「そういえば、さ」
由岐奈が昼休みに社員食堂で食事をしているのを遠い席から一瞥した桜木が木町に話しかけた。
「ん?」
「田平さん、今朝」
桜木は味噌汁を一口飲んだ。
「やっぱなんでもない」
「なに~言いかけたのに」
「お疲れさま」
そう言って桜木の前に昼食のトレーを置いたのは中瀬だった。
「今日は金曜日にしては出荷少ないし定時で帰れるよ。飲みに行くか、この前のサウナ行く?」
「行く!両方行きたいです」
中瀬の提案に木町が真っ先に賛成した。
「桜木さんは?」
「行きたいですけど田平さんも、誘ってみません?」
中瀬も木町も本人がOKと言うなら、と桜木に誘うのを任せた。
──仕事中のゲームは良くないけど今週の田平さんはミスしていないし挨拶もするようになったし、それに今朝の彼氏の話も聞いてみたい。
桜木は個人的興味を持って由岐奈に話しかけた。
「田平さん、今日、仕事終わったら飲みに行かない?その後サウナに行くんだけど良かったら一緒に」
食事を済ませて戻る由岐奈に追い付いて桜木が話しかけた。
由岐奈は立ち止まって桜木を見た。
──なんだろう、突然。
由岐奈には、なんとなく、いつも桜木、木町、中瀬が三人でヒソヒソ自分のことを良く言っていない印象があった。
──まぁ自分の態度も誉められたものじゃないけど。どうせ辞めようと思っている職場だし、今夜はゲームバーに行く。
「ごめんなさい、用事があるので」
由岐奈は断った。
仕事が定時で終了して由岐奈は真っ先に作業場から表に出た。
ちょうど滝野の車が会社の前に到着するタイミングだった。
「お疲れさま」
滝野は助手席のドアを開けて乗せてくれた。
車が店の前に着くと同時にゆりながドアを開けて車から降りる由岐奈に駆けつけ抱きついてきた。
「うわぁ~ん!ゆきなちゃん!来てくれて、ありがとう!今夜はお泊まりしてってね」
ゆりなに手を引かれるまま店内に入って、そのまま奥の階段のあるドアの中に連れていかれた。
「え、お店じゃないの?」
階段を先に昇るゆりなに声をかけた。
「うん。今日は、こっち来て」
ゆりなが笑顔で開けたドアは夕べ泊まった彼女の隣の部屋だった。
招かれるまま入った部屋はシンプルなブルー系で統一された部屋で薄い生地で作られた淡いブルーのカーテンは夏の長い陽に照らされている。
ゆりなは両手を広げた。
「ここ、ゆきなちゃんの部屋ね♪バスルームは昨日使った一階のところね」
──えっ?何それ…たった三回来ただけの客に、私の部屋って何?
「部屋って…何?」
「何って文字通り、ゆきなちゃんの部屋だよ。お店に来てくれた時、専用の」
──…。
「あ、あの、とりあえず、お店に行ってもいい?晩ごはん食べたいし」
「え~運んであげるから食べたい物、選んで」
ゆりなは店のメニューを渡した。
「こんなお部屋に泊まらせてもらったら、さすがに高いよね」
由岐奈はメニューを受け取らないで、おっかなびっくりしながら訊いた。
──最初は安くて良いお店って思ったけど、もしかしたら来る度に、だんだん高い料金を請求されちゃうのかも。怖い。今日は帰ろう!そして二度と来るのは止めよう!
「大丈夫だよぉ。昨日と一緒。てか、今日は御招待だよ。お兄ちゃんから聞いたでしょう」
──招待は聞いたけど。ここに寝泊まり出来て安いなんて、そんなワケがない。
「いい、要らない。私、帰る」
由岐奈はゆりなの横を通ろうとしたが腕を掴まれた。
「なんで?ゆきなちゃんは特別だよ。お店に来てくれてゲームで遊んでくれて、ご飯も残さず食べてくれて、私と友達になってくれたじゃない。とっても良いお客様だよ。だから特別なの」
「そんなこと、終電に乗れなかった他のお客さんだって同じでしょう」
「いいじゃん。ゆきなちゃんは私と同じアイドルグループ好きなんだし。それに、お兄ちゃんのこと好きでしょ。なんなら、ここで一緒に働いて住もうよ」
ゆりなは由岐奈の両手を取り左右に振って微笑んだ。
──オカシイ。絶対にオカシイ…。
「ゲームバーに来るお客様は皆、一度来たら虜になるの。お兄ちゃんが作る美味しい料理と居心地の良さに、ね」
ゆりなの可愛い顔が近づき彼女の黒い瞳に引き込まれる感覚に視界が揺らめき由岐奈は気が遠くなっていった。
End
由岐奈が昼休みに社員食堂で食事をしているのを遠い席から一瞥した桜木が木町に話しかけた。
「ん?」
「田平さん、今朝」
桜木は味噌汁を一口飲んだ。
「やっぱなんでもない」
「なに~言いかけたのに」
「お疲れさま」
そう言って桜木の前に昼食のトレーを置いたのは中瀬だった。
「今日は金曜日にしては出荷少ないし定時で帰れるよ。飲みに行くか、この前のサウナ行く?」
「行く!両方行きたいです」
中瀬の提案に木町が真っ先に賛成した。
「桜木さんは?」
「行きたいですけど田平さんも、誘ってみません?」
中瀬も木町も本人がOKと言うなら、と桜木に誘うのを任せた。
──仕事中のゲームは良くないけど今週の田平さんはミスしていないし挨拶もするようになったし、それに今朝の彼氏の話も聞いてみたい。
桜木は個人的興味を持って由岐奈に話しかけた。
「田平さん、今日、仕事終わったら飲みに行かない?その後サウナに行くんだけど良かったら一緒に」
食事を済ませて戻る由岐奈に追い付いて桜木が話しかけた。
由岐奈は立ち止まって桜木を見た。
──なんだろう、突然。
由岐奈には、なんとなく、いつも桜木、木町、中瀬が三人でヒソヒソ自分のことを良く言っていない印象があった。
──まぁ自分の態度も誉められたものじゃないけど。どうせ辞めようと思っている職場だし、今夜はゲームバーに行く。
「ごめんなさい、用事があるので」
由岐奈は断った。
仕事が定時で終了して由岐奈は真っ先に作業場から表に出た。
ちょうど滝野の車が会社の前に到着するタイミングだった。
「お疲れさま」
滝野は助手席のドアを開けて乗せてくれた。
車が店の前に着くと同時にゆりながドアを開けて車から降りる由岐奈に駆けつけ抱きついてきた。
「うわぁ~ん!ゆきなちゃん!来てくれて、ありがとう!今夜はお泊まりしてってね」
ゆりなに手を引かれるまま店内に入って、そのまま奥の階段のあるドアの中に連れていかれた。
「え、お店じゃないの?」
階段を先に昇るゆりなに声をかけた。
「うん。今日は、こっち来て」
ゆりなが笑顔で開けたドアは夕べ泊まった彼女の隣の部屋だった。
招かれるまま入った部屋はシンプルなブルー系で統一された部屋で薄い生地で作られた淡いブルーのカーテンは夏の長い陽に照らされている。
ゆりなは両手を広げた。
「ここ、ゆきなちゃんの部屋ね♪バスルームは昨日使った一階のところね」
──えっ?何それ…たった三回来ただけの客に、私の部屋って何?
「部屋って…何?」
「何って文字通り、ゆきなちゃんの部屋だよ。お店に来てくれた時、専用の」
──…。
「あ、あの、とりあえず、お店に行ってもいい?晩ごはん食べたいし」
「え~運んであげるから食べたい物、選んで」
ゆりなは店のメニューを渡した。
「こんなお部屋に泊まらせてもらったら、さすがに高いよね」
由岐奈はメニューを受け取らないで、おっかなびっくりしながら訊いた。
──最初は安くて良いお店って思ったけど、もしかしたら来る度に、だんだん高い料金を請求されちゃうのかも。怖い。今日は帰ろう!そして二度と来るのは止めよう!
「大丈夫だよぉ。昨日と一緒。てか、今日は御招待だよ。お兄ちゃんから聞いたでしょう」
──招待は聞いたけど。ここに寝泊まり出来て安いなんて、そんなワケがない。
「いい、要らない。私、帰る」
由岐奈はゆりなの横を通ろうとしたが腕を掴まれた。
「なんで?ゆきなちゃんは特別だよ。お店に来てくれてゲームで遊んでくれて、ご飯も残さず食べてくれて、私と友達になってくれたじゃない。とっても良いお客様だよ。だから特別なの」
「そんなこと、終電に乗れなかった他のお客さんだって同じでしょう」
「いいじゃん。ゆきなちゃんは私と同じアイドルグループ好きなんだし。それに、お兄ちゃんのこと好きでしょ。なんなら、ここで一緒に働いて住もうよ」
ゆりなは由岐奈の両手を取り左右に振って微笑んだ。
──オカシイ。絶対にオカシイ…。
「ゲームバーに来るお客様は皆、一度来たら虜になるの。お兄ちゃんが作る美味しい料理と居心地の良さに、ね」
ゆりなの可愛い顔が近づき彼女の黒い瞳に引き込まれる感覚に視界が揺らめき由岐奈は気が遠くなっていった。
End
