1
太陽が水面を照らしている。普段の通学路を辿って学校に向かって自転車を漕いでいるとよく見る池がエメラルドのように輝いているのが見えた。なんでこんなにもこの水は輝いているんだろう。僕もこんな綺麗に輝くことができたらよかったのに。
こんなに綺麗な水面を見ていると君のことを嫌でも思い出すじゃないか。どうして君はいなくなってしまったんだよ。ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃないか。君は約束を破るような人じゃなかっただろう。今そんなことを言っても意味ないことくらいわかってる。でも僕は君を忘れることができない。これから先どんな人が現れてどんなことが起きても。
2
「なぁお前ってあの人の噂聞いたことあるか?」
朝学校に行くとよくつるんでいる愁が声をかけてきた。「噂って?」
「まさか知らないとか言わせないからな。芹沢さんの噂のことだよ。先月、旅行に行った先で家族全員通り魔に殺されて本人も大怪我を負ったっていう話。学年中で噂になってるぞ。」
「そんな噂本当に信じてるのか?あんなに芹沢さん元気にみんなと話してるじゃないか。」
僕から見た芹沢さんは「容姿端麗」その一言につきる。その上人当たりもよく成績優秀。部活動でも結果を残しているっていうアニメとか小説の中の人間って感じがしている。
「その噂、結構信憑性高いんだからな。お前本当に無知極めてるじゃないか。」
「だって本人すら否定してるじゃないか。それなのにみんな信じないのはひどいじゃないか」
「まぁお前が信じないって言うならいいけどさ。泣いて縋ってきても知らないからなー。」
「なんで愁なんかに泣いて縋る必要があるんだよ。」
そんな話をして朝のホームルームの時間になった。いつものように先生の長い長いホームルームを終えて1時間目の授業の準備を始める。僕のクラスは担任の話が長すぎて準備の時間がほとんどなく毎日クラスは慌ただしくなっている。1時間目の授業は英語でクラスのみんなの前に立ってスピーチをするという時間だった。スピーチをする時英語が大得意である愁は流暢な英語でクラスのみんなを圧倒していた。愁はスピーチが終わった後、すぐに僕の元へきた。
「俺の発表めっちゃよかっただろ!終わっけた後の拍手本当に気持ちよかったなー。このために留学に行った甲斐はあるな。」
「留学行ったのはこのためじゃないだろ。確か愁の親戚がカリフォルニアに住んでるとかなんとかって言ってたっけ?」
「よく覚えてるな。そうだよ。俺のいとこがカリフォルニアに住んでて宿代とか諸々無料でいいって言ってくれたからさ。せっかくならってことで親父やお袋に勧められてノリで行ったって感じ」
なんというか愁はとてもタフな人間だなとつくづく思う。
「でもスピーチめっちゃよかったぞ」
愁は軽くありがとうと言って自分の席に戻って行った。僕はまだまだ先だけど心の準備をしておかないといけない。
人前で話すのは苦手じゃないけどあまりしたくないんだけどな‥‥‥
何人かが発表した後授業時間が終わらなかったから僕の番は回ってこなかった。
「凪の番結局回ってこなかったよなー。凪の英語のスピーチ面白いから聞きたかったのに」
「僕がどんだけ苦手なのか知ってるだろ。あの壊滅的な英語力の無さはクラス1だから」
「知ってるから聞きたかったんだよ」
本当に愁は性格が悪いような気がするな。でも愁は本気で馬鹿にしてきてないから笑って見過ごせるから安心感があるんだよな。
そういえば芹沢さんも結局発表してなかったな。あの人は愁に引けを取らないほどには発音もよく聞き取りやすかった記憶がある。また次の機会にお預けになりそうだけどな。
そんなことを考えていたら愁が口を開いた。
「なぁ凪、お前芹沢さんのこと考えてただろ。バレバレだぞ。」
「なんでわかったんだよ。気持ち悪いぞ愁。」
「まぁそうカリカリするでない。顔にでっかく芹沢ラブ!って書かれてたぞ」
本当になんでわかったのかわからない。気味が悪い。でも愁のことだから本当に何かわかるものがあったんだろうなとは思う。それにしてもラブなんて考えてなかったのに。僕のことをなんだと思っているんだよ。
いつものように愁とそんな会話をして授業が終わって僕は帰路についていた。帰り道の景色はいつもと変わらなかった。なんの変化もなくただ川の横の道を川に沿って家まで向かう。それを30分間もかけるから本当に面白味がない。それも七月のこんな暑い時期だと額から汗がこぼれ落ちる。学校から10分程度歩いたところで空からポツポツと小粒の雨が降ってきた。どうせすぐに止むだろうと思って普通に歩いていたが強いに雨粒は大きくなっていって音がするほどの強い雨に変わっていった。家までまだ距離があったから近くの公園で雨宿りをすることにした。その公演は広い池が一つだけありその周りを囲むような設計になっている。このため定期的にこの公園に愁と二人で走りに来ることがよくある。そんなことを考えて池を眺めていたら後ろの方がふと音が聞こえてきた。反射的に振り返るとそこには同じクラスである芹沢さんが気まづそうに立っていた。僕は軽く会釈をしてまだ池を眺める。すると芹沢さんが僕の方に近づいてきて話しかけてきた。
「あなた同じクラスの水無瀬くんだよね。愁くんと仲の良さそうな。」
芹沢さんが僕のことを知っていたことに少し驚いたけど僕は普通に返事することができた。
「そうだけど、君は確か芹沢さんだよね。」
「私のこと知ってくれてたんだ。なんか驚き。」
「そりゃああんなに友達が多いし先生からの評価の高い人を知らないわけがないというか。そっちこそなんで僕のこと知ってるんだ。」
「そんなに褒めても何もないよーまぁ私はクラスの人の名前と顔覚えるのは得意だからね。私成績優秀の天才ちゃんだから。」
「まぁなんとも自己肯定感の高いことで。というか帰らなくていいのか?まぁ帰れそうにないようだけど。」
彼女は見るからに傘を持って無さそうだしカッパも持っていないようだった。だから帰れないってことくらいは想像がつく。
「見たらわかるでしょ。ご覧の通り傘はありません。だから暇つぶしに話し相手になってよ。」
まさかクラスでもトップクラスに容姿端麗の彼女と話す機会ががあるとは思いもしなかった。もしこれが僕や愁以外のクラスメイトだったら喜びのあまり失神してるだろうな。彼女は僕の知る限り周りの男たちからとてつもない人気を得ている。
「雨が止むまでなら全然大丈夫だよ。」
「やったーありがとう!」
それから僕たちは雨が止むまでの約1時間公園の屋根のあるベンチで美しい池を眺めながら雑談していた。時間が経って雨が止むと彼女と二人で帰路を辿っていた。途中の分かれ道で彼女とは離れて10分ほど一人で歩いて家に帰り着いた。家に帰り着いて愁に電話をかけた。
「もしもし。愁にちょっと聞きたいことがあって。」
僕は今日の彼女との会話で一つ気になることがあった。
「どうしたんだ。」
「今日帰り桜第一公園で芹沢さんと話したんだけどさ、その時芹沢さんが言ってたことに気になることがあって。」
「凪お前あの芹沢さんと話したのか?あの女とは誰とも話さないはずの凪なのに。」
こいつは本当に何を言ってるんだ。
「そんなことはいいんだけどさ、芹沢さんが言ってたんだけどね「水無瀬くんは星と花どっちになりたい?」って言われてさ最初はなんとなくで花を選んだんだけど何かこの質問って意図があったのかな。」
「ないだろ。ただの雑談の一つだ。」
即答すぎて悲しくなってくる。
「だよな。考えすぎだったわ。じゃあまた学校で。」
「じゃあな。」
そんな感じで通話はおわって僕はベットに入り寝ようと瞼を閉じた。
僕はさっきの愁の発言を思い出した。「女とは誰とも話さない凪」そんな言葉を言われたのを覚えている。僕は別に話せないというわけではない。でも自分から話す気になれなかった。
僕には小さい頃から仲の良かった千歳という幼馴染がいた。千歳とは家族ぐるみで仲がよく定期的に互いの家に遊びに行きバーベキューをしたりみんなで遊びに行ったりしていた。そして僕が中学生になり二人で遊びに行くことが増えてきた。中学生の僕にとって千歳のことを好きになることは難しいことではなかった。でも僕は千歳との関係が壊れるのが嫌で告白できずにいた。そして僕が中学2年生になったある日千歳と遊んでいると急に千歳が倒れた、半歩後ろに仰向けで寝ている千歳を前にして僕は体が震えて動くことができなかった。そして周りの人が救急車を呼んでくれ千歳は一命を取り留めた。ただ千歳は後遺症を患ってしまった。そのせいで千歳は一生歩けなくなり次第に周りの人と距離を置いた。僕がもし彼女を助けるために動いていたら結果は変わっていたかもしれない。そんなことを考えていると数日間好物も喉を通らなくなってしまった。お母さんがその話を千歳にしたらしく千歳は僕の家に来て何度も謝った。僕は千歳は何も悪くない悪いのは君を助けようとしなかった僕だ。全て僕が悪いんだ。そ
う千歳に何度も伝えた。それから千歳は僕の前にすがたを見せなくなってしまった。それから1ヶ月後千歳は引っ越してしまった。二人で見たあの景色をもう二人で見ることはできない。僕に伝えず彼女は引っ越した。
それから僕は千歳のことを忘れるためにたくさんの女子と遊びに行った。中には僕のことを良く思ってくれる人もいて少しの期間その子と付き合っていた。でもその子は僕と遊んでいる時に車にはねられ右足が動かなくなってしまった。次に付き合った人も同じように次は左足を失ってしまった。それから僕は女子と話すことをやめた、関わって親しくなって二人手前遊びに行くとまた好きな人を不自由にさせてしまうと思ったから。
僕はその話を愁にすらできていない。その話をしてもきっと愁はたまたま運が悪かっただけだ。っていうと思ったから。このことは誰にも言わずに死ぬ時も誰にも言わないようにしようと心に決めていた。だから僕は芹沢さんに惚れることもなければこれから彼女と関わることはないと思う。でも今日話してしまった。
3
僕の嫌な予感は的中した。次の日学校に行くと芹沢さんは僕のところに来て話しかけてきた。僕は勉強したいからと言って無視しようとしたが彼女はずっと僕に話しかけてくる。うんざりしたけど周りの目もに気なるため少しだけ彼女と話した。周りの男たちからの冷た視線がすごい。この休み時間を乗り越えたら僕は急いで愁のところに逃げ込むとするか。そんなことを考えていたらチャイムがなり授業が始まった。先生の話を聞いていると授業の時間はあっという間に過ぎて行った。授業が終わり僕は急いで愁のところに逃げた。愁と話して今日の休み時間は全て彼女から逃げることに成功した。あのまま話して彼女が僕のことを変に意識したらまた悲しむ人が増えてしまう。だから僕は彼女から逃げるしかないと考えた。全ての授業が終わり家に帰ろうとすると校門に見覚えのある姿が見えてどきっとした。そこには芹沢さんの姿があった。僕は彼女にバレないようにコソコソと校門を出ようとした。ただ彼女は僕を見つけるなり近寄ってきて隣を無言で歩いだきた。僕がどれだけ早く歩こうとどれだけ遅く歩こうと彼女は僕のスピードに合わせて歩いている。僕はイライラきてきて強い口調で彼女に
「付きまとうのはやめてくれ。せめて話しかけてくれ。じゃないととても気味が悪すぎる」
「ごめんね。話しかけようと思ったんだけど話しかける話題がなくて」
そんなことを言っていると僕は家の目の前についた。
「家ここだからじゃあまたね。
「うんまたね」
急な出来事だったから僕はこんな杜撰な返事しかすることができなかった。でもそれでいい。これがきっかけで話しかけられなくなるなら問題はない。彼女が僕と関わらないのはとてもいいことだから。
次の日学校に行くと彼女の姿はいなかった。どうやら家族の月命日のようで祖父母の家に今いるらしい。不謹慎だと分かってはいるが彼女の家族が殺されてしまったということを信用していなかった僕としてはとても驚きである。その一方で今日は絡まれなくて済むと考えると少しホッとしてしまっていた。こんなことを言ったら周りの人にドン引きされてしまうからいうことはできないなと考えているとふとあの時の芹沢さんの質問を思い出した。あの時僕はなんと答えたかは忘れたけど今は星と答えるだろう。急に思いつきそんなことを考えたりして家に帰った。帰り着いてスマホを見ると見慣れない人からラインが入っていた。名前を見ると星羅と書かれていた。僕の身近な人で星羅という名前の人は一人しかいない。芹沢だ。僕は驚いたもののラインの内容確認した。そこにはこうかかれていた。
(芹沢です。急にライン追加しちゃってごめんね。クラスラインから追加しました。水無瀬くんは小さい頃仲良かった千歳のことを覚えてるる忘れていたら絶対に思い出してください。忘れてるわけないと思うので私はラインを入れました。実は私と千歳はいとこ同士だったのです!!!知らないと思ってたらからここで告白しちゃいました。私は小さい頃から千歳に水無瀬くんの話をされてきました。そして千歳が倒れた時のこと千歳が学校に行かなくなっていた間のこと。千歳はずっとあなたのことで悩んでいました。今日は私の家族の月命日であると同時に千歳の命日でもあります。おそらく千歳は引っ越したことになっていたと思います。でも彼女は引っ越す前にすでに自殺していました。理由はあなたにわかる?全部あなたのせいなんだよ。千歳はあなたがろくに食事も取れていないことを知って自分を責めて家族にもそのことを伝えられず学校に行くのさえも怖くなり自殺してしまった。だから私はあなたのことを絶対に許さない。どんなことがあっても許さない。千歳と離れた後新しい彼女を作って怪我させたことも知ってる。私は千歳が大好きだった。それなのにあなたは私の大切ないとこである千歳を殺した。だから私はあなたに近づいた。あの日だって折りたたみ傘を持っていた。でもあなたと話すために嘘をついた。そして星と花どっちになりたいか質問をした。この質問の意図はあなたにわかる?私は星になった千歳のことを考えて質問をした。無茶苦茶なことを言ってるということはわかっている。でももしあなたが星と答えていたら私は許していたのかもしれない。千歳のところに行ってくれると自分に思い込ませたかった。こんな無茶苦茶なことを言ってごめんなさい。でもあなたは罪を償って欲しい。千歳を殺したことを忘れずに償って。)
この文を読んだ僕は何も理解することができなかった。というよりはしたくなかった。千歳が死んだこと。芹沢さんが千歳のいとこであったこと。これを信じると本当に千歳に会えなくなることを実感してしまうと考えたから。千歳は本当に死んだのか。まだ僕は疑っている。でも芹沢さんがこんな嘘をつく理由もない。僕は今すぐにでも真偽を確かめたかった。だから僕は千歳のラインに電話をかけた。すると電話に出たのは千歳の母親だった。僕はゆっくり千歳の母親に話を聞いた。千歳が死んだことり芹沢さんがといとこだったということ。千歳が自殺したこと。全てを聞いて僕は体に力が入らなくなってしまった。そして地面に崩れ落ちた。
それから僕は1週間学校を休んだ。休んでいる期間芹沢さんが家にきた。僕は彼女に合わせる顔がなかったから親に頼んであわないように手配してもらった。僕はまた逃げてしまった。僕は休んでいた期間の最終日ら千歳が引っ越したという先に出向いた。実際に千歳が住んでいたわけではないがそこに行くと千歳を感じられるような気がしたから。彼女の両親がいる家を訪ねると母親が出てきた。彼女は驚いた様子で僕を見たが家にあげてくれた。家に上がると左手に仏壇が置いてあるのが見えた。そこには彼女の笑顔の写真があることに気づいた。僕の体は勝手に仏壇の方に行き彼女に手を合わせた。長い時間手を合わせていたような気がする。そして僕はずっと泣いた。声が枯れて涙も枯れるまで声を出し続けて泣いた。僕は目を開け彼女の遺影をしっかりと眺めた。もう忘れることのないように目に焼き付けた。
僕が帰ろうとすると家の戸が開いた。そこには学校帰りの芹沢さんの姿が見えた。僕が何日も逃げた姿を見てまた逃げ出そうとしてしまった。
でと僕は向き合うと決めたから芹沢さんと話をした。彼女は千歳の夢について話してくれた。千歳は僕のことが好きだったらしい。そして遊びに行く時も僕のために化粧をして服を選んできてくれていたという。そして千歳は亡くなる前日に芹沢さんと話していたらしい。そこでは千歳が僕のことを好きだったということ。早く告白して欲しいかったということ。僕が僕
めないで欲しいということ。そんなことを芹沢さんに話していたという。そして彼女は千歳の夢を教えてくれた。それは新しい彼女を見つけ恋をしその彼女を守ること。それがお人好しな千歳の最後の願いだったという。その話を聞いた僕は枯れたはずの涙がまた流れ始めた。そして僕は家に帰った。帰り芹沢さんと話したことがある。それが僕と芹沢さんが一時的に付き合い新しい彼女を守る練習ということだった。そして芹沢さんは千歳の願いを叶えるために僕と付き合うことになった。僕としては好きでもない人と付き合うのは嫌だったが千歳の願いだったため受け入れることにした。でもほんとは彼女と付き合いたいとは思わなかった。なぜなら形だけだったとしても付き合っていたら二人で遊ぶことが増えてしまいまた今までの人のように怪我をさせてしまうと思ったからだ。
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僕たちは定期的に二人で遊ぶ約束をし彼女を守る練習をしていた。そして会うたびに彼女は僕にずっと一緒だよと伝えてくれた。千歳を失って悲しいのはお互い様なのに彼女は乗り越えていた。そして僕たちが近くの遊園地に行くと急に大雨が降り出しあたり一面水浸しになってしまった。そして近くには初めて話した公園に二人で向かった。初めて話した時のように二人で川を眺めてゆっくりと雑談をしていた。雨がすごかったから池水は水位が少し上がっていた。でも危ないというほどではなかった。
次の日学校の帰り道彼女役である芹沢さんと二人で帰っていつもの池に寄った。今日の池はとても美しくエメラルドのように輝いていた。僕たちはその池を過ぎて家に帰ろうとした。ただその時後ろの方からドンと音がするのが聞こえた。後ろを振り返り音の元を見るとそこには血を流しながら倒れている芹沢さんの姿があった。僕はあの頃を思い出した。千歳を助けることができなかったあの日を。でも今回は前のようにはなりたくないと思って彼女のところに歩み寄って心臓マッサージを始めた。最初の方は体力的に問題はなかったが救急隊の人たちが来る頃にはヘトヘトになっていた。僕は救急車に同乗し病院に向かった。彼女は僕の心配蘇生も虚しく死んでしまっていた。原因は大量出血だった。僕はまた大切な人を失ってしまったり千歳のように。急すぎるこんなにも急に身近な人が亡くなるなんておかしい。僕はそう思って泣いたり何度も何度も泣いた。それでも彼女は目を覚ますことはなかった。おそらく僕は彼女に恋していたのだろう。最初は千歳の願いのためだったがそれがきっかけで僕は芹沢さんの魅力に惹かれていった。デートの時は毎回僕が話した店について下調べをしてくれたり普通なら男の僕がするようなことも率先してしてくれていたりそんな彼女のことを僕は好きだった。でもそれでもまだ本人に伝えることがまだできなかった。千歳の時と一緒だまた何も言うことができなかったり伝えるべきことなのにまた伝えられなかった。僕は泣いた。また泣いたそしてたくさん泣いた。僕は千歳も芹沢さんもいない世界なんて想像できなかった。
芹沢さんが亡くなって数日僕は毎日泣いていた。僕も死のうかどうかと何度も悩んだ。僕が死んだら芹沢さんや千歳に会えると思ったから。それでも僕は芹沢さんとのデート中に言われたことを思い出した。「逃げてもいい逃げてもいい。それでも最後までやり遂げろ。やり遂げたらきっといつかいいことが起こるから。」僕はその言葉を信じて生活していた。そして学校にも復帰することができた。また彼女に救われてしまったみたいだ。
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僕は学校に復帰することができた。それも彼女の言葉のおかげだ。彼女が今の僕に生きることを教えてくれてそして彼女たちの分まで精一杯生きようと思わせてくれた。その言葉がなければきっと僕はもう自殺していた。彼女たちに会うためにどんな手段を使ってでも会いにいっていただろう。彼女がいない学校はとても寂しいが僕には愁という友達がいる。僕のことを支えてくれる大切な友達だ。
普段のように学校から帰るといつもの公園を通った。そこにはエメラルドのように輝く池があった。こんなに綺麗な水面を見ていると君のことを嫌でも思い出すじゃないか。どうして君はいなくなってしまったんだよ。ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃないか。君は約束を破るような人じゃなかっただろう。今そんなことを言っても意味ないことくらいわかってる。でも僕は君を忘れることができない。これは君からの最後の呪いなのかもしれないね。それでも僕は君にずっと感謝しているよ。
この世界の誰よりも僕に影響を与えて生きる希望を見せてくれた人。


