えーと、米田慎吾です。湘南大学の経済学部に今年の四月に入ったから、まだ一年生です。誕生日が一月なんでまだ十八っす。
えーと、Y峠に行った時のことを話せばいいんですよね?
あの日は前期のテストがちょうど終わって、友だち三人と遊びに行こうぜって話になったんです。
みんな、同じ学部っすよ。基礎ゼミで同じクラスで、話すようになったメンツ。
仮にA、B、Cとしときますね。Aは免許とったばっかで、運転の練習がてら付き合ってくれって。
Y峠に行きたいって言いだしたのはBでした。
Y峠、うちの地元だとちょっとした夜景スポットなんです。
展望台みたいなのがあって、夜だとけっこう見晴らしがいいんすよ。
カップルのデートスポットでは定番。俺はまだ行ったことなかったんですけどね、ほらこの春長野の田舎から、こっち出てきたばっかだから。
で、四人で車に乗って、Aが運転席、助手席に俺、BとCは後部座席。
カーステレオで音楽かけて、盛り上がってました。まだそこまで遅い時間じゃなかったと思います、たぶん十九時とかだったはず。
まだ免許取りたてだから、たまにちょっとひやひやさせられましたよ。
Y峠なんてめちゃくちゃ曲がりくねってるから。お前事故起こすなよーって、三人でちゃちゃ入れながらなんとか、展望台までたどり着きました。
展望台には俺たちの他にも車が数台停まってました。みんなカップルでしたね、俺たちと同い歳くらいの。
全員彼女いないから、リア充死ねーとか、ハタチまでにぜったい彼女作ってやるー、とか騒いでました、夜景そっちのけで。
いや、夜景はきれいなんですよさすがに。展望台作るだけはあって、街全体が見渡せて。
きっと東京の夜景とかとは比べ物にならないんでしょうけど、闇の中にぼんやり山のシルエットが浮かび上がって、裾に街明かりが広がってて、月がすごくきれいに見えた。SNSに上げようと思って、何枚か写真を撮りました。
で、わいわい騒いでたら、そのうちBの様子がおかしくなったんですよ。なんか、あきらかに挙動不審っていうか。
しゃべってるのにぜんぜん話聞いてない感じだし、視線が変なとこいってて。どうしたん?って聞いたら、女がいる、って言うんですよ。
展望台の柵の向こうから、黒い服を着た女がこっちを見つめてるって。
お前怖いこと言うなよーって茶化してたんですが、B、真剣で。いやなんでお前ら見えないの? めっちゃこっち見てるじゃん? なんか、刺し殺すようなすごい目で。
って繰り返すから、そのうち俺たちも気味が悪くなってきて。
Cが帰ろう、って言って、Aも俺もそれに従い、Bも素直に車に乗りました。
車に乗ってしばらくは普通だったんですけど、そのうちBの様子がもっとおかしくなっていったんです。
目を見開いて、しね、しねって繰り返すんですよ。どう考えても、あれはイッちゃってた。
Cがお前どうしたんだよ、大丈夫かって肩を叩いたら、ぎゃあああああ!!とかすごい声出して。
それからずっと、しねしねしねしねしねしねしね!!って狂ったように叫びだして、正直、ああもうこれやばいわ、って思ったんです。
考えたくないけれど、Bはその黒い服の女にとり憑かれたんだな、って。
で、そしたら今度はCがぎゃあああ!!ってすごい声で叫んだんです。
なんだよお前までどうにかなっちゃったのかよ、ってちょっとうんざりしつつも涙目でどうした!?
って聞いたら、女がついてきてる、って。
そして窓の外を見ると、走ってるんですよ、真っ黒い服を着た女が。
車にぴったりくっつくようにして、ものすごいスピードで。
なんか、怪談であるじゃないですか。ターボババア、でしたっけ?
車を追いかけてくるおばあちゃんがいる、って怪異。ほとんどあんな感じです。
この時は、全員が女を見ました。
それからはもうパニックです。
Bは相変わらずしねしね叫んでるし、Cはやばいどうしよう追いつかれる殺される、って泣いてるし、
Aはあまりの出来事で運転に集中できなくて、でも本能的にあの女に追いつかれたらやばいって思ったんでしょうね、ぐんぐんスピード上げるんですけど、でも女はついてくる。
そして峠道だから、カーブを曲がるたびにひやひやしました。本当に生きた心地がしなかったです。
そしてある時から、ふっとBが黙りました。窓の外を見ると、女が消えてた。
道は峠を抜けて、市街地に差し掛かろうとしてました。
よかった、なんとか生きて帰って来れた。そう、ふっと肩の力を抜いた途端、耳元で声が聞こえました。
地獄に引きずりこむ。
たしかにそう聞こえました。
AでもBでもCでもないです、若い女の声だった。
Aがお前今なんか言った?っていうからなんも言ってないよ、って。
Bは放心状態で反応なかったけど、Cもなんも言ってねえよ、お前なんじゃねえの?って。
その後、あの声の主は誰だったのかで、少し揉めました。
その日から、Bとは連絡が取れていません。
誰が連絡してもつながらないし、Bの親を名乗る人から連絡が来ました。
テストが終わったら帰ってくるって言ってたのにぜんぜん連絡がない、心配してアパートに行ってももぬけの殻、何か知ってることはないかと。
Y峠に行ったことを話したんですが、なんか訝しげな顔をされました。
そりゃそうですよね、女の怪異に遭遇してとり憑かれたなんて、信じてもらえるわけないですよ。
そして後から気づいたんだけど、あの日、展望台で撮った写真……ほら、これです。
ここのところに、何か写ってませんか? 人影みたいなもの。
ぼんやりしてるけれど、黒い服を着ているように見えなくもない。
Bが見たのは、こいつだったんでしょうか。Bは、どこに行っちゃったんでしょうか。
えーと、Y峠に行った時のことを話せばいいんですよね?
あの日は前期のテストがちょうど終わって、友だち三人と遊びに行こうぜって話になったんです。
みんな、同じ学部っすよ。基礎ゼミで同じクラスで、話すようになったメンツ。
仮にA、B、Cとしときますね。Aは免許とったばっかで、運転の練習がてら付き合ってくれって。
Y峠に行きたいって言いだしたのはBでした。
Y峠、うちの地元だとちょっとした夜景スポットなんです。
展望台みたいなのがあって、夜だとけっこう見晴らしがいいんすよ。
カップルのデートスポットでは定番。俺はまだ行ったことなかったんですけどね、ほらこの春長野の田舎から、こっち出てきたばっかだから。
で、四人で車に乗って、Aが運転席、助手席に俺、BとCは後部座席。
カーステレオで音楽かけて、盛り上がってました。まだそこまで遅い時間じゃなかったと思います、たぶん十九時とかだったはず。
まだ免許取りたてだから、たまにちょっとひやひやさせられましたよ。
Y峠なんてめちゃくちゃ曲がりくねってるから。お前事故起こすなよーって、三人でちゃちゃ入れながらなんとか、展望台までたどり着きました。
展望台には俺たちの他にも車が数台停まってました。みんなカップルでしたね、俺たちと同い歳くらいの。
全員彼女いないから、リア充死ねーとか、ハタチまでにぜったい彼女作ってやるー、とか騒いでました、夜景そっちのけで。
いや、夜景はきれいなんですよさすがに。展望台作るだけはあって、街全体が見渡せて。
きっと東京の夜景とかとは比べ物にならないんでしょうけど、闇の中にぼんやり山のシルエットが浮かび上がって、裾に街明かりが広がってて、月がすごくきれいに見えた。SNSに上げようと思って、何枚か写真を撮りました。
で、わいわい騒いでたら、そのうちBの様子がおかしくなったんですよ。なんか、あきらかに挙動不審っていうか。
しゃべってるのにぜんぜん話聞いてない感じだし、視線が変なとこいってて。どうしたん?って聞いたら、女がいる、って言うんですよ。
展望台の柵の向こうから、黒い服を着た女がこっちを見つめてるって。
お前怖いこと言うなよーって茶化してたんですが、B、真剣で。いやなんでお前ら見えないの? めっちゃこっち見てるじゃん? なんか、刺し殺すようなすごい目で。
って繰り返すから、そのうち俺たちも気味が悪くなってきて。
Cが帰ろう、って言って、Aも俺もそれに従い、Bも素直に車に乗りました。
車に乗ってしばらくは普通だったんですけど、そのうちBの様子がもっとおかしくなっていったんです。
目を見開いて、しね、しねって繰り返すんですよ。どう考えても、あれはイッちゃってた。
Cがお前どうしたんだよ、大丈夫かって肩を叩いたら、ぎゃあああああ!!とかすごい声出して。
それからずっと、しねしねしねしねしねしねしね!!って狂ったように叫びだして、正直、ああもうこれやばいわ、って思ったんです。
考えたくないけれど、Bはその黒い服の女にとり憑かれたんだな、って。
で、そしたら今度はCがぎゃあああ!!ってすごい声で叫んだんです。
なんだよお前までどうにかなっちゃったのかよ、ってちょっとうんざりしつつも涙目でどうした!?
って聞いたら、女がついてきてる、って。
そして窓の外を見ると、走ってるんですよ、真っ黒い服を着た女が。
車にぴったりくっつくようにして、ものすごいスピードで。
なんか、怪談であるじゃないですか。ターボババア、でしたっけ?
車を追いかけてくるおばあちゃんがいる、って怪異。ほとんどあんな感じです。
この時は、全員が女を見ました。
それからはもうパニックです。
Bは相変わらずしねしね叫んでるし、Cはやばいどうしよう追いつかれる殺される、って泣いてるし、
Aはあまりの出来事で運転に集中できなくて、でも本能的にあの女に追いつかれたらやばいって思ったんでしょうね、ぐんぐんスピード上げるんですけど、でも女はついてくる。
そして峠道だから、カーブを曲がるたびにひやひやしました。本当に生きた心地がしなかったです。
そしてある時から、ふっとBが黙りました。窓の外を見ると、女が消えてた。
道は峠を抜けて、市街地に差し掛かろうとしてました。
よかった、なんとか生きて帰って来れた。そう、ふっと肩の力を抜いた途端、耳元で声が聞こえました。
地獄に引きずりこむ。
たしかにそう聞こえました。
AでもBでもCでもないです、若い女の声だった。
Aがお前今なんか言った?っていうからなんも言ってないよ、って。
Bは放心状態で反応なかったけど、Cもなんも言ってねえよ、お前なんじゃねえの?って。
その後、あの声の主は誰だったのかで、少し揉めました。
その日から、Bとは連絡が取れていません。
誰が連絡してもつながらないし、Bの親を名乗る人から連絡が来ました。
テストが終わったら帰ってくるって言ってたのにぜんぜん連絡がない、心配してアパートに行ってももぬけの殻、何か知ってることはないかと。
Y峠に行ったことを話したんですが、なんか訝しげな顔をされました。
そりゃそうですよね、女の怪異に遭遇してとり憑かれたなんて、信じてもらえるわけないですよ。
そして後から気づいたんだけど、あの日、展望台で撮った写真……ほら、これです。
ここのところに、何か写ってませんか? 人影みたいなもの。
ぼんやりしてるけれど、黒い服を着ているように見えなくもない。
Bが見たのは、こいつだったんでしょうか。Bは、どこに行っちゃったんでしょうか。



