坂口は将人の車で毬恵の事務所に向かっていた。
まだ暑さは続くものの、このところ世界はなんとなく秋めいていて、道端に咲く彼岸花が季節を感じさせる。
禍々(まがまが)しい赤色の花は、坂口はあまり好きではないのだが。
「溝井涼介、遺体で発見されたな」
ハンドルを握りながら将人が言い、坂口はうなずく。
晴彦のニュースに次いで行方不明になった若者が発見されたとあり、ネットでは大騒ぎになっていた。
YouTubeでも「心霊スポット地獄館の謎に迫る」や、「行方不明が相次ぐ地獄館とはなんなのか」といった動画が次々に出て、再生回数を伸ばしてはあらぬ憶測を生んでいる。みんな、怪談と人の不幸は大好きなのだ。
「それに、配信者も行方不明になってるだろ」
「ぴこ丸って人だよね。けっこう人気あったみたいだから、地獄館からの最後の配信以来行方不明になって、騒動になってる。それまで毎日配信してたみたいだし」
「俺、最後の配信映像見たよ。なんか変なのが映ってたな」
「僕も見た」
最後、目をかっと見開いたいかにもとり憑かれた感じのぴこ丸の後ろに、こちらをじっと睨みつける怪しい男が立っていた。
近隣住民かと思ったが、いきなり現れるのはやはり不自然だし、ぴこ丸の仲間とも思えない。
もちろん配信なので、やらせの可能性は考慮しなくてはならないのだが、坂口はこの男に見覚えがある。
Kパパのブログに載っていた写真と、男の特徴がきれいに一致するのだ。
事務所に現れたふたりを毬恵は歓迎し、冷たい緑茶を出してくれた。
「宇佐美さんのこと、お力になれなくてすみません」
頭を下げる毬恵に向かって、坂口はあわてて手を振る。
「いえ、別に毬恵さんを責めようとか、そんなことを思ってここに来たわけじゃないです。
僕が気になっているのは、地獄館にまつわる怪異そのものです。
晴彦が遺体で発見された後も、地獄館で起こる変な出来事は止まっていない。
行方不明になった高校生は遺体で発見されたし、あそこに入った配信者は行方不明になった」
「それは、私も存じています」
毬恵は少し言葉を切った後、語りだした。
「私の見解では、地獄館にいる霊たちは威力を強めていると思われます。
というのも、今まで地獄館は心霊スポットとして有名でしたが、人の気配がするとか声が聞こえるとか心霊写真が撮れるとか、大したことは起こっていませんでしたよね。
しかしここに来て相次ぐ行方不明者です。
あそこに住む霊が調子に乗って、いよいよ悪さをし始めたのでしょう」
「毬恵さんが言っていた男の霊、ですか」
毬恵がうなずく。毬恵が地獄館を訪れた時に指摘し、ぴこ丸も配信のなかで過去に起こった事件と関連が見られない、と言っていたあの男だ。
「霊視したところ、あの霊は危険です。このまま放っておけば、次々と被害者が出てしまうでしょう。地獄館を訪れていない人間にまで危害が及ぶ可能性があります」
「どういうことですか?」
「たとえばインターネットなどで地獄館の情報をたまたま目にしてしまった、そういう人までもが悪影響を受けてしまうということです」
それは、いくらなんでも影響が強すぎるのではないか。
今の時代インターネット上の情報をせき止めることなんてできないし、地獄館に行ってはいけないどころか、調べてもいけないとなったら、被害者はものすごい数になるだろう。
坂口が言葉を失っていると、毬恵がやや前のめり気味になって言った。
「私の力では前回も失敗してしまったように、あの霊に太刀打ちすることはできません。なので、ここは私の師匠を呼びたいと思います」
「師匠」
「徳永伸(のぶ)輝(てる)さんと言って、山梨にいらっしゃる方です。私が若い頃、霊媒師の修行をした時、お世話になりました。少し遠いですが、事情を話すと来ていただけることになりました」
毬恵の平らな声に、にわかに熱がこもる。
「地獄館の霊を放置するわけにはいきません。ちゃんと徳永さんに除霊してもらい、街に平穏を取り戻しましょう」
まだ暑さは続くものの、このところ世界はなんとなく秋めいていて、道端に咲く彼岸花が季節を感じさせる。
禍々(まがまが)しい赤色の花は、坂口はあまり好きではないのだが。
「溝井涼介、遺体で発見されたな」
ハンドルを握りながら将人が言い、坂口はうなずく。
晴彦のニュースに次いで行方不明になった若者が発見されたとあり、ネットでは大騒ぎになっていた。
YouTubeでも「心霊スポット地獄館の謎に迫る」や、「行方不明が相次ぐ地獄館とはなんなのか」といった動画が次々に出て、再生回数を伸ばしてはあらぬ憶測を生んでいる。みんな、怪談と人の不幸は大好きなのだ。
「それに、配信者も行方不明になってるだろ」
「ぴこ丸って人だよね。けっこう人気あったみたいだから、地獄館からの最後の配信以来行方不明になって、騒動になってる。それまで毎日配信してたみたいだし」
「俺、最後の配信映像見たよ。なんか変なのが映ってたな」
「僕も見た」
最後、目をかっと見開いたいかにもとり憑かれた感じのぴこ丸の後ろに、こちらをじっと睨みつける怪しい男が立っていた。
近隣住民かと思ったが、いきなり現れるのはやはり不自然だし、ぴこ丸の仲間とも思えない。
もちろん配信なので、やらせの可能性は考慮しなくてはならないのだが、坂口はこの男に見覚えがある。
Kパパのブログに載っていた写真と、男の特徴がきれいに一致するのだ。
事務所に現れたふたりを毬恵は歓迎し、冷たい緑茶を出してくれた。
「宇佐美さんのこと、お力になれなくてすみません」
頭を下げる毬恵に向かって、坂口はあわてて手を振る。
「いえ、別に毬恵さんを責めようとか、そんなことを思ってここに来たわけじゃないです。
僕が気になっているのは、地獄館にまつわる怪異そのものです。
晴彦が遺体で発見された後も、地獄館で起こる変な出来事は止まっていない。
行方不明になった高校生は遺体で発見されたし、あそこに入った配信者は行方不明になった」
「それは、私も存じています」
毬恵は少し言葉を切った後、語りだした。
「私の見解では、地獄館にいる霊たちは威力を強めていると思われます。
というのも、今まで地獄館は心霊スポットとして有名でしたが、人の気配がするとか声が聞こえるとか心霊写真が撮れるとか、大したことは起こっていませんでしたよね。
しかしここに来て相次ぐ行方不明者です。
あそこに住む霊が調子に乗って、いよいよ悪さをし始めたのでしょう」
「毬恵さんが言っていた男の霊、ですか」
毬恵がうなずく。毬恵が地獄館を訪れた時に指摘し、ぴこ丸も配信のなかで過去に起こった事件と関連が見られない、と言っていたあの男だ。
「霊視したところ、あの霊は危険です。このまま放っておけば、次々と被害者が出てしまうでしょう。地獄館を訪れていない人間にまで危害が及ぶ可能性があります」
「どういうことですか?」
「たとえばインターネットなどで地獄館の情報をたまたま目にしてしまった、そういう人までもが悪影響を受けてしまうということです」
それは、いくらなんでも影響が強すぎるのではないか。
今の時代インターネット上の情報をせき止めることなんてできないし、地獄館に行ってはいけないどころか、調べてもいけないとなったら、被害者はものすごい数になるだろう。
坂口が言葉を失っていると、毬恵がやや前のめり気味になって言った。
「私の力では前回も失敗してしまったように、あの霊に太刀打ちすることはできません。なので、ここは私の師匠を呼びたいと思います」
「師匠」
「徳永伸(のぶ)輝(てる)さんと言って、山梨にいらっしゃる方です。私が若い頃、霊媒師の修行をした時、お世話になりました。少し遠いですが、事情を話すと来ていただけることになりました」
毬恵の平らな声に、にわかに熱がこもる。
「地獄館の霊を放置するわけにはいきません。ちゃんと徳永さんに除霊してもらい、街に平穏を取り戻しましょう」



