戦虚空に転生したJK、聖女だからと武将たちに囲われそうになってますが?

 吐き気や血の恐怖を感じる暇もなく、怪我人の治療に専念する。
 そうしてやっと戦が終わり、私は息を吐いたのだった――


 織田の城へと帰り、着物を着た女の人に世話を焼かれ、綺麗な着物を着せられた。
 私の制服は洗っておくからと言われ、その時初めて血で汚れているのに気づいた。
 必死に治療をしていたから、服に付着していることなんて気にしている余裕はなかったんだ。
 血は落ちにくいと言う。人の血が残っているのは嫌だ。
 新品のように綺麗になって帰ってきてくれ……!
 そう願うことしか私にはできなかった。
 
 動きづらい着物で大広間に通されて、織田に一番近い席へと案内された。
 せめてもの救いなのは、石口が隣にいることだろう。
 石口の隣に座ると、黙っていた石口はこちらを見ずに話し出す。

「か弱そうに見えて、案外できるものだな」
「訳の分からないまま連れてきておいて、それはないでしょ……」

 労いの言葉はないのか。と恨めしそうに睨んだが、石口は鼻で笑うだけだった。
 人が広間に集まりはじめ、織田も上座へと座った。

「織田様も来られたな。ではそろそろ始めよう」

 私の向かいの席に座っていた明知が、そう言って宴会が始まった。

 織田は部下達に酒を注がれ、それを味わいながら飲んでいる。
 談笑しながらの織田は、初の顔合わせの時や戦の時とは違い、穏やかに見える。流石にこう言う時くらいは表情筋も緩むようだ。
 私がじっと眺めていたせいだろう、織田と目が合ってしまった。できるだけ笑顔を浮かべ、軽く会釈をして石口の方向へと視線をずらす。
 石口は静かにお酒を飲んでいる。料理にはあまり手をつけていないようだ。
 
「石口様、食べないんですか?」
「そう言うお前は酒を飲まないのか?」
「私は飲めませんので。お気遣いなく」

 未成年ですと言っても通じない気がして、適当に流す。昔はもっと寿命が短かったと聞いたことがあるし、きっと昔は私の年齢でも飲めたのだろう。多分。
 酒の入ったお猪口を無視して私はお吸い物をひとくち。魚の出汁かな……

「こちらの聖女は酒に溺れんのか」
「お、織田様……!」

 どっかりと私の目の前に座った織田。その途端ざわつく周囲。
 そりゃざわつきもするよね。いきなり上席にいた人が降りてくるんだもん。緊張して味がしなくなりそうだから戻ってくれないかな……

「白ではない聖女様は、お酒飲むんですね」
「ああ、浴びるほどな」

 以前その白ではない聖女と酒の席を設けたことがあったらしい。白ではない聖女の父親が、ぜひ嫁候補にと。そこで彼女は酔い潰れるほど飲んだのだとか。
 よくこんな怖そうなおじさんの前で酔い潰れるほど飲んだな……。いや、怖いからこそ飲んで気を紛らわせたかったのかもしれない。
 
「して、お前に問いたい」
「……なんでしょう」
「うちに来ぬか? 豆臣よりも良き暮らしもできよう」
「俺の前で堂々と引き抜きしようとしないでください」
「では保護者であるお前に問おう。こやつを俺にくれぬか」
「それはできません」

 とりつく島もない発言。だが、織田は怒る様子がない。
 石口もわかって言っているのか、きっぱりと断る。
 織田は酒飲んでる時はいつもより寛容、とかだったりするのだろうか。

「聖女、お前は何が欲しい? お前の望むものはすべてくれてやる」
 
 織田なら確かになんでも用意してくれそうだ。しかし、織田の想像よりも仕事ができていなければどうなるかわかったもんじゃない。

「もう休ませていただきます。華鈴、行くぞ」
「えっあ、はい。すみません失礼します」

 無理矢理腕を引っ張って立たされ、私はそのまま大広間を出た。
 部屋から「明日また改めて聞こう」と織田の声が聞こえた。だが、石口は不機嫌そうに廊下を歩いていく。

「お前、まさか行くなんて言わないだろうな?」

 突然止まったかと思えば、石口は眉間に皺を寄せ、怒っているように口をへの字にしている。
 
「言いませんよ! でも、どうやって断ればいいんですか」
「はぁ……。まあ、そうだな。お前には断りにくい相手だろう」

 石口は思考を巡らせているのか、視線を外し口元に手を当てた。
 視線がこちらに戻ってきたかと思えば、石口は辺りを気にしつつ、小声で言った。

「陽が出る前にここを出るか」
「っ!」

 恋愛的な意味ではないのはわかっている。それでも低く心地の良い声で囁かれると心臓も跳ねる。
 そうじゃなくても……これは反則でしょ……!
 ときめきのドキドキを、まさかこんな形で味わうことになるとは思いもしなかった。

「なぜ顔を赤くする」
「な、なんでもないです! というか逃げ帰るのってどうなんですか」
「気に入らないか?」
「気に入る気に入らないのニ択なら、気に入りません。ちゃんと断ってみせます!」
「よく言った。では明日、頼んだぞ」
「……え?」

 肩をポンと叩いたあと、石口は用意してもらった部屋の方向へと行ってしまった。

「え、待って? もしかして嵌められた?」

 私一人で立ち向かわなきゃいけないってこと!?