一

小さな段ボール箱に商品とA3サイズの紙がクシャッと丸めて緩衝材として入れられ段ボール箱の蓋が閉まるとガムテープで留められて、行き先が印刷された送り状が貼られると待っていた配達業者に手渡された。
「すみません、お待たせしました。最後のひとつです。よろしくお願いします」
配達業者は受け取って送り状のバーコードを機械で読み取るとトラックに積み込んだ。
いつもならば夜8時までの集荷だったが出荷ミスも絡み緊急の追加依頼もあって断れない出荷だったので泣く泣く業者に頼んだ配達だった。

「いやぁ…やっと終了、みんな遅くまで、ありがとう!助かったよ。お疲れさま!」
配達業者のトラックの姿が見えなくなってから部長が残っていたスタッフ達に声をかけた。
夜の十二時まで、あと十五分だった。
普段ならば、こんな時間まで仕事をすることはない。
「終電もうヤバいな…」
部長が時計を見て呟いた。
市バスは、とうに終わっていた。
「みんなK駅まで行けばなんとかなるな。タクシー代出すぞ」
残っていたスタッフの全員がK駅まで行けば、なんとかなる者達だった。
「部長~太っ腹!」
若いスタッフ達が、やんやと持て囃した。
「おだてるなよ。領収書と釣りを月曜日に持ってきてくれ」
部長が財布から金を出してスタッフに渡した。
残っていたのは部長も含めて八人。
「タクシー二台呼びましたよ」
四人ずつ乗っていける。
「あたし、終電間に合うから大丈夫です」
突然、そう言ったのは新入社員の田平だった。
「えっ?」
スタッフ達が、ざわめく中をバッグを片手に持って颯爽と作業場を出て行った。
ドアがバタンと閉まり、パタパタと軽い足音が遠くなって行った。
「終電?」
「ウッソ、絶対に間に合わないよ」
「K島田駅ってダイヤ改訂されたよな。終電めちゃめちゃ早くなった。それに、ここから歩いて二十分は絶対にかかる」
「どうするの」
「まぁ電車がないって解ったら自分で、なんとかするっしょ」

「よし、解った。タクシーが来たから皆はK駅まで行ってくれ」
「えっ?部長は帰らないんですか?」
「K島田駅まで行った田平が会社に戻ってくるかもしれないから四十分くらい待ってみるよ」
「えっ部長、お人好し過ぎますよ」
「いやいや、心配だろう」
部長は迎車にスタッフ達が乗って出発したのを見届けて、会社の門が見える事務室に入った。
とりあえず四十分だけ待ってみて、田平が戻って来ないようならば改訂されたダイヤの終電に間に合ったと見て自分もタクシーでK駅まで行ってサウナにでも泊まればいい。