「先輩は、霊感とか強いんですか」
「ま、ね。不気味かい」
 先輩の口調ははいつも通りだけど、眉が下がっていて寂しそうに見えた。いえ、と首を振る。
「先輩の知らない一面を知れて、嬉しいです。不気味な体験は怖かったですが、先輩と一緒なら、二人なら、大丈夫なのでしょう」
 真っ直ぐ見上げる。ややあって、距離を置かないのかい、と尋ねられた。
「霊感が強い人間なんて嫌だろう」
 いいえ、と首を横に振る。
「個性の一つに過ぎません。そのくらいで先輩への気持ちが揺らいだりはしません」
 キッパリと言い切る。先輩は頬を掻いた後、誤解させるような発言には気を付けなさい、と少し頬を赤くした。わかっている。俺だってギリギリの言葉選びだったと思っている。だけどそのくらいでないと先輩は俺と距離を置こうとする気がした。やれやれ、と先輩の華奢な肩から力が抜ける。俺もどうにか立ち上がった。
「それでは物好きな後輩にモーニングセットを奢るとしよう。ターミナル駅に美味しいお店があるからね」
「是非、お願いします。あと、お手洗いに行きたいのですが一緒に行って貰えますか」
「勿論。君が何処かへ連れて行かれないようにね」
「怖いことを仰る」
「やっぱり離れる?」
「いいえ。ずっと後輩でいますよ、先輩」
「そうか。ありがとう、田中君」
 そっと待合室の鍵を開ける。人ではないもの達が通り過ぎた後の駅舎。其処には張り詰めた冬の朝の空気があった。さむっ、と反射的に叫ぶ。
「少しは暖まるかな」
 先輩が腕を絡めて来た。まったく、からかうつもりなのでしょうけどこっちの体温と心拍数は急上昇ですよ。
「ええ、とても」
「それは良かった」
 敢えて微笑み返す。先輩は意地なのか離れようとしない。駅のホームにお互い立ち尽くす。耳を澄ませても波の音は聞こえない。山にも町にも影は見えない。今、俺の傍にいるのは恋心を向ける貴女だけ。夜明けまで、このままでいたい。二人なら寒さも怪奇現象もきっと平気だから。
「ね、先輩」
「寒いから早く戻ろう」
 俺の片想いは当分続くと確信をした。