由岐奈は明かりの前に着いた。
木製のドアの上には、やはり木製の看板で、お洒落な筆記体文字で彫刻されて、GAME BAR と書かれていた。
薄青い光は店の看板照明だった。
──ゲームバー?なんだろ…ゲームして遊べるの?
とりあえず、入ってみて合わないなら出ればいっか。
由岐奈はドアを引いて中に入った。
店内は薄明るい照明が点いていて音楽はかかっていなかった。
見渡してみると十卓くらいテーブルがあって、それぞれが人が席に着いたら隣の席は見えなくなる高さの仕切りで区切ってある。
完全に、お一人様仕様みたいだ。
客は二、三人くらい居て、タブレットのような薄い板とにらめっこしていて、タップする音がパタパタと微かに聞こえた。

「いらっしゃいませ。初めての御来店ですか?」
声をかけてきたウェイトレスは、ツインテールで白いブラウスに膝が隠れる長めの黒いフリルスカートに総レースの黒いエプロンを着けた二十歳くらいの若い女性だった。
──え?スッゴい可愛いんだけど…私、メイドカフェみたいな場違いな店に入ったかな…でも話は聞いてみよう。
時間は夜中の一時近くなっていたし由岐奈は疲れていた。
「こちらへ、どうぞ」
ウェイトレスは他の客達から一番離れた席に由岐奈を案内した。
案内された席の椅子は、布製のカバーで被われていて程好い固さで疲れた体がフンワリ沈み込むような座り心地だった。
「ゲームバーへ、ようこそ。当店は主に終電を逃した方に朝までゲームしながら寛いで頂く方針で運営しております」
言いながら、腰掛けた由岐奈に熱いおしぼりを渡した。
「コースは二通りありまして、まず、始発までコースは、夜食、朝食付き朝五時から六時までにチェックアウトしていただきます」
──料金、高いかなぁ…
「もうひとつのコースは、朝七時までコースで始発で急いで帰らなくても大丈夫という方向けで、こちらも夜食と朝食付きです」
──料金が安い方でいいや。
「料金は始発待ちコースが二千円、七時までコースが三千円です。最初に現金で、お支払していただきます」
──えっ安過ぎない?…ああ、夜食と朝食が、お粗末なのかも。
ウェイトレスはニコニコしている。
「あの、ゲームバー、ということは、お酒もあるんですか?」
「はい、あります。お酒をご注文される場合は、一杯ごとに…その都度、料金をいただきます」
──なるほど分かり易いな。
「あ、あの、じゃあ始発待ちコースで、お願いします」
由岐奈は現金を取り出してウェイトレスに渡した。
「かしこまりました」
ウェイトレスは由岐奈にメニューを差し出した。
「こちらは夜食と朝食のメニューです。お決まりになりましたら、このボタンを押してください」
テーブルの横にボタンがあった。
ウェイトレスは説明を終えて優雅な身のこなしで去っていった。