まず、前提として。
僕は、音楽が好きだ。
楽器の音を組み合わせる時間、1人で静かにリズムを刻む時間、みんなで合唱する時間。
その全てが、僕は好きだ。
だけど年齢が進むにつれて、音楽を奏でる時間は短くなっていった。
その理由は、バスケを始めたからだった。
小学校の授業で初めて行ったバスケットボール。背の高い人が有利だからと、僕は案外重宝された。
嬉しくて、みんなの役に立てるように頑張った。けれどある日、言われたのだ。
「葵はいいよな、背が高くてさ。」
保健の授業では、個人差というものを習っていた。なのに彼はそう言った。
彼から以外でも、たまに言われることはあった。
小さな頃から偏見という悪者の性格を親に聞かされてきた僕には、少し悲しい言葉だった。
やっぱり、先生の話を聞くだけではみんなの心に響かないのかな。じゃあ僕が何を言ったって…。
僕は自分の中で話をまとめ、それからはその事を気にしないように生活をした。
ーそう、小学6年生までは。
中学校に入った。部活を始めた。僕はご存知の通りバスケ部に入った。
バスケ部には、僕よりも背の高い先輩が何人もいた。当たり前に、僕よりも背の高い同級生もいた。ある程度活躍出来たものの、小学校の頃のようにまで、重宝されるとはいかなくなった。
そこで僕は、昔の悩みの種の言葉を、いつしか自分で言うようになっていたのだ。
「なんでそんなに背が伸びるんですか?何か背を伸ばす工夫とかあるんですか?」
オイ、その言葉で悩んだあの時間はどこに行ったんだ僕よ。
後から思うと、笑い話。だけどその時は、割と真面目に質問をしていた記憶がある。
にも関わらず、質問をした相手は僕が思ってもいなかったことを言ったんだ。その言葉は、今でも、そしてこれからも忘れないだろうと思う。
「俺がやってることをお前がやっても意味ないだろ。俺たちは違うんだから。」
その言葉は、胸に引っかかった。
意味が無い?先生たちさえも、先輩からアドバイスを貰えと言うじゃないか。
悩みに悩んで1ヶ月。
未だに部活で優秀な場面を見せられていなかった僕は、その場所から逃げるように、久しぶりの音楽へ手を伸ばした。
スマホでYouTubeを起動する。イヤホンをつけて、目を閉じた。
1、2、1、2、
リズムを刻むうちに、何か違うと感じた。
昔聞いていた音じゃない。
おかしいと思って画面を見ると、案の定「演奏してみた」動画だった。
なんだよ、と半ばがっかりして検索画面に戻ろうとすると、急に何かが俺に降ってきた…ような感覚がした。
友達の言葉を借りるなら、宇宙人からの交信?
笑うかもしれない。けれど、その時の僕にとっては笑い事なんかじゃなかったんだ。
『楽器によって出す音は違う。』
当たり前のこと。金管楽器が打楽器の音を出せるわけないし、弦楽器が木管楽器の音を出せるわけない。同じ楽器だって、演奏する人の癖が出てしまう。
本当に当たり前のことなんだけど、今までの人生でその時だけは、それが僕たち人間の精神にも適用されるような気がしたんだ。
僕たちに、誰かを真似しようとしている部分があるというのは否定できない。
しかし、1人1人が出せる音は違う。
違うからこそ、真似をすることは出来ない。
なら逆に、真似しないのが大切だ。
『自分は自分、相手は相手。』
その一言を、僕は忘れないようにしたい。
僕のように悩んでいる人に、このことを教えてあげたい。
ある意味では、バスケのおかげで。
ある意味では、音楽のおかげで。
大人に近づいた、今日この頃。