憑ヶ物つくり

 ◆◆◆

 翌日――。

 汐里は縁側に座ったまま、昨日の出来事を思い返していた。

 「う~ん……」

 誰が、夜中に『カエレ』とわざわざ訴えたのか?

 「子供のイタズラ……? にしては、タチが悪いし……」

 そもそも、この村で子供と出逢ってもいないのに、嫌われる理由がわからない。

 「それに……」

 女の来訪が歓迎されている祭の最中の村で、何故に自分だけ帰れと言われるのか?

 「やっぱり、美人じゃないとダメなのかなぁ……」

 汐里は自分の頬を掴んで、ぐにぐにと弄っていると「何をしている」と、鋭い声が聞こえた。
 顔を上げると、そこには壬生狼が立っていたのだ。

 「犬神さん!」
 「壬生狼と呼べ。ど、どうせお前とは夫婦になる仲なんだからな」

 どもりながら答える壬生狼に、汐里は思い切って尋ねてみた。

 「御神子様になるのって、容姿が重要ですか?」
 「何……?」
 「それなら私、自信ないなぁって……」

 壬生狼が問い返すのを待たず、汐里は食い気味に続けた。

 しかしそこで、壬生狼は肩にかかっていた長い髪を後ろへ弾いた。
 そして、頑として言い切る。

 「愚かなことを……! 御神子様に選ばれるのは『最も優れた女』だ。容姿も当然含まれる!」
 「うぇえ……」

 汐里が嘆きの声を上げる。しかし、それを壬生狼は遮った。

 「だが! 俺はお前が、この村に来た誰よりも、どの女よりも美しいと思っている!」

 「え……」

 直球の告白に戸惑う汐里へ、壬生狼は力強く告げる。

 「だから迷うな! お前が迷うというなら、何度でも言ってやる! お前は心身共に美しいと!」

 壬生狼の言葉に、汐里は顔を真っ赤にして、わたわたと両手を動かす。

 「そ、そんな大声で! わ、私なんてスッピンですし!」
 「そこも魅力的だ! だが、嫌でなければ化粧したお前も見てみたい!」
 「やややややめてください!」

 汐里は何とか壬生狼にベタ褒めを止めさせた。
 だが次の瞬間、壬生狼は静かなトーンで話しだした。

 「実際、俺はお前を美しいと思っている。だが、それ以外にも理由がある」
 「……はい」

 汐里が静かに相槌を打つと、壬生狼は青い顔で、吐き気を堪えるように告げた。

 「俺は、女の裸を見ると嘔吐するほどの女嫌いだった」
 「え」
 「犬神家も俺の代で絶えるのかと思ったが……」

 そこで壬生狼は、大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 「……お前の裸体は、美しいと思った」
 「……!」

 顔が熱くなる。
 けれども壬生狼は続けた。

 「そんな女は初めてだ。――運命だとすら、思った」

 汐里は、壬生狼の真剣な眼差しに宿る熱から目を逸らしつつ、答えた。

 「ど、どうして私なんですか?」

 そんな汐里の頬にかかった髪を壬生狼が指で避ける。

 「わからない……。お前を見た瞬間――心惹かれた」
 「!」

 突然の告白の連続に、汐里は赤面して硬直する。
 そうしていると――壬生狼の指が、頬から顎へと伸びた。