ポケットでスマホが震えている。画面には「権田 将人」と表示されていた。

「もしもし」
 A駅の改札に入る前に、坂口は電話を取った。

『会ってきたのか?』
「うん。貴重な話を聞けたよ」
『一緒に行けなくてごめんな。バイトだったから』
「大丈夫。で、わざわざ電話してきたってことは、なんかあるの?」

 ためらうような沈黙の後、将人が重々しい口調で告げた。





『ハルが遺体で見つかった』





 遺体、という言葉の意味を正しく脳が理解する前に、数十秒を要した。

 坂口の隣を塾帰りらしい女子高生が通り過ぎていく。酔っ払ったサラリーマンの集団がガハハと笑い声を上げる。カップルが腕を組んで微笑んでいる。誰かを待っているらしい若い女が眉間に皺を寄せてスマホをいじっている。

『……坂口、大丈夫か?』

 呼吸が速くなる。目の前が暗くなる。
 もしもし、もしもしとスマホから将人の声がしている。坂口の手から固い端末の感触がずるっと滑り落ちた。




 二十五日午前中、I市大山町で男性の遺体が発見された。遺体の所持品から遺体は行方不明になっていた宇佐美晴彦さん(19)のものと特定された。

 宇佐美さんは約一か月前から行方不明になっており、捜索願が提出されていた。遺体に目立った外傷は見られず、警察は慎重に死因を調べている。

神奈川中央新聞 二〇二五年八月二十六日