担任の篠田に呼び出され、吉岡にちょっかいを出しているのではないかと注意をされた。
俺は何が悲しくてあんな女にちょっかいを出さなきゃいけないんだ。
確かに吉岡を創作のための研究材料として観察はしていた。
しかし、それがなんだ?
吉岡は確かにクラスでは人気者かもしれないが、誰にでも好かれていると思っていたら大間違いだ。常に誰かに見られていると考えるのは自意識過剰だ。
バカじゃねーの、俺はお前の本体なんかに興味ないんだよ。ただちょっと小説のネタに使おうとしただけだ。道端ですれ違う汚い野良犬を見て、それをネタにするのと同じことだ。
それなのに、教師に「私、橋にちょっかい出されてます」とか言ったのだとしたら、何様のつもりか。悲劇のヒロイン気取りか。厚かましい女だ。
それを信じる篠田も篠田だ。
あんなクソビッチの言うことをいちいち信じるなんてどうかしている。あいつが告発したら全員加害者確定か? 俺は犯罪者か?
待てよ、もしかしたら、あいつらデキてるんじゃないのか? 教師と生徒の不祥事なんてものはテレビのニュースを騒がせる話題だ。篠田も二十代の男、女子高生と付き合えるならばなんだってするはずだ。
大人なんて自分の性欲だけで動いているような汚い奴らだ。あの篠田だって小さいころに描いていた夢に破れ、人生に目的をなくし、ただ消費するだけの生活を送っているはずだ。
目の前にいるビッチな女子高生に言い寄られたら、ノーと言えるはずがない。昔描いた綺麗な夢より、目の前のクソビッチなのだ。そんな大人なんて信じられるか。
吉岡と篠田はグルだ。
俺の書籍化作家という夢をぶち壊すために、こんな嫌がらせをしてくるのだ。才能に対する嫉妬からくる妨害対策なのだ。
俺は考えれば考えるほど、周りは敵だらけなのだと実感した。
この国は夢を持つ若者を潰しにかかるのだ。生徒の色香にかかった教師が自分の社会的地位を利用し、俺の夢を妨害する。教師ならば生徒の夢を応援するのが普通じゃないのか?
嫉妬とは醜いものだ。俺が未来の書籍化作家になることを妬んでいるのだろう。これが大人のすることか。
「クソが。クソばっかか」
俺は呼び出しを食らった生徒指導室から自分の教室に戻り、何事もなかったかのように席に着いた。一瞬、吉岡がこちらを見たような気がしたが、軽く無視する。
あいつは俺が篠田に呼び出された理由を把握していたはずだ。俺が篠田に注意されてへこんでいると思ったはずだ。
そんなわけねーよ。あんな嫉妬に狂った教師の言うことなんか、眼中にない。
天才が凡人に妨害されるのは世の常だ。これは俺に課せられた、越えるべき障害。いや、そんなたいそうなものではない、篠田なんか道端の石ころだ。軽く一跨ぎだ。吉岡みたいなキャンキャン吠えるだけの野良犬も軽く追い払ってやるよ。
クソが。嫉妬してるんじゃねーよ、どいつもこいつも、俺の才能が羨ましいんだろ、ダボが。
俺は鞄からネタ帳を取り出し、堂々と読み始める。もう校舎の裏でこそこそする必要もない。俺は未来の書籍化作家だ。確定された未来だ。こんな高校生活なんて、教師もクラスメイトも、邪魔をする者は無視すりゃいい。
そのかわり、俺が有名になってから寄り添ってきても、知らねえからな。一時的な嫉妬で俺を敵に回して後悔するなよ。
ネタ帳には「異世界ハーレム戦記」の今後のプロットが綴られている。一度は白紙に戻しかけたが、やはり最初の構想通り進めるのが一番だ。
天才は時に悩みを抱える。今まで通ってきた道が間違いだったか振り返り、これから続く道が正解か不安になる。
そこらの凡人は何も考えずにアホみたいに歩いているだけだろうが、俺は日々考え、悩み、探りながら生きてるのだ。だから天才になりうる素質があり、天才となるのだ。
お前らは目の前のテストの結果で一喜一憂して未来を誤魔化していればいい。俺はお先に、夢に向かって邁進している。路傍の石ころや野良犬に構っている暇などないのだから。
五時間目が始まっても、俺は授業など上の空でネタ帳を眺めていた。
こうやって読み返していても、これは最高のファンタジー小説である。作者が自分で言うのだから間違いない。これを読んで面白くないという人がいたら、きっとそれは異常者だ。
そう、山本なんかがそうだ。可哀そうな奴だ。
極上のエンターテイメントが理解できずに、否定することで自尊心を保とうとしているだけ。それじゃあ書籍化されても売れずに埋もれていくだけだ。所詮、そこが俺と山本の大きな違いである。
書籍化で満足して自分が天才になったかのように錯覚する山本。俺から見りゃ、おまえもただの石ころだ。いや、自信過剰でまわりにアピールする浅ましさを考慮すると、犬のクソだ。踏み潰すのも躊躇する、犬のクソだ。
俺は早く家に帰って執筆に集中したかった。授業を受けている暇さえもったいない。
今、俺の頭の中にはアイデアが溢れている。吐き出したい。天才の才能は無限である。こんな学校の小さな教室に縛りつけられているわけにはいかない。
終わりのホームルーム。
篠田が教室に来たが、俺はそんなこと構わずに荷物をまとめる。さっさと意味のない形式だけのホームルームを終えてくれ。俺は忙しいんだ。
「テスト終わったからって気を抜かないようにな。来月にはすぐに期末テストだぞ」
うっせーバカ。カレンダーくらい読めるから、さっさと終わらせろ。
「じゃ、また明日な。それから、橋はあとで生徒指導室に来てくれ」
はぁ?
ホームルームが終わった教室は、部活へ向かう者、帰宅する者、談笑する者、とりあえずおもちゃ箱をひっくり返したような喧噪が訪れた。
その中でただ一人、俺の頭の中だけは静寂が支配していた。
何故また篠田に呼び出されなきゃならないのだ?
もうお前の嫉妬は俺が大人な対応をして処理したはずだ。これ以上なんの話がある? また新たな嫌がらせか? そうか、俺を帰って執筆させないためか。手段選ばずってわけか。
さすがに俺は腸が煮えくり返った。無視して帰ろうか。
いや、そうすると奴はさらに嫉妬の炎を燃やすかもしれない。才能ある生徒へ嫉妬する教師とは、世も末だ。仕方ない、付き合ってやる。
俺は生徒指導室へと向かった。また吉岡はこっちを汚いツラで見ているのだろうが、俺は知る必要もない。
生徒指導室に入ると、昼休みと同じように、パーテーションの向こうに篠田が座っていた。
「座れ」
篠田は横暴な口調でそう指示した。偉そうに。
俺は仕方なく、従う。子どものような大人に、ムキになっていたら感情の無駄遣いだ。
「読ませてもらったよ。お前の小説」
はぁ?
「吉岡の言う通り、自分の小説の中で吉岡を登場させて、間接的にちょっかい出してたのか。お前がどんな小説書こうが先生は文句は言えないが、それを読んで嫌な気分になる奴がいるってことがあるんだ」
篠田は真面目腐った顔で、俺を見つめる。
このバカ教師は何を言ってるんだ? 俺の「異世界ハーレム戦記」を読んだ? 俺の小説のどこに吉岡が登場しているのだ? あんなクソビッチが俺の崇高な小説に登場? 高校の教師が俺の小説を読んで、その上でそんなことを言っているのか?
「主人公のカズマはお前本人のことだろう。お前が吉岡のことを気に入っているのは分かるが、ネットでこんな風にコソコソしてるのは、あまりいいことじゃないぞ。吉岡も怖がっててな、泣いて俺に訴えてきたんだ」
はぁ?
俺が吉岡のことを気に入っている? ネットでコソコソしてるだと?
「なんて言っていいか、俺は高校生の恋愛には反対しない。青春だからな。ただ、その好きという気持ちが間違った方向に行くと、相手に恐怖を与えてしまうことになるんだ。橋、ストーカーって分かるか?」
は? ストーカー?
「お前の吉岡に対する気持ちは否定しない。ただ、アプローチの仕方が間違っている。いや、間違っていると言うのは難しい問題だが、ネットの小説の中でキスしたり、ハーレムとか、そういうのは違うだろ? もう少し健全な愛の表現というのがあるはずだと、俺は思うんだ」
このバカ教師は俺が吉岡のことが好きで、その気持ちを小説に投影しているとでも言いたいのか? 愛の表現? ストーカー? 俺が?
「だからぁ、吉岡は怖がってるんだよ。お前に吉岡のことを諦めろとか、そういうことは言えないけどな、あの小説を書くのはやめてくれないか? 俺も読んでみたけど、異世界か? 異世界というところでお前が最強になって、吉岡をハーレムに囲うとか、お前の願望に文句をつけるわけじゃないが、ちょっと、なぁ? 高校生としては、健全じゃないよな?」
俺は知らず知らずに顔中に汗が溢れていた。
恥ずかしい? いや、違う。
侮辱に耐えられないだけだ。このバカ教師が俺の小説を侮辱し、さらに俺が吉岡のことが好きだなんてことを言い出すからだ。
ありえない。ありえない。俺が、あんなクソビッチ、ありえない。
「何か言うことはないか? もし吉岡に謝りたいのなら、俺が間に入ってやるしな」
謝る? 呆れて口が聞けないだけだ。なんで俺が吉岡に謝らなくちゃいけない。
こいつ、バカか? ていうか読解力ゼロか? 何をどう読んだら、俺が吉岡のことを小説に書いていると思えるんだ。あんなクソビッチと俺のミナを一緒にしないでくれ。
「そうか。お前が何も言うつもりがないのなら、仕方がない。さっき、お前のお母さんに連絡しといたから、家でちょっと話し合ってくれないか。今回お前の成績が悪かったのも、この小説が原因のひとつだろうしな。進路とか、そういうことも含めて、考えてくれ」
はぁぁぁぁぁぁぁ?
母は関係ないだろうが。母に、俺の小説のことを言ったのか? 俺が「異世界ハーレム戦記」という小説を書いてること、言ったのか? 吉岡のことを書いているとかお前の想像も加えて? こいつ、超絶バカか?
「じゃあ、今日はもう帰れ。な、将来について考えるいい機会だ」
篠田はそう言うと、俺の肩に手を乗せ、ほぼ強制的に立たせた。早く出て行けということなのだろう。俺は成すすべなく、生徒指導室を後にした。
なぜこんなことになる? なぜ? なぜ俺だけこんな仕打ちに会わねばならぬのだ。俺はただ、小説を書いているだけなのに。
俺は何が悲しくてあんな女にちょっかいを出さなきゃいけないんだ。
確かに吉岡を創作のための研究材料として観察はしていた。
しかし、それがなんだ?
吉岡は確かにクラスでは人気者かもしれないが、誰にでも好かれていると思っていたら大間違いだ。常に誰かに見られていると考えるのは自意識過剰だ。
バカじゃねーの、俺はお前の本体なんかに興味ないんだよ。ただちょっと小説のネタに使おうとしただけだ。道端ですれ違う汚い野良犬を見て、それをネタにするのと同じことだ。
それなのに、教師に「私、橋にちょっかい出されてます」とか言ったのだとしたら、何様のつもりか。悲劇のヒロイン気取りか。厚かましい女だ。
それを信じる篠田も篠田だ。
あんなクソビッチの言うことをいちいち信じるなんてどうかしている。あいつが告発したら全員加害者確定か? 俺は犯罪者か?
待てよ、もしかしたら、あいつらデキてるんじゃないのか? 教師と生徒の不祥事なんてものはテレビのニュースを騒がせる話題だ。篠田も二十代の男、女子高生と付き合えるならばなんだってするはずだ。
大人なんて自分の性欲だけで動いているような汚い奴らだ。あの篠田だって小さいころに描いていた夢に破れ、人生に目的をなくし、ただ消費するだけの生活を送っているはずだ。
目の前にいるビッチな女子高生に言い寄られたら、ノーと言えるはずがない。昔描いた綺麗な夢より、目の前のクソビッチなのだ。そんな大人なんて信じられるか。
吉岡と篠田はグルだ。
俺の書籍化作家という夢をぶち壊すために、こんな嫌がらせをしてくるのだ。才能に対する嫉妬からくる妨害対策なのだ。
俺は考えれば考えるほど、周りは敵だらけなのだと実感した。
この国は夢を持つ若者を潰しにかかるのだ。生徒の色香にかかった教師が自分の社会的地位を利用し、俺の夢を妨害する。教師ならば生徒の夢を応援するのが普通じゃないのか?
嫉妬とは醜いものだ。俺が未来の書籍化作家になることを妬んでいるのだろう。これが大人のすることか。
「クソが。クソばっかか」
俺は呼び出しを食らった生徒指導室から自分の教室に戻り、何事もなかったかのように席に着いた。一瞬、吉岡がこちらを見たような気がしたが、軽く無視する。
あいつは俺が篠田に呼び出された理由を把握していたはずだ。俺が篠田に注意されてへこんでいると思ったはずだ。
そんなわけねーよ。あんな嫉妬に狂った教師の言うことなんか、眼中にない。
天才が凡人に妨害されるのは世の常だ。これは俺に課せられた、越えるべき障害。いや、そんなたいそうなものではない、篠田なんか道端の石ころだ。軽く一跨ぎだ。吉岡みたいなキャンキャン吠えるだけの野良犬も軽く追い払ってやるよ。
クソが。嫉妬してるんじゃねーよ、どいつもこいつも、俺の才能が羨ましいんだろ、ダボが。
俺は鞄からネタ帳を取り出し、堂々と読み始める。もう校舎の裏でこそこそする必要もない。俺は未来の書籍化作家だ。確定された未来だ。こんな高校生活なんて、教師もクラスメイトも、邪魔をする者は無視すりゃいい。
そのかわり、俺が有名になってから寄り添ってきても、知らねえからな。一時的な嫉妬で俺を敵に回して後悔するなよ。
ネタ帳には「異世界ハーレム戦記」の今後のプロットが綴られている。一度は白紙に戻しかけたが、やはり最初の構想通り進めるのが一番だ。
天才は時に悩みを抱える。今まで通ってきた道が間違いだったか振り返り、これから続く道が正解か不安になる。
そこらの凡人は何も考えずにアホみたいに歩いているだけだろうが、俺は日々考え、悩み、探りながら生きてるのだ。だから天才になりうる素質があり、天才となるのだ。
お前らは目の前のテストの結果で一喜一憂して未来を誤魔化していればいい。俺はお先に、夢に向かって邁進している。路傍の石ころや野良犬に構っている暇などないのだから。
五時間目が始まっても、俺は授業など上の空でネタ帳を眺めていた。
こうやって読み返していても、これは最高のファンタジー小説である。作者が自分で言うのだから間違いない。これを読んで面白くないという人がいたら、きっとそれは異常者だ。
そう、山本なんかがそうだ。可哀そうな奴だ。
極上のエンターテイメントが理解できずに、否定することで自尊心を保とうとしているだけ。それじゃあ書籍化されても売れずに埋もれていくだけだ。所詮、そこが俺と山本の大きな違いである。
書籍化で満足して自分が天才になったかのように錯覚する山本。俺から見りゃ、おまえもただの石ころだ。いや、自信過剰でまわりにアピールする浅ましさを考慮すると、犬のクソだ。踏み潰すのも躊躇する、犬のクソだ。
俺は早く家に帰って執筆に集中したかった。授業を受けている暇さえもったいない。
今、俺の頭の中にはアイデアが溢れている。吐き出したい。天才の才能は無限である。こんな学校の小さな教室に縛りつけられているわけにはいかない。
終わりのホームルーム。
篠田が教室に来たが、俺はそんなこと構わずに荷物をまとめる。さっさと意味のない形式だけのホームルームを終えてくれ。俺は忙しいんだ。
「テスト終わったからって気を抜かないようにな。来月にはすぐに期末テストだぞ」
うっせーバカ。カレンダーくらい読めるから、さっさと終わらせろ。
「じゃ、また明日な。それから、橋はあとで生徒指導室に来てくれ」
はぁ?
ホームルームが終わった教室は、部活へ向かう者、帰宅する者、談笑する者、とりあえずおもちゃ箱をひっくり返したような喧噪が訪れた。
その中でただ一人、俺の頭の中だけは静寂が支配していた。
何故また篠田に呼び出されなきゃならないのだ?
もうお前の嫉妬は俺が大人な対応をして処理したはずだ。これ以上なんの話がある? また新たな嫌がらせか? そうか、俺を帰って執筆させないためか。手段選ばずってわけか。
さすがに俺は腸が煮えくり返った。無視して帰ろうか。
いや、そうすると奴はさらに嫉妬の炎を燃やすかもしれない。才能ある生徒へ嫉妬する教師とは、世も末だ。仕方ない、付き合ってやる。
俺は生徒指導室へと向かった。また吉岡はこっちを汚いツラで見ているのだろうが、俺は知る必要もない。
生徒指導室に入ると、昼休みと同じように、パーテーションの向こうに篠田が座っていた。
「座れ」
篠田は横暴な口調でそう指示した。偉そうに。
俺は仕方なく、従う。子どものような大人に、ムキになっていたら感情の無駄遣いだ。
「読ませてもらったよ。お前の小説」
はぁ?
「吉岡の言う通り、自分の小説の中で吉岡を登場させて、間接的にちょっかい出してたのか。お前がどんな小説書こうが先生は文句は言えないが、それを読んで嫌な気分になる奴がいるってことがあるんだ」
篠田は真面目腐った顔で、俺を見つめる。
このバカ教師は何を言ってるんだ? 俺の「異世界ハーレム戦記」を読んだ? 俺の小説のどこに吉岡が登場しているのだ? あんなクソビッチが俺の崇高な小説に登場? 高校の教師が俺の小説を読んで、その上でそんなことを言っているのか?
「主人公のカズマはお前本人のことだろう。お前が吉岡のことを気に入っているのは分かるが、ネットでこんな風にコソコソしてるのは、あまりいいことじゃないぞ。吉岡も怖がっててな、泣いて俺に訴えてきたんだ」
はぁ?
俺が吉岡のことを気に入っている? ネットでコソコソしてるだと?
「なんて言っていいか、俺は高校生の恋愛には反対しない。青春だからな。ただ、その好きという気持ちが間違った方向に行くと、相手に恐怖を与えてしまうことになるんだ。橋、ストーカーって分かるか?」
は? ストーカー?
「お前の吉岡に対する気持ちは否定しない。ただ、アプローチの仕方が間違っている。いや、間違っていると言うのは難しい問題だが、ネットの小説の中でキスしたり、ハーレムとか、そういうのは違うだろ? もう少し健全な愛の表現というのがあるはずだと、俺は思うんだ」
このバカ教師は俺が吉岡のことが好きで、その気持ちを小説に投影しているとでも言いたいのか? 愛の表現? ストーカー? 俺が?
「だからぁ、吉岡は怖がってるんだよ。お前に吉岡のことを諦めろとか、そういうことは言えないけどな、あの小説を書くのはやめてくれないか? 俺も読んでみたけど、異世界か? 異世界というところでお前が最強になって、吉岡をハーレムに囲うとか、お前の願望に文句をつけるわけじゃないが、ちょっと、なぁ? 高校生としては、健全じゃないよな?」
俺は知らず知らずに顔中に汗が溢れていた。
恥ずかしい? いや、違う。
侮辱に耐えられないだけだ。このバカ教師が俺の小説を侮辱し、さらに俺が吉岡のことが好きだなんてことを言い出すからだ。
ありえない。ありえない。俺が、あんなクソビッチ、ありえない。
「何か言うことはないか? もし吉岡に謝りたいのなら、俺が間に入ってやるしな」
謝る? 呆れて口が聞けないだけだ。なんで俺が吉岡に謝らなくちゃいけない。
こいつ、バカか? ていうか読解力ゼロか? 何をどう読んだら、俺が吉岡のことを小説に書いていると思えるんだ。あんなクソビッチと俺のミナを一緒にしないでくれ。
「そうか。お前が何も言うつもりがないのなら、仕方がない。さっき、お前のお母さんに連絡しといたから、家でちょっと話し合ってくれないか。今回お前の成績が悪かったのも、この小説が原因のひとつだろうしな。進路とか、そういうことも含めて、考えてくれ」
はぁぁぁぁぁぁぁ?
母は関係ないだろうが。母に、俺の小説のことを言ったのか? 俺が「異世界ハーレム戦記」という小説を書いてること、言ったのか? 吉岡のことを書いているとかお前の想像も加えて? こいつ、超絶バカか?
「じゃあ、今日はもう帰れ。な、将来について考えるいい機会だ」
篠田はそう言うと、俺の肩に手を乗せ、ほぼ強制的に立たせた。早く出て行けということなのだろう。俺は成すすべなく、生徒指導室を後にした。
なぜこんなことになる? なぜ? なぜ俺だけこんな仕打ちに会わねばならぬのだ。俺はただ、小説を書いているだけなのに。
