小さい頃から素敵な女の子だったね。
実南ちゃんの純粋な心に、幼いながら感動したことを覚えているよ。
それは今もそう。実南ちゃんといると、毎日が楽しくて素敵なものへと変わるんだよ。
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出会ったのは保育園の頃。
私と実南ちゃんと、朱里ちゃんと。この三人でいることが通常になっていた。
実南ちゃんはいつも、「ゆりに助けられてる」って言うけど、それはこっちの台詞だよ。
私は実南ちゃんや朱里ちゃんに助けてもらってばかり。
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私は恐らく、普通とは違う扱いを受けて日々を送ってきた。
私が生まれたのは金沢家。近所では名のしれた地主で、“お金持ち”の部類に入る家だった。
でも両親は言っていた。
「お金持ちだからといって、それを無闇矢鱈にひけらかすものでは無い」
「寧ろ私たちよりも沢山資金を持っている家は多い。だから私たちは、普通の家と何ら変わりないんだよ」
実際に教育方法も普段の日常生活も、多分一般家庭と同じものだった。——これは実南ちゃんたちに確認したから真実の筈だ。
少し家が大きくて、お庭が立派だったというだけ。それ以外は本当に何も変わらなかった。
けれど周りの人はそう思わなかったらしい。
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私は幼い頃から本が好きだった。
玩具よりも本を与える方が喜んでいたそう。
それは保育園の頃から高校生の今でも変わらない。
だけどその趣味のせいで、周囲の人たちは何故か私をお金持ちのお嬢様だと勘違いした。
近所の子が、私の家の大きさを誇張して話していたことも後から知った。
子どもの噂話とは早いもので、小学生の頃私は“体の弱い本好きのお嬢様”というレッテルを貼られてしまった。
みんながみんなその話を信じていたから、否定する暇も無かった。
体も弱くなければ、育ち方は普通の家庭と同じなのに。
そのレッテルによって、私は誰からも遊びに誘われなくなった。
高学年に進めば進むほど、腫れ物のように扱われ、誰も気軽に話しかけてくれなかった。
そればかりか、同じクラスだった実南ちゃんが私に話しかけたときには、全員で実南ちゃんを注意した。
私はそれが悲しかった。
どれだけ否定しても信用してもらえない。気軽に話すことも遊ぶことも出来ない。実南ちゃんや朱里ちゃんにまで変なことを言う。
これじゃあ本当にお嬢様みたい。
そうやって私が落ち込んでいるとき。
実南ちゃんは大きな声で言い張ったのだ。
「ゆりが気にすることじゃないよ! 私たちがいるでしょ! それに、お金持ちって呼ばれるなら、本当にそうやって振る舞ってみるのも面白いそう!」
こういう感じ?と言いながら、スカートを持ってカーテシーのような動きをする。
あんまりにも似ていないから、私は落ち込んでいたことも忘れて笑ってしまった。
そして朱里ちゃんも続けて言った。
「そうよ。それに、何を言っても信じてくれない人たちなんて、相手にしなくて良いわよ」
少し恥ずかしそうに言う朱里ちゃんに、心がポカポカした。
凄く嬉しかったのだ。幸せを感じた瞬間なのだと、あとから気付いた。
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小学生という昔の話。
でも私の中には一番印象に残っている。
実南ちゃんのお陰で新しい考え方に気付いた。
朱里ちゃんのお陰で気にしない勇気を知った。
それからは嫌な思いをすることは無くなった。
あのときあんなに落ち込んでいたのが嘘に思えるくらい、今では何も気にならない。
それもこれも実南ちゃんと朱里ちゃんのお陰。
私にとって二人は本当に大切な、かけがえのない友だちなのだ。
だから実南ちゃんが目覚めないと聞いたとき、凄く悲しくてつらかった。
涙を堪えながら、本を読み漁って症状がどんな病気に当てはまるか探した。
朱里ちゃんもずっと落ち込んでいて、気にしていない様子を振る舞っていたけど全然隠せていなくて。
そんな彼女の姿を見ていたから、実南ちゃんの願いを純粋に応援出来なかった。
変わらない真っ直ぐな瞳で雲海都市や精霊の話をする姿が、とっても眩しかった。そう感じると同時に再びそこへ行ってしまったら、私たちはきっと耐えられないということも理解した。
中途半端な役割しか出来なくてごめんなさい。
朱里ちゃんの気持ちも、何かに憧れて夢中になる実南ちゃんの気持ちも分かるから……だから、どうしたら良いか分からなかった。
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目が覚めたと思ったら、実南ちゃんは直ぐに雲海都市へ向かうと電話をしてきた。
決心した実南ちゃんは強くて、私に出来ることは何も無かった。
ただ、実南ちゃんの無事を願うことしか出来ない。
でも実南ちゃんがいない間のことは任せてね。
私じゃ頼りないかもしれないけど、実南ちゃんに助けてもらったときと同じように、今度は私が実南ちゃんの助けになれるように頑張るから。
だからどうか、後悔だけはしないようにね。格好良くて憧れの実南ちゃん。
