視える僕……大山研一の能力に気づいてしまった超がつくオカルトマニア・星野美琴は、僕の働くファミレスのバイト仲間だ。

 ことあるごとに色んな心霊話を持ちかけては巻き込んでくる。いや、半分自分から首を突っ込んでることにも最近自覚してきているが。

 それでもここ最近はシフトがかぶることが少なく、星野美琴と顔を合わせることが減っていた。平穏な毎日で、大して頭がいいわけでもない大学へ行き、バイトをし、数少ない友人と時々遊んだ。

 僕なりに、大学生活を楽しんでいたってわけだ。いや、これが本来あるべき普通の生活なんだよ。




 自動ドアが空いた瞬間、本屋独特のあの匂いが鼻をついた。昔からこの匂いがなんとなく好きな僕は何だか懐かしい気分になってホッと息をつく。

 広い本屋はそこそこ人で賑わっていた。自分が一人暮らしをするアパートから徒歩十五分、結構大きい本屋があるのはありがたいことだった。ボロいアパートだが、徒歩圏内に本屋やファミレス、スーパーなどがあって住む場所としてはほぼ満点だと自分では思っている。

 今日はずっと待ち続けた漫画の新刊を求めてここへやってきた。貧乏学生なのだが、その漫画だけは小学生の頃から集めているため今更集めるのを辞めるなんて無理な話だ。ワクワク楽しみにしながら店内を歩いた。

 欲しいものはすぐに見つかった。でもせっかく来たのだし、と思い適当にぶらぶら歩くことにする。主に漫画コーナー、ついでに小説、最後に一応大学生なので参考書でも。あまり興味ないけど。

 ぼうっとしながら棚を眺めているときだ。

「あれ、大山くん?」

 鈴の音色のような綺麗な声が聞こえて振り返る。ネイビーのワンピースが揺れた。その色のせいか眩しいほどの白い肌が目に入る。

 ロングヘアを揺らしてこちらを見ているのは星野さんだった。

「え、あ、星野さん!」

「奇遇だね」

 にっこり僕に笑いかけるその姿につい一瞬見惚れた。中身はとんでもない人だけど、外見だけは文句の付けようがない美少女なのだ。その証拠に、彼女の隣を通っていく人たちが星野さんに注目する。そして美少女が話しかけたメガネ野郎にもついでに注目してくれた。

 思えば同じバイト先に徒歩で通うご近所さんなのだ。休みの日に会うのも珍しくはない。

「最近バイトであんまり被らないね」

「あ、そうだね」

「ふふ、会いたいって思ってたの。嬉しい」

 男なら飛び上がって喜ぶだろう台詞に、僕も一瞬騙されて喜びそうになった。でも流石に冷静になる。これは絶対あれだ、あのパターンだ。

「大山くん何見てるの、参考書?」

「あーうん、そんな感じかな!」

「私も。同じだね」

 実は漫画目的なのだが。だが星野さんは本当に参考書を手にしていた。意外と真面目なんだ、と失礼なことを思う。

「星野さんってどこの大学だっけ」

「T大学よ」

「ほえ!? む、無茶苦茶頭いいとこじゃん!」

 つい彼女を二度見した。そんなに頭が良かったなんて! 確かに馬鹿には見えないけど、まさか。

……頭良くて可愛くて、普通の時は優しかったりするし。オカルトさえなければ……最高の子なのに……

 僕の心の声に気づかず、星野さんは微笑んで言った。

「今から帰るの? 途中まで一緒にかえろ」

 そういうと、こちらの返事も聞かずに彼女はレジへと向かっていった。綺麗な髪が揺れてシャンプーのCMみたいだ、なんてどうでもいいことを考えていた。

 多分帰り際、またなんかのオカルト話をされるんだとうと想像つくが、一緒に帰れない、なんて断る勇気が出ないのは、やっぱり僕がヘタレだからなのだろうか。