憑ヶ物つくり

 ◆◆◆

 噤は、歩きながら苛立ちを隠そうともせず怒っていた。

 曰く――『朽縄一族は髪の一筋、爪の一かけらでも他者に与えれば、その家を破滅させかねない、穢れた蟲毒の群れ』だと。

 「こどく?」
 問い返したが、噤はハッとした様子で「アンタはもう知らなくていいのよ!」と強制的に話を打ち切られた。

 「……」
 「……」

 そうして、しばらく無言のまま、汐里は噤の背を見つめながら歩いていた。
 やがて、足元を見つめたまま、汐里は小さく言った。

 「……それなら私も穢れてるかも……」

 振り返る噤に汐里は、沈んだ声で話しだす。

 「以前に話しましたよね。昔、私の家に日本人形があって……それは幸せを呼ぶ家宝って言われてて……私が捨ててしまったこと……」
 「……」
 噤は黙って聞いていた。
 こちらを見る噤の瞳から、拒絶されていないと察し、汐里は話を続けた。

 幸の物さえあれば家族は元通りになれるのではないかという気持ちが、諦めきれない。

 そこまでを、汐里は噤に打ち明けた。
 そして一呼吸置いてから告げる。

 「だから私、どうしても御神子様になりたいのです……!」
 「……」

 返答が無かった。
 噤の表情から感情は判別できない。
 ただ、軽蔑や冷笑の類ではないのは、その雰囲気から伝わってくる。

 そして……。

 何故か噤は悲し気に眉を寄せると、目蓋を閉じて口を開いた。

 「……諦めなさい。壊れたものは元通りにはならないのよ」

 去っていく噤の草履の音を汐里は聞いているだけしか出来なかった。

 ◆◆◆

 そこから数日は、御神子祭の準備で村は騒然としていた。
 一族の長である噤も壬生狼も忙しなさそうにしている。

 そんな中、寧々だけは相変わらずマイペースに噤の家に居座り、執筆を続けていた。
 たしか寧々も弟切家の当主らしいが、一人だけ何もしていなくて良いのだろうか?
 それについて問いかけると、寧々はパソコンから目を離さずに答えた。

 「んーん。やらなくていいよ」
 「でも……」

 周りが忙しそうなのに自分達だけ、のんびりしているのは居心地が悪い。
 それは寧々には伝わらない感覚だろうが。

 「先生~、少しは社会性を持ちましょうよ~」
 「……」
 「先生ってば~!」

 本当に良いのかと改めて問いかけた時――蝉の声が、ふっ と止んだ、気がした。
 そして寧々が答える。

 「いいのいいの。僕んち、みんな殺されてるから」

 ――え?