今、俺は二年生、先輩は三年生だ。大学が冬休みに入ったので、撮影のために遠出をしたのが今日のこと。単線電車に揺られて此処までやって来た理由は、山の展望台から海と、其処に建てられている風力発電機が撮れるという情報を仕入れたから。特に冬の夜は発電機に加え、行き交うタンカーや漁船の灯りが雪の舞う中に見えるそうで、これは行くしかあるまいと先輩が提案した。展望台までも駅から歩いて一時間とそんなに遠くなかったし、雪の降る日に車を運転するのは不安だとお互いに躊躇したので電車で訪れた。まあ、完全に裏目に出たのだが。
 三時間に一本しか電車が来ない場所だとわかっていた。そして夜に撮影を行うので終電の時間も予め確認していた。スマホでスクショも撮ったし駅でも十九時二十五分が最終と書いてある時刻表を見た。だから余裕を持って二十分前には駅へ戻って来た。エアコンの電源が入っていない待合室へ荷物を置き、交互にお手洗いを済ませた。他にお客さんはいなくて、二人きりで密室にいるなぁ、とぼんやり思った。流石にそのくらいでドキドキはしなかったけど、表現次第では怪しい状況に聞こえるかも、としょうもないことを考えた。
 発車の五分前からホームで待った。寒いけど、万が一早く来られて置いて行かれては大変だから。
 定時になっても電車は来なかった。
 五分。十分。まだ来ない。おかしいな、と先輩はスマホで運行情報をチェックした。遅延や運休は発生していなかった。
「時間、合っているはずなのに」
 そう言いながら、待合室の方へ時刻表を確認しに行った。俺は電車が来た時に備えてホームで待機をしていたのだが、げっ、と先輩の声が響いた。嫌な予感が頭を過る。
「えらいこっちゃ。田中君、こっちへおいで」
「でも、電車が」
「大丈夫。気にする必要は無い」
 その言葉で、まさか、とほぼ確信に変わる。
「先輩、もしかして」
 傍に寄ると、御覧、と時刻表の右下を指差した。文字が小さくてよく読めず、顔を近付ける。
『※十一月三十日から三月三十一日までは冬季天候不順の為、始発列車は六時五十分、最終列車は十七時五分になります。』
 気が遠くなった。マジか、と呟きが漏れる。
「終電、無くなっちった」
「いやもっと大きく書いておけや!」
 怒りを込めてツッコミを入れる。仕方ない、と先輩は肩を竦めた。
「明記はしてある。気付かなかった我々が悪い」
「いやいや、これは見逃しますって! 大事な事でしょう!? こんなに小さいなんてひどくない!?」
「地元の人達には当たり前なんだろうなぁ」
 先輩はのんびりしている。終電が終わったんですよ、と俺はじっとりとした視線を向けた。
「よくそんな、余裕でいられますね」
「焦っても電車が来るわけではない」