「じゃー、また高校でなー!!!」
「おー、またなー!!!」
獅音と別れて帰路に着く。
母は居酒屋の経営があるので、先に帰った。
「(母さん、儲かってるのかな)」
正直、客の目当ては居酒屋ではないような気がするんだよなぁ。騒がしい人より真面目な人の割合の方が多いし。(→真の目当ては壁に飾ってある葵の作文)
そんなことを悶々と考えながら、公園を通り過ぎようとしたその時だった。
「お前、止まれと言っているだろう!」
一瞬俺が言われたのかと思い、足を止める。
振り向くと、眼帯をつけてパーカーを羽織った赤毛のチビがいた。中学1年くらいだろうか?
数秒見ていたものの、赤毛眼帯は鉛筆とスケッチノートを持ちながら木の上をずっと睨んでいただけだった。
木の上に何かがいるのかと思ったが、何もいない。
…幽霊でも見えてんのか?
「く、やはり木の精を落ち着かせるには不滅の魔術師である俺の力では足りないということだな…誰か…誰かいないか?時を止める力を宿すニンゲンよ…」
俺は直感…というか、人生経験で気づいた。
あいつ、狂ってる!
嫌な予感がしてその場から立ち去ろうとすると、案の定、
「はっ、お前は!」
見つかった。
駆け寄ってくるそいつの顔をよく見る…あれ、どっかで会ったことある?
そんな俺の疑問は無視し、赤毛眼帯が唐突に言った。
「お前、まさかアクアグラストファジカルユークミンスソプラアルか?!」
「ごめんなんて?‪💧‬」
早口言葉とも言えない言葉を前に、俺は後ずさった。
「アクアグラストファジカルユークミンスソプラアル!俺の前世の世界で各地を周り、人々を笑顔にした音を操りしハーモニーの支配者!」
う、イタい…当事者じゃないのにイタい…。
「さしてユークよ。」
「あ、まさかのそこ呼ぶ?アクアとかじゃなくて?」
俺のツッコミを無視し、そいつは続ける。
「俺は、音を操ることが出来るお前に時を止める力も少しはあると見ている。」
無理です時は止められません。
「そこで依頼だ。あそこの木の精を鎮めてはくれないか?」
依頼というのは報酬があるものだろ?
見るからに報酬なさそうだけど…。
「そもそも、お前、名前は?」
ぶっきらぼうにそう聞くと、赤髪眼帯は鼻を鳴らして言った。
「よく聞いたなユーク。何を隠そう我こそが『漆黒の魔術師:サンガ』ことアルテミスマラゴールドサンガリットなのグハッ!!」
痺れを切らした俺は、赤毛眼帯に腹パンをかました。

「だから俺ん家来たの?なんで?」
「だって…起きなかったから…」
目の前のベッドでは、赤毛眼帯がすやすや寝ている。ムカつくほどにすやすやと…。
申し訳なさそうに(見えるように努力しながら)俺は獅音に謝った。
「ごめん…」
「つくづく思うけど、葵って犬っぽいトコあるよねー。…ちょっと怖いからやめて。」
やめてと言われましても。
「というか、名前不明、年齢不明、分かっているのは厨二病ということだけって…」
ハイ、分かってます。
「バカじゃん、葵。バカじゃん。」
ハイ、分かってます。
「俺さ、厨二病見るの初めてなんだよね」
「あっそ。とにかく起きないことには何もできないだろ。」
「ハッ!!!」
「起きたよ。」
「そうだな。」
獅音といつものような高速会話を交わし、2人シンクロで赤毛眼帯に目を向けた。
赤毛は焦っている。
「お、お前はユーク…と、テナ?!」
「はい出た新キャラ」
テナっていうのは一体全体なんの略なんだろうね。…大体想像はできるけど。
「なぁ、テナって誰?もしかしてこの猫宮獅音くんのことを言ってるの?!」
獅音は初めての厨二病を見て、少し興奮気味に聞いた。
「それ以外に誰がいるというのだ?パルテナインダッツナオード!無敗と謳われた俺を唯一打ち負かした力の保持者!そういえば、ユークとテナは仲が良かったな…。」
「俺ら、こいつの前世の世界でも仲良かったらしいぜ。偶然が必然か?」
「必然という名の運命かもな。」
にしても、相変わらず略すところがおかしいと思うのは俺だけ?
「ううん、俺も。」
「おっと、無意識の意思疎通。」
獅音が聞いた。
「な、お前誰なの?」
赤毛眼帯は真顔で答えた。
「アルテミスマラゴールドサンガレット。」
ボカッ!
「痛っ!!」
俺は赤毛眼帯を殴った。
「あっバカ葵!空手黒帯は許可無しに人を殴っちゃダメなの!」
俺は自分の拳に目を落とす。
「黒帯っつっても、もう鍛えてねーし」
「屁理屈言わない!アホイめ!」
「んだと?!このカリネコ!人の前だけいい面しやがって!」