「実南は、水面都市への行き方知ってるの〜?」
グラース、もとい氷雲空が実南に問いかけた。
グラースは見た目や記憶はそのままで、今は人間として生きているらしい。
どんな理由からなのかは教えてくれなかったが、彼は毎度「実南のお陰だよ」と答える。
実南自身、自分の何が影響を及ぼしたのか疑問だが、正直どうでも良かった。
今目の前にグラースがいる。その事実だけで十分だ。
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氷雲空は、実南の住む地域の隣の市に住んでいた。
現実世界に人間として存在してから、必死に実南を探していたそうだ。彼女から聞いていた橋の特徴をもとに、休みの日や放課後は毎日走り回っていたらしい。
実南はグラースと再会後、当たり前だがいつも通りの調子に戻った。
そのことに両親と幼馴染は直ぐに気付く。
理由を聞かれた際に、沢山迷惑をかけたのだから、ということで正直に伝えることにした。
両親には付き合っている人がいると言い、幼馴染にはグラースが人間として生まれ変わったことを伝えた。
そのときの波男の反応といったら、それはもう面白いものだった。
そんなこんなで氷雲空の存在は周知され、実南の日常は再び明るいものへと戻ったのだ。
そしてある日、グラースが上記の質問を実南に問いかけた。
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「水面都市に? 確か水のある場所で、クルレーの名前を呼べば良いって言ってた」
学校が違う彼らは、放課後あの橋で話をすることが日常となっていた。
携帯で連絡を取れば良いのだが、如何せん氷雲空は電子機器に弱かった。
「じゃあさ、今度二人で行ってみよ〜?」
「どうやって?」
二人一緒になんて難しいだろうし、何よりまた寝込むのは流石に申し訳無い。
「夜寝るときに名前を呼ぶんだよぉ。それで、会ったら直ぐ帰れば大丈夫。朝目覚めるときに戻れる筈だから〜。僕たちは各々で行って、現地集合しよぉ」
「そっか! 分かった!」
確かにそれなら安心だ。
あれ以来クルレーに会っていない。本当はずっと、グラースのことを伝えに行きたかったのだ。
「じゃあ今夜行こうかぁ。明日休みの日だしね〜」
「うん!」
また夜に水面都市で会おうと言って、彼らは帰宅した。
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「あのさぁ。実南は来て良いって言ったけど、お前は許可してないんだよね。故郷に帰りなよ。そしてそのまま戻るな」
強気な口調でグラースを指差すのは、水の精クルレー。
「酷いなぁ。折角再会出来たことを報告しに来たのに〜」
イライラしているクルレーとは真逆に、穏やかな笑みを浮かべるグラース。
「見てよ実南。こいつ、ただ自慢しに来ただけだよ。これだから雲の精は嫌いなんだ」
クルレーは拗ねている。
“嫌い”と言っているが、二人はどこか相性が良さそうな気がした。
「まぁ、でも、クルレー。君には感謝してるんだよぉ。クルレーのお陰であの陽龍を浄化出来たんだ。ありがとう」
空気が真剣なものとなる。
グラースはクルレーに向き合い、真っ直ぐ彼を見つめた。
「別に。あのまま放っておけば、ボクたちにも被害来てたし。それに、結局無事ではいられなかったんだから、お礼を言われる筋合いは無いよ」
少し申し訳なさそうにしながらも、返事をする。
やはり、彼らは良い組み合わせだと思う。
「それもそうだねぇ。でもそのお陰で人間になれたから、やっぱりお礼は言っておくよ〜」
ニコニコの笑顔で言うグラース。
不穏な空気に、実南は冷や汗を垂らした。
「お前、やっぱり腹立つ!!!!」
「肯定して受け入れるのは、雲の精の特性だもーん」
グラースは楽しそうだった。
彼は人間になってから、雲の精特有の性格だけでなく、様々な感情を学んだ。
故に、以前とは比べて少し腹黒い部分も生まれてしまったのだ。
「じゃあ、そろそろ僕たちは帰るよぉ」
「クルレー。私クルレーとの旅も楽しかった! 本当にありがとう。また会いに来ても良い?」
「そんなに悪戯されたいなら、好きにしたら?」
やっぱりクルレーはこうでなくちゃ。
意地悪な彼の姿に、実南は笑みが零れる。
太陽のようなその笑顔に、クルレーも少し口角を上げた。微々たるものだったが、確かに心からの笑みを浮かべていた。
「そいつに泣かされたらいつでも来なよ」
「泣かせないよぉ」
「お前じゃない」
「ふふ。ありがとう。じゃあクルレー、またね!」
その言葉とともに、二人はクルレーの精霊の力により、水面都市を去って行った。
去り際にグラースと目が合う。
クルレーは大きく息を吸い、こう言い放った。
「フンッ、ボクは諦めた訳じゃないからな。精々いつか彼女が溺れてしまうのを、ビクビク怖がっているんだね!」
