なぜか縁側でまったりすることになった私達。
 渋いお茶は苦手だけど、お茶請けとして出してもらった金平糖が美味しかったのでなんとか飲み干せた。
 こういう時は紅茶が恋しくなる。私は和菓子でも紅茶と合わせるほど紅茶派なのだ。

「久方ぶりに陽の光を浴びながらお茶が飲めます。華鈴様、ありがとう」
「様も敬語もいらないですよ! でも正直また悪化するかもって思うと怖くないですか?」
「怖くないと言えば嘘になる。だけど、華鈴に治療してもらって、なぜか完治したと思えるんだ」

 「身体も呪いがかかる前よりも良くなった気がする」と嬉しそうに林は言った。
 以前、白ではない聖女に治療してもらった時は、まだ体に鉛が詰められている感覚があったのだとか。
 その聖女の力ではすべて取り除けなかったのか、他に理由があったのか――それは白ではない聖女にしかわからない。
 豆臣はお茶を飲んだ後、林へと尋ねる。

「織田様の元に戻りますか? よければ連れていきますよ」
「しばらくここで世話になっていたし、民に報いたい。だから私はもう少しここにいようと思う」

 そう言いつつ、何かを書き始めた。筆でサラサラと書いた後、それを豆臣へと渡す。

「織田様に文を渡してもらえないでしょうか」
「もちろんです。きっと喜んでここに来るでしょうね」

 豆臣はその手紙を部下へと持たせ、立ち上がる。

「僕達はそろそろお暇しますね」
「そうですか。残念ですが、仕方ない。また"仲間として"顔を合わせられることを楽しみにしていますね」

 林のその発言に、豆臣は言葉を詰まらせたが満面の笑みで言う。

「……そうですね。僕も楽しみにしていますよ」

 ◇
 
 織田の城へ、また早々に来てしまった。相変わらず大きくて威圧的な雰囲気のある城だ。
 私と島は馬車で待機。本当は島が行く予定だったらしいが、豆臣が「話したいこともあるから」と出て行ったのだ。
 
 手紙を渡してすぐに移動するから大丈夫だと豆臣は言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。
 馬車の中で島と一緒に待っていると、窓から声をかけられる。渋く低い声ではないし、織田の声でないのは確かだ。
 カーテンを退かして窓の外を覗いてみると、そこには明知が笑顔で立っていた。
 私を見て明知は丁寧にお辞儀をした。

「こんにちは、華鈴」
「明知様、こんにちは」
「林殿を治療してくれたと聞いております。ありがとうございます」
「私はただ、豆臣様に言われて――」
「そうでしたか。自分の手柄だと言えば良かったのに。素直な方ですね」

 くすくすと笑った後、それではと明知は去って行ってしまった。治療の時もそうだったが、用事が終わるとすぐに去っていってしまう。談笑をあまり好まないタイプなのだろうか。
 そんなことを考えていると扉が開く。
 
「戻ったよ」
 
 入れ替わりでやってきた豆臣。先ほどまで持っていなかった籠を手に、馬車へと乗り込む。
 
「さっき明知に会ったのだけれど、『何を企んでいるのですか?』と言われてしまったよ」

 島の指示で動き出した馬車。島は豆臣の発言に、私を一瞥してから言う。
 
「華鈴が『林を助けたのは豆臣が指示したから』という物言いをしたからですね」
「なるほど。僕の名前を出すよりも、感謝してるならお礼の品くらいよこせ〜とでも言っておけば良かったのに」

 籠を開け、中身の物色を始めた豆臣。もしかして豆臣はお礼を貰いに行ったのだろうか。
 籠の中の一つを取り出し、私に手渡した。これは、かんざし?

「あの人、本気みたいだね。先に僕が手をつけてしまおうかな」

 どういう感情か、私にはわからなかった。だが、豆臣の視線は、獲物を狙うかのようだった。思わずドキッとしてしまった。
 いやいや、政略結婚ってやつだよね。豆臣は私のことを本物の聖女って思ってるみたいだし。だからその力を欲しいだけ――

「お戯を……。華鈴も動揺してしまっているではありませんか」
「戯だと思われてるんだ。そっかそっか」
 
 目を細めて私をじっとりと見つめている豆臣。
 ……力が欲しいだけだよね!? どんな感情でそんな見つめてくるの!?
 勘違いしそうな発言にどぎまぎしていると、豆臣はニコニコと私を見ていて、島は呆れた表情を浮かべるのみ。
 もしかして、遊ばれてた方だろうか。

「まあ、結婚とかそう言う話は、今は置いておこう。僕との結婚が嫌でも、養子にして他に嫁がせることだってできる」
「私が誰かと結婚する前提なんですか!?」
「え、しないの?」
「いや、わからないですけど……」

 好きな人に求婚されたらきっと私は結婚する。だが、この世界について何も知らないし、私に好きな人ができるかもわからない。
 正直なところ織田や豆臣、徳海あたりはあまりにも重荷な気がしなくもないが。

「さて、こちらの籠の中身は女物ばかりだから、貴女に確認してもらおうかな」

 そうして籠を手渡された。ずっしりと重いその中には、私が借りていた着物が入っていた。他にも別の着物が用意されており、高そうなかんざしも数本。それと、匂い袋も複数。

「どれも高価なものだな」

 隣で見ていた島は、この女にそこまでするか? とでも言いたげな表情に見える。

「これって私への好意ですかね? それとも政治的な駒として?」
 
 失礼すぎるが、ぶっちゃけ私も突然こんなに高価なものを大量に贈られて困惑しているのも事実だ。
 だが、豆臣は笑うだけ。島は仏頂面のまま。どちらも答えてはくれず、わからずじまいだった。

「徳海の城までまだ時間がかかる。貴女は眠っていると良い」

 豆臣に優しい声色でそう言われ、疲れているせいか、気が緩んだ途端にまぶたが重くなってきた。