立ち上がる。すぐに、届いた、と先輩は声を上げた。
「よし、これだね」
呟きの直後に、ピッ、という音が響く。どうやらエアコンを起動したらしい。
「任務完了だ。肩車、もういいよ」
「承知しました」
ゆっくりと、慎重にまたしゃがむ。先輩を落としてしまってはいけない。俺から下りた先輩はすぐに通話を再開した。俺は今の出来事を頭から追い出そうと躍起になる。だけど悶々と考えてしまう。だって好きな人を肩車するなんて機会はそうそうない。ましてや俺はそういう対象として先輩の眼中には無い。だから待合室で一晩を過ごしても構わない、なんて提案も出来てしまうわけだ。故に次、いつ訪れるかもわからない肩車に思いを巡らせてしまうのは仕方ない。そう開き直ろうとする一方で、先輩にやましい感情を向けてしまう自分に嫌気が差す。欲求に引っ張られ過ぎだ。まあ、それを言い出したらそもそも写真部に入部をしたのも欲に端を発しているのだが。
そんな風に思考を巡らせていると、ありがとうございます、と先輩はお礼を述べて電話を切った。
「この通り、エアコンは使わせて貰えた。待合室で一晩過ごすのも構わない、とのことだ。ただ、明日、ターミナル駅を訪れた際に窓口へ申し出て欲しいって。乗降客が終電を逃して始発まで一晩待合室を使ったって一筆書いて貰いたいんだとさ」
「まあ、無制限に使わせるわけにもいかないのでしょう」
そういうこと、と先輩は片目を瞑った。これ以上、ドキドキさせないでいただきたい。やれやれ、と呟き先輩が横長のベンチへ腰を下ろす。俺はと言えばどうしても目が泳いでしまう。こっちの内心も知らない先輩は、暖め合うかい、なんてからかって来た。困った人だよ、全く。
「ターミナル駅に電話をして、終電を逃した旨を説明する。その上で、待合室で翌朝まで待つからエアコンを使えるか、訊いてみよう。使えそうなら一泊する。使え無さそうならタクシーを呼ぶ。お金は掛かるが仕方ない。これでどうかな」
成程、と俺は頷いた。
「わかりました。結果に文句はつけないと約束します」
よし、と先輩は再びスマホを取り出し操作をした後、耳に当てた。またよそ行きの声が響く。普段の口調とは違いとても丁寧なのもポイントが高い。事情を説明した先輩は相槌を何度か打った後、少々お待ちいただけますか、とスマホをベンチに置いた。
「肩車をするよ」
唐突な言葉に、え、と間抜けな返事をしてしまう。先輩を、肩車。肩車!?
「ほら、早く。相手を待たせているのだから」
考える暇も無く肩を押さえつけられた。ちょっと待って、と慌てて上着を脱いでしゃがむ。もこもこしているとバランスが悪いもの。サンキュ、と先輩はすぐに乗って来た。頭を掴まれる。失礼します、と俺は先輩の膝を押さえた。
「いきますよ」
「ドンと来い」
せーの、と立ち上がる。すぐに、届いた、と先輩は声を上げた。
「よし、これだね」
呟きの直後に、ピッ、という音が響く。どうやらエアコンを起動したらしい。
「任務完了だ。肩車、もういいよ」
「承知しました」
ゆっくりと、慎重にまたしゃがむ。先輩を落としてしまってはいけない。俺から下りた先輩はすぐに通話を再開した。俺は今の出来事を頭から追い出そうと躍起になる。だけど悶々と考えてしまう。だって好きな人を肩車するなんて機会はそうそうない。ましてや俺はそういう対象として先輩の眼中には無い。だから待合室で一晩を過ごしても構わない、なんて提案も出来てしまうわけだ。故に次、いつ訪れるかもわからない肩車に思いを巡らせてしまうのは仕方ない。そう開き直ろうとする一方で、先輩にやましい感情を向けてしまう自分に嫌気が差す。欲求に引っ張られ過ぎだ。まあ、それを言い出したらそもそも写真部に入部をしたのも欲に端を発しているのだが。
そんな風に思考を巡らせていると、ありがとうございます、と先輩はお礼を述べて電話を切った。
「この通り、エアコンは使わせて貰えた。待合室で一晩過ごすのも構わない、とのことだ。ただ、明日、ターミナル駅を訪れた際に窓口へ申し出て欲しいって。乗降客が終電を逃して始発まで一晩待合室を使ったって一筆書いて貰いたいんだとさ」
「まあ、無制限に使わせるわけにもいかないのでしょう」
そういうこと、と先輩は片目を瞑った。これ以上、ドキドキさせないでいただきたい。やれやれ、と呟き先輩が横長のベンチへ腰を下ろす。俺はと言えばどうしても目が泳いでしまう。こっちの内心も知らない先輩は、暖め合うかい、なんてからかって来た。困った人だよ、全く。
