バーカウンターの中で必死に考えを巡らせ、これしかないと思った。

 俺はシェーカーを手に取り、材料と氷を入れるとシェークを始める。

 彼女の視線を痛いほどに感じ、緊張して体がこわばるのを感じていた。

 カクテルグラスに注ぐと、それを彼女の前に差し出す。

「お待たせしました。フロリダです」

彼女はグラスをじっと見つめてから、再び俺の方へ目を向ける。

「カクテル言葉は?」
「"元気"、それからもう一つ、"思いを馳せる"」

それを聞くと、彼女は目を細めながらグラスを手に取り口に含んだ。

「……おいしい」
「オレンジとレモンがベースになってるんだ」
「甘酸っぱいのね……」

 それから口角を少し上げてから、小さく息を吐く。

「いいわ、終電は見送ることにする」

 あぁ良かった……なんとか彼女を引き止めることに成功した俺は、ホッと胸を撫で下ろした。