現れた小磯颯希は、今どきの女子高生という感じの少女だった。
本人いわく通っている高校は底辺校らしく、髪の色は明るくてメイクも派手だが、眼差しにやさぐれた光はない。
銀色のブレスネットをきらりと揺らしながらオレンジジュースをひと口飲んだ後、颯希はぽつぽつと自分の置かれている状況を語りだした。

「地獄館に行ったあの日から、おかしいんです。佐藤も山本も西川も、それについに美(み)南(なみ) まで行方不明になって。
そんな時に、あたしが見かけたその人が遺体で発見、でしょ? なんかすごい怖くなっちゃって。
このままじゃほんとに自分に何が起こるかわかんないから、夜もろくに眠れなくって」

 本当に寒気がしたようにぶるっと肩を震わせる颯希は、よく見ると目の下に歳に似合わないくっきりとした隈(くま)ができている。
本当に眠れていないのだろう。

「ハルを見かけた時の状況を話してくれる?」
 坂口が促すと、颯希は素直にこくっとうなずいた。

「あたしん家、大山地区の西側で、学校にはバスと電車を乗り継いで通ってるんですけど。
普段の移動はこんな山道、自転車じゃ使いものにならないから基本徒歩なんですね。

その日は友だちと遊んでちょっと遅くなって、バス降りて家まで歩いてたら、雑木林のほうからざわざわ音がして、シカかと思ったら現れたのが人だから、すごくびっくりして。
不審者?痴漢?やばっ、て警察呼ぼうとしたけど、その人はあたしのほうを見もしないで、あさっての方向へ歩いていっちゃって。ずっとぼそぼそ呟いてました。リカコ、リカコって」

「リカコ?」

 坂口と将人は顔を見合わす。晴彦の少ない女性の知り合いのなかに、リカコという名前の人がいただろうか。それとも何か別の言葉を聞き間違えたのだろうか。

「とにかく様子がおかしかったからその場で通報して、で、警察の人が家に来てちょっと事情を聞かれました。
一瞬見ただけだったけど、黒のロックTシャツにズボンって服装も覚えてたから、それも伝えて。
そしたら二週間経ってまた警察から連絡があって、この前小磯さんが見た人はこの人ですか、って聞かれたもんだから、びっくりしましたよ。
まさか遺体で発見されたなんて。地方新聞は見てたからうちの近くでそんなことがあったのは知ってたけど、生前のその人を自分が見ていたなんて、思いもしなかったし」

 颯希がどうしてニュースに顔が出ていない晴彦のことを、一度会っただけのその人物だとわかったのかが疑問だったが、なるほどと合点がいった。警察のほうからアプローチしてきたのだ。

「うちはもう大騒ぎですよ、近所に不審者が潜伏していたなんて危ない、あんたも遊びに行くのはかまわないけど明るいうちに帰ってきなさいって。
でもそういう問題じゃないと思うんですよね、不審者とは違うでしょう、この人は。
悪いことしてたわけでもないし、むしろよくわからない感じで死んじゃったんだし、どっちかっていうと被害者じゃないですか。
そしたらあの人が、地獄館に行ったっていうのがわかって……本当に怖くなっちゃって」

 颯希の目にぶわっと涙が滲み、アイラインが溶けるのもかまわない乱暴な仕草で目元を拭う。

「きっとあたしも呪われてるんです。あの時一緒にいた六人中、四人が既に行方不明。次はあたしに決まってます。

地獄館にいる何かは、あたしを許してくれないんですよ」