昔からそうだった。
初めて出会ったときから、あなたは凄く眩しい存在で。
あなたは私に見限られるとか言っているけど、それはこっちの台詞。
ずっと置いて行かれないようにしていたんだから。
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出会ったのは保育園の頃。
物心ついたときにはもう近くにいたし、紗由理を合わせた三人でいることが普通だった。
運動することが得意だったあなたは、いつも周りに誰かいたわ。
どうして性格が反対な私たちが仲良くなったのか。昔のこと過ぎて覚えていない。
けれど、こんな私にも優しくしてくれたから。
だからそばにいたいって思えたの。
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私は恐らく、いや確実にきつい性格をしているのだと思う。
口調は強くなりがちだし、思ったことは何でも口に出してしまう。
でもこの性格を嫌だとか、直したいとか思ったこと無いわ。だってしっかり者の母に憧れて、それで生まれた性格だから。
だけどこの性格は敵を作りやすい。それも分かっていた。
中学校のとき、私を良く思わない女子が何人かいたのは事実だもの。
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確か、文化祭の出し物を決めるときの話し合いだったと思う。
実行委員の子たちが、一向に進まない話し合いに戸惑っていたわ。私はそれを見て、ずっと関係の無いことを大声で話している女子生徒何人かに声を掛けた。
「あなたたち学校へ何しに来ているの? 協調性も無く、集団行動が出来ないのなら来なくて結構よ。周りを見てご覧なさい。あなたたちの行動が、色々な人に迷惑をかけているのよ」
今思い返しても、別にこの行動に恥じていない。
当たり前のことを言った。実際それで話し合いが進んだことも事実。
けれどそれ以降、彼女たちの間で私の悪口を言い合うことが流行った。
実南と紗由理は同じクラスでなかったし、他のクラスメイトもその女子生徒たちが怖くて何も反応しなかった。
でも別に気にしたことなかった。
私には実南と紗由理がいる。それに、勉強しに来ているんだもの。陰口を言っている人たちに構っている暇は無いわ。
だけどあるとき。実南と紗由理が私のクラスで私のことを待っていてくれたことがあった。
その日は日直の仕事で先生のところに行っていたから、放課後教室で待っていてと伝えていたのだ。
教室内に二人が話している後ろ姿が見えたから、私も教室に入ろうとしたら聞こえた声。
「てかさーほんとだるくない?」
「え、如月朱里でしょ? わかるー!」
「委員長キャラって感じだよね」
「そうそう! あんな怖い顔して協調性がどうのこうのって言われても、説得力無いっていうのー」
「ほんとにー」
四、五人くらいの女子生徒たちが廊下にも聞こえる声で喋っていた。
何故だか足が止まってしまった。教室に入ることが出来ずに、廊下でただ俯いていた気がする。
多分そのときは、幼馴染の二人にクラスメイトからの評価を聞いて欲しくなかったんだと思う。
実南と紗由理は静かになっていた。
けれど女子生徒たちはそのことに気付くこと無く、私の悪口を言い続けた。
(もう、このまま帰ろうかしら……)
居ても立ってもいられない、というのはこういうことなのだろう。
そんなことを変に冷静な頭で考えていた。
そのとき、あなたの声が教室に響いたの。
「そういうこと言うの、良くないよ」
「は?」
「確かに嫌な人とか苦手な人いるかもしれないけど、でもそれを人に聞こえるように言うのは、言っている人の品性を下げるって聞いたことある」
急に話しかけられた女子生徒たちは呆気にとられていた。
「折角みんなお洒落して可愛いのに、人の悪口言ってたら勿体無いよ」
「な、なにそれ」
「それにね、朱里って確かに怖いし厳しいし、正しいことを言ってても顔が怖くて怒ってるように見えるけど……」
「実南ちゃん多いよ〜」
本当よ。
「でも、別に怒ってるから言う訳でも、嫌いだから注意する訳でも無いんだよ。朱里は真面目過ぎるうえに曲がったことが嫌いだから、素直に思ったことが口から出ちゃうだけで」
「うんうん。朱里ちゃんは本当に良い子だよ。友だち思いで優しい普通の女の子」
「そう! だからあんまり朱里の悪口言わないで欲しいな。直接言ったらきっと謝ってくれると思うし!」
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嬉しかった。ただ純粋にそう思った。
この性格を恥じたことも、直そうと思ったことも無い。
だけど好かれるようなものでも無いと自覚していた。いつか実南や紗由理も、私に愛想を尽かして離れていってしまうんじゃないかって。そう思っていた。
でもそんなことは無かった。
私のために、私なんかのために怒ってくれた。注意してくれた。
紗由理から聞いたのよ。あのとき実は、実南凄く怒っていたってね。でも問題になると私が過ごしにくいかもしれないってことで、穏便に終わらせてくれたのよね。
それが嬉しかった。
太陽のようなあなたにとっては当たり前のことかもしれないけれど、私には特別なことだった。
それから、中身を見てくれるあなたたちが大切な存在になった。普段は言わないけど、本当に大好きなの。
だから実南が目を覚まさないって聞いて、心臓が握り潰されたような感覚になった。
目が覚めて話を聞いた日も腹が立った。呑気な実南と、そんな彼女を夢中にさせるグラースに。
選択を迷っていると言ったあなたに怒った。迷う程、私たちは大事ではなかったのか。そう言ってやりたかった。だってそう思ったんだもの。
でも分かっているわ。どっちも大切だからこそ、あなたは選べないのだって。
その日の夜。電話がかかってきたときから確信していたわ。
実南はきっと雲海都市に行くんだろうって。
怖かった。失いたくないのに、知らない場所に行ってしまうんだから。それにそこが危険な場所だって、自分で言ったじゃない……。
決意を固めたあなたの声に、私は何も言えなかった。
心のどこかでは分かっていたの。あなたは好きなものに真っ直ぐだし、一度決めたら揺るがない強さを持っている。
だから、本当に癪だけど……何も言わずに送り出してあげる。
どうせ実南のことだから、平気な顔して直ぐ戻ってくるんでしょう。私と紗由理はそれを信じて待っているわ。
どうか頑張って。太陽のように眩しい実南。
