ゆりなは自分の部屋に由岐奈と入るとクルリと一回転してニッコリ微笑んだ。
「ね、ゆきなちゃんて呼んでもいい?お店では、ちゃんとするから」
──って、言うか…なんで、そんなに私に…
ゆりなは真顔になった。
「お友達になりたいの」
と言った。
──気が合わないかもしれないのに…
戸惑いを見せる由岐奈の手を取ると、夕べ、ベッドにセットした大きなソファに一緒に腰掛けた。

「あのね、この前、ゆきなちゃんのスマホの待受見えちゃったの…覗いたんじゃないのよ…オーダー取る時に見えて…嬉しくて叫びそうになったの。でも不快だったら、ごめんなさい」
──待受なんてスマホをテーブルに置いてたんだから見えるでしょフツー。
「え、待受くらい見られても私は気にしないけど」
──てか、この子…
「絶対に気が合うと思ったの」
ゆりなは自分のスマホの画面を見せた。
「ゆきなちゃんもリズムのファンでしょう」
由岐奈は目の前がクラクラした。
リズムは外国のアイドルグループで活動期間は長いらしいけど日本では全く、と言っていいほど知られていない幻のグループだった。
由岐奈は友達との待ち合わせ時間までの暇潰しに入った輸入盤店で一枚のCDを見つけた。
それがリズムのミニアルバムだった。
──K流に負けないくらい美形揃いなのに、なんで日本では知られていないのかな…と、由岐奈は常々思っていた。
「でも解散しちゃったよね」
ゆりなが寂し気に呟いた。
「えっ?解散?なんで、そんなこと知ってるの?私、知らなかった…」
ゆりなは外国に留学している友人のツテで色々と知っていた。
夢中で話し込んでいるとノックが聞こえて滝野が顔を出した。
「由岐奈さん、時間が」
時計を見ると八時二十分になっていた。
「わあぁ!ゆきなちゃん、ごめんなさい!楽しくて、つい」
ゆりなが涙声になった。
──どうしよう…てか、もう潔く遅刻するしかない。
「大丈夫、私も楽しかったから時間忘れちゃった」
──別に一回くらい遅刻したっていいもん。
「いや、僕が車で送りますよ。歩いて四十分くらいだったら車で間に合うと思います」