「田平、絶対に間に合わないって」
「いいじゃん、もう放っておこ。K駅に着いたらネカフェ行こうよ」
「それより金柳街に穴場の隠れ家的サウナあるから泊まろうよ」
「えっマヂで?行こうよ行こう!体伸ばして寝たいもん」
「賛成~」
タクシーに乗った女性スタッフ達がわいのわいのと話していた。
「今日、田平さぁ」
女性スタッフの一人、桜木佳那が話題を切り出した。
「うん?」
「アイツ、送り状の印刷操作しているパソコンでゲームしててさ」
「えっ?なにそれ!有り得なくない」
桜木佳那と同期の木町七生子が憤りを見せた。
「知ってる知ってる~。送り状の印刷が一旦落ち着いたから私、梱包手伝ってって頼んだ時にパソコンの画面見ちゃった」
答えたのは桜木と木町の一年先輩の仲瀬規子。
「アイツ、返事しないでしょう」
桜木の問いに仲瀬が大きく頷いた。
「返事しなかったし、梱包も手伝ってくれなかったわ」
「手伝ってくれたとしても雑で遅いし戦力外ですよ。今回の残業、アイツのせいなんだから。自覚ないだろうけど」
木町が呟いた。

田平 由岐奈(たひら ゆきな)は、中途採用で最近入社した新入社員。
入社前は派遣で働いていたという田平は自分から挨拶はしない、仕事をミスをして呼ばれても自分の作業を優先にして来ない。
「田平さん、呼んでいるんだから来て」
ミスの原因を説明しようと呼んだのにチラッと桜木に視線を向けたけど、自分の作業優先して一向に来る気配を見せない田平に痺れを切らした桜木が、ややキツイ口調で言って、やっとノソノソと来たけど仕事のミスを指摘して、桜木が丁寧に説明している間も返事をしなかった。
「…ということなので、これ、やり直してください」
ミスした仕事を手渡しても田平は返事をしないで受け取り、やがて蚊が鳴くような声で、
「スミマセ~ン」
と言いながら、やり直した仕事を桜木の手元に投げるようにして置いて行ったことがあった。
返事をしない、仕事が雑、ミスをしても謝らない、田平が入社してから彼女絡みのクレームが二桁に突入した等々、残念過ぎる新入社員ナンバーワンだった。

つい、この間まで派遣社員で働いていたということは社会人経験者なのに…挨拶しないとか間違えたのに謝らないとかは若いからと言っても、ちょっとないな…。
しかも仕事中にパソコンでゲームとかって。
ああいう人は続かないだろうな。
「着いたよ」
仲瀬と木町に声をかけられた桜木は揃ってタクシーを降りた。
「センパ~イ、お腹空いたから何か食べてから隠れ家的サウナ行きましょ~よ」
木町が仲瀬に提案している。
「その隠れ家的なサウナに色々食べ物あるよ」
「わ───🎶」
桜木は二人について行った。