もう一台のタクシーには男性スタッフ達が乗っていた。
「残業になるなんてな~」
「あんまり言いたくないんだけど、田平、どうよ?」
三年目のスタッフで現場リーダーの広谷が外を見ながら誰に問うということもなく呟いた。
「ない!ないっすよ」
答えたのは新卒入社の木幡。
「で、木幡は、どう、ないと思う?」
「普段から仕事が雑なんすよ。俺、クレーム受付チェックして広谷さんに渡す処理しているんすけど、最近のクレームって全部、田平が梱包したりピックとか関わった商品なんすよ」
「ふーん…。昨日来たクレームがヒドイから客から来た画像が添付されたメールを見せようと田平に直接、声かけたら、逃げちゃってさ」
広谷が、ため息混じりに言った。
「えっ?マヂっすか!」
木幡が心底驚いた様子を見せた。
「逃げちゃったって、なんなんですか?」
今まで黙って広谷と木幡の話を聞いていた倉元が口を挟んだ。
「田平さん、ちょっと来てって声かけたら即、早足で作業場を出て行っちゃって戻って来ても俺と目を合わせないようにしててさ…仕方ないからメールをプリントして桜木に渡して任せた」
「仕事が雑過ぎて、やる気が全くないのは皆が見て思っているし、どう控えめに言っても、うちの仕事、向いてない感じですね…」
「そもそも、なんで、うちに来たんだ?」
「とりあえず働いて生活するって感じじゃないすか。リーダーに呼ばれて逃げちゃうとか、ないっすよマヂ」
「月曜日に部長に話すよ。あの人、忙しい時だけ現場に来るから普段の田平の様子は知らないだろうし」
K駅に着くと、一番近い広谷だけタクシーに継続して乗っていき、木幡と倉元は居酒屋で始発まで飲むことにした。
金柳街は夜中過ぎても行き交う人達で賑わっていた。
「終電、間に合ったのかな田平さん」
「どうでもいいっすよ。倉元さん、あの居酒屋、安いし料理旨いっすから行きましょう」
呟いた倉元の袖を引っ張りながら木幡は行きつけの居酒屋に向かった。