田平由岐奈はK島田駅に着いて呆然としていた。
既に終電はなかった。
──ウソ~!なんで終電こんなに早くなってるの?就職したばかりの頃は確か、もう十五分くらい先まで終電あったのに。
駅は既にシャッターが降りている。
由岐奈は周りを見渡した。
今、降りてきた陸橋の階段を上って引き返せば大きな普通のコンビニはある。
だけど帰りたい一心で会社から約二十分かけて小走りできたのに、また階段を上るのは嫌だった。
それにコンビニじゃ休めない。
──だけど、どうしよう。
赤提灯の飲み屋が一軒。
由岐奈は酒は強い方ではないし、こうした飲み屋は終電が終わって、間も無く閉店だろう。
赤提灯の飲み屋がある道から反対側の道を歩いてみた。
カラオケ屋があるけどシャッターが閉まっていて看板だけがライトに照らされていた。
そのカラオケ屋の数件先にも飲み屋があるけど、ここも間も無く閉店するみたいだ。
金曜日の夜なのに。
そもそも、この太始線の終点K島田駅の周辺は住宅街だった。
それにしても住宅街にネカフェなんかないよね…。
どうしよう。
由岐奈は入社したばかりの会社を辞めたくなっていた。
仕事は慣れない上にミスを頻発している。
仕事が楽しくない。
皆、口調こそ穏やかにミスを説明してくるけどウンザリしているに違いない。

スタッフは立ち上げ当初から勤めている経験者同士で仲がいい。
初日、
「じゃ、お昼休憩入ってくださーい」
と、声はかけられたけど仲良し同士はくっついてサッサと食堂に行ったので由岐奈は場所を知らなかったから後ろから離れてついて行き、食堂では離れた場所に座った。
仲良し同士の話題には入れないし、色々訊かれたとして食べながら話すのは苦手だ。

「あら、新人さん、あんな所に座ってる」
「声かけましたよ私」

全く経験のない仕事と人間関係で疎外感を感じていた。
「アットホームな職場です」なんて言ってるところに限って、こんな感じだ。
今月中には辞めたいな。
また派遣に戻ろう。
派遣なら、嫌だったら即、辞められて他の仕事に就ける。
とにかく疲れているし今夜は始発まで、ゆっくりできる場所を探そう。
一駅、二駅歩けば何かあるかもしれない。