あれやこれやと何かが詰まった風呂敷を持たされ、今は馬車に豆臣と二人きり……と思いきや島が私の隣に座っている。
せめて石口がよかったなぁ。けど、石口はやらなければいけない仕事があるそうで、ついていけないのだとか。とても残念だ。
表情に出ていたようで、島は眉間に皺を寄せ私を見た。
「あからさまに嫌そうな顔をするな」
「先に嫌そうな顔をしてた人に言われたくな――なんでもないです」
「仲が良いね」
「どこかですか!?」
島と揃ってツッコミを入れる。そんな様子を見て、豆臣はくすくすと笑っている。
「俺はまだお前をまだ認めていない。だから豆臣様を守るためにも着いてくる必要があったんだ」
私と二人きりだったらきっと島は腕を組み、柄が悪そうにしていたことだろう。だが、今日は豆臣がいるため、足を閉じ、背筋を伸ばしている。馬車にいる間ずっとそのままでいるつもりなのだろうか。
私だったら絶対途中でだらけてる。
「今回は少し長旅だ。織田の領地で寄り道をしてから、徳海の領地に入るからな。あまりだらけるなよ」
「そんな無茶な! その間何をしていろと!?」
この三人で徳海の城まで会話が続くとは思えない。だからと言って二人をそっちのけでスマートフォンなんていじれるわけもない。
……いや、あえてそちらに興味を持っていった方がよかったりするのだろうか。でも、変なものだと没収されては更に困ることになる。難しいところだ。
「一度織田の領地で休ませてもらうことになっているけど……もし怪我人がいても、僕の指示なしに助けてはいけないよ」
「なぜですか?」
「見せびらかすとは言ったが、安請け合いはそれだけ貴女の価値を下げてしまうからね」
織田に頼まれない限り、織田の領地で能力は使ってはいけない。どれだけ民に言われても使える人が限られていると通せとのこと。
擦り傷程度なら無視もできるが、重傷な人も無視できるかと言われれば、私は無理だと答えるだろう。
偽善とかではなく、ただ私が悪く言われるのが怖いだけ。できるだけ誰にも嫌われず生きていきたいし。正直なところ、偽物である可能性がある時点で、できるだけ誰にでも媚を売っておきたい。
だが、私は逆らえないので頷いた。
「……わかりました」
私の表情を見て、豆臣は笑顔で言った。
「すごく不服そうだね。大丈夫だよ、何があっても貴女を捨てることはないからね」
見透かされたかのような豆臣の発言に、私は目を瞬かせた。まさか口に出していたわけではないよね……?
「お前はわかりやすいんだよ」
島に呆れた表情を浮かべられ、私は仏頂面を試みた。だが、島は訝しげに私を見ただけ。
ツッコミくらい入れて欲しかったな。
「村に到着したぞ。ふざけてないで降りろ」
いつの間にか馬車はかなり進んでいたらしい。豆臣の城はすでに見えず、だだっ広い平原が広がっていた。
馬車から降りると、すぐ朗らかに挨拶をしてくれる村の人達。怪我もなく健康そうだ。
村長らしき男に、島が問いかける。
「ここに林 蘭𣏒がいると聞いたが、息災だろうか」
男は口ごもり、島へと耳打ちをした。島は静かにそれを聞き、「承知した」とだけ言って頷いた。
「島、案内してもらえるかい?」
「もちろんです。お前も来い」
「え、はい」
この村で一番大きな建物へと入り、奥へと進む。長い廊下を渡りきる頃、息苦しさに私は思わず口元を覆った。決して臭いとかではない。だが、呼吸を阻まれる感覚に驚いてしまった。
私の行動に疑問を感じたのだろう豆臣は首を傾げた。
「どうかしたのかい?」
「いや、呼吸がしにくくなってきて」
「……そう。今から会う人の呪いにあてられたのかもしれないね」
開けられた襖から覗くと、視界を遮る真っ黒な霧が部屋に充満していた。
その中央には、見えづらいが私と同い年か、それ以下か……幼い顔立ちをしている男の子がいた。
息苦しそうにしながらも眠っている。周りには黒いモヤがかかっており、視界が悪い。
「なんですか? この黒い霧みたいなのは」
「黒い霧? そんなもの、俺には見えんぞ」
「やっぱり、貴女にはわかるんだね。聖女関連の書物を読んでいて正解だったよ」
島は訝しげに眉間に皺を寄せた。しかし、豆臣は目を細め笑い、紙の束を紐でまとめたものを撫でた。
「きっと貴女の力で助かるはずだ」
「えっと、先になんでこんなことになっているのか、聞いても良いですか?」
「正直僕にもわからない。病気を患って以降、寝たきりなんだ」
周りからは疎まれ、織田は「使えないのならいらない」とこの村へと送ったのだとか。
それを見ていた豆臣は、織田なりの優しさだったのだろうと言っていた。何をもってそう思ったのか、出会って間もない私にはわからなかった。でも、きっと間違いではないのだろう。
「それで、貴女がまだここに来ていない時、白ではない聖女に頼んで治してもらった。少しの間元気になったんだけど、また弱っていった。加えて以前より症状は悪化している」
「……私が治療して、さらに悪化する可能性は?」
「ないとは言い切れない。けど、僕は貴女なら助けられると信じてるんだ。だって、白ではない聖女から、貴女の言う黒い霧の話は出てこなかったからね」
それだけこの人を助けたいんだなぁと思っていると、豆臣は和かに言う。
「これで織田に恩を売るんだよ」
前言撤回。この人、打算的すぎる。
まあ、それは置いておいて。
私は林という男へ手をかざす。正直どこに手をかざして良いかわからない。だから適当に頭のてっぺんから足のつま先までなぞるように手をかざしてみた。
すると、黒い霧は私の手の甲に吸い込まれていき、次第に呼吸もしやすくなっていく。
すべて霧を吸い取るころには、霧が晴れたように視界もクリアになった。
林は「ううん……」と声を漏らし、目をゆっくりと開けた。
「これは、成功……?」
「うん。成功だね。林殿、ご気分はいかがですか?」
「心なしか、体が軽くなった気がします」
林はそう言って、いつの間にか側まで来ていた豆臣に笑いかけた。
「いえ、それよりもまた私なんかのために聖女を呼んだのですか?」
私の方向をチラリと見た林。以前来ていた白ではない聖女だと思っていたのだろう、私を見て目を見開いた。
「……おや、今回は随分可愛らしい方で」
少し安堵したように、にこりと私へと微笑む。
今度は美少年と呼ぶのがあっていそうな人だなぁ……
せめて石口がよかったなぁ。けど、石口はやらなければいけない仕事があるそうで、ついていけないのだとか。とても残念だ。
表情に出ていたようで、島は眉間に皺を寄せ私を見た。
「あからさまに嫌そうな顔をするな」
「先に嫌そうな顔をしてた人に言われたくな――なんでもないです」
「仲が良いね」
「どこかですか!?」
島と揃ってツッコミを入れる。そんな様子を見て、豆臣はくすくすと笑っている。
「俺はまだお前をまだ認めていない。だから豆臣様を守るためにも着いてくる必要があったんだ」
私と二人きりだったらきっと島は腕を組み、柄が悪そうにしていたことだろう。だが、今日は豆臣がいるため、足を閉じ、背筋を伸ばしている。馬車にいる間ずっとそのままでいるつもりなのだろうか。
私だったら絶対途中でだらけてる。
「今回は少し長旅だ。織田の領地で寄り道をしてから、徳海の領地に入るからな。あまりだらけるなよ」
「そんな無茶な! その間何をしていろと!?」
この三人で徳海の城まで会話が続くとは思えない。だからと言って二人をそっちのけでスマートフォンなんていじれるわけもない。
……いや、あえてそちらに興味を持っていった方がよかったりするのだろうか。でも、変なものだと没収されては更に困ることになる。難しいところだ。
「一度織田の領地で休ませてもらうことになっているけど……もし怪我人がいても、僕の指示なしに助けてはいけないよ」
「なぜですか?」
「見せびらかすとは言ったが、安請け合いはそれだけ貴女の価値を下げてしまうからね」
織田に頼まれない限り、織田の領地で能力は使ってはいけない。どれだけ民に言われても使える人が限られていると通せとのこと。
擦り傷程度なら無視もできるが、重傷な人も無視できるかと言われれば、私は無理だと答えるだろう。
偽善とかではなく、ただ私が悪く言われるのが怖いだけ。できるだけ誰にも嫌われず生きていきたいし。正直なところ、偽物である可能性がある時点で、できるだけ誰にでも媚を売っておきたい。
だが、私は逆らえないので頷いた。
「……わかりました」
私の表情を見て、豆臣は笑顔で言った。
「すごく不服そうだね。大丈夫だよ、何があっても貴女を捨てることはないからね」
見透かされたかのような豆臣の発言に、私は目を瞬かせた。まさか口に出していたわけではないよね……?
「お前はわかりやすいんだよ」
島に呆れた表情を浮かべられ、私は仏頂面を試みた。だが、島は訝しげに私を見ただけ。
ツッコミくらい入れて欲しかったな。
「村に到着したぞ。ふざけてないで降りろ」
いつの間にか馬車はかなり進んでいたらしい。豆臣の城はすでに見えず、だだっ広い平原が広がっていた。
馬車から降りると、すぐ朗らかに挨拶をしてくれる村の人達。怪我もなく健康そうだ。
村長らしき男に、島が問いかける。
「ここに林 蘭𣏒がいると聞いたが、息災だろうか」
男は口ごもり、島へと耳打ちをした。島は静かにそれを聞き、「承知した」とだけ言って頷いた。
「島、案内してもらえるかい?」
「もちろんです。お前も来い」
「え、はい」
この村で一番大きな建物へと入り、奥へと進む。長い廊下を渡りきる頃、息苦しさに私は思わず口元を覆った。決して臭いとかではない。だが、呼吸を阻まれる感覚に驚いてしまった。
私の行動に疑問を感じたのだろう豆臣は首を傾げた。
「どうかしたのかい?」
「いや、呼吸がしにくくなってきて」
「……そう。今から会う人の呪いにあてられたのかもしれないね」
開けられた襖から覗くと、視界を遮る真っ黒な霧が部屋に充満していた。
その中央には、見えづらいが私と同い年か、それ以下か……幼い顔立ちをしている男の子がいた。
息苦しそうにしながらも眠っている。周りには黒いモヤがかかっており、視界が悪い。
「なんですか? この黒い霧みたいなのは」
「黒い霧? そんなもの、俺には見えんぞ」
「やっぱり、貴女にはわかるんだね。聖女関連の書物を読んでいて正解だったよ」
島は訝しげに眉間に皺を寄せた。しかし、豆臣は目を細め笑い、紙の束を紐でまとめたものを撫でた。
「きっと貴女の力で助かるはずだ」
「えっと、先になんでこんなことになっているのか、聞いても良いですか?」
「正直僕にもわからない。病気を患って以降、寝たきりなんだ」
周りからは疎まれ、織田は「使えないのならいらない」とこの村へと送ったのだとか。
それを見ていた豆臣は、織田なりの優しさだったのだろうと言っていた。何をもってそう思ったのか、出会って間もない私にはわからなかった。でも、きっと間違いではないのだろう。
「それで、貴女がまだここに来ていない時、白ではない聖女に頼んで治してもらった。少しの間元気になったんだけど、また弱っていった。加えて以前より症状は悪化している」
「……私が治療して、さらに悪化する可能性は?」
「ないとは言い切れない。けど、僕は貴女なら助けられると信じてるんだ。だって、白ではない聖女から、貴女の言う黒い霧の話は出てこなかったからね」
それだけこの人を助けたいんだなぁと思っていると、豆臣は和かに言う。
「これで織田に恩を売るんだよ」
前言撤回。この人、打算的すぎる。
まあ、それは置いておいて。
私は林という男へ手をかざす。正直どこに手をかざして良いかわからない。だから適当に頭のてっぺんから足のつま先までなぞるように手をかざしてみた。
すると、黒い霧は私の手の甲に吸い込まれていき、次第に呼吸もしやすくなっていく。
すべて霧を吸い取るころには、霧が晴れたように視界もクリアになった。
林は「ううん……」と声を漏らし、目をゆっくりと開けた。
「これは、成功……?」
「うん。成功だね。林殿、ご気分はいかがですか?」
「心なしか、体が軽くなった気がします」
林はそう言って、いつの間にか側まで来ていた豆臣に笑いかけた。
「いえ、それよりもまた私なんかのために聖女を呼んだのですか?」
私の方向をチラリと見た林。以前来ていた白ではない聖女だと思っていたのだろう、私を見て目を見開いた。
「……おや、今回は随分可愛らしい方で」
少し安堵したように、にこりと私へと微笑む。
今度は美少年と呼ぶのがあっていそうな人だなぁ……


