目が覚めてまず目が合ったのは、おとねだった。
おとねは「あらあらあらあら!」と何度「あら」を言ったかわからないほどに繰り返す。
「おはようございます。七日間ほどお眠りになっていたんですよ」
「そんなに?」
「ええ。心配なのでしょうね。皆さん豆臣に滞在しているままなんですよ」
おとねはそう言った後「話していないで早く伝えに行かなくては」とすぐさま部屋を出て行ってしまった。
一人部屋に残されてしまった。体を起こした途端、ズキッと痛む手のひらと頭。そして喉。
「チート無双じゃないんだね」
怪我をした手に手をかざしてみれば、すぐに傷口は塞がった。もちろんその時に頭痛と喉の痛みともおさらばだ。巻かれていた包帯を全て取り払い、念の為手を動かしてみる。もう大丈夫そうだ。
寝ずに治療ができれば迷惑をかけなかったかなと思いつつ、襖を開けた。すると、庭に大勢の人だかり。見知った顔ばかりだ。
「華鈴! もう起きて大丈夫なのかい!?」
すかさず私の名を呼び、駆け寄ってきたのは豆臣だった。包帯の取れた手を見て、豆臣は大きく息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。
「よかった……治療術もちゃんと使えるんだね」
「もちろん大丈夫ですよ。ただ、いろいろと起こり過ぎて気が抜けただけです」
「それは違うらしいぞ。闇の侵食によるものだと枯野本人が言っていた」
島はいつに増して険しい顔で私を睨んでいる。その様子を木タは苦く笑っていた。
木タは深くお辞儀をした後、少しだけ口角を上げた。
「華鈴様、よくぞご無事で」
「石口に抱きかかえられてるお前見て、すっげー焦ったぞ」
笑顔の木タとは対に徳海は廊下に膝を乗り出し、眉を下げて言った。
私は集まってくれた人々の顔を見て、お辞儀をしてから問いかける。
「ご心配をおかけしました。皆さん怪我は?」
「お前が寝ている間におおかた完治しておる」
織田は軽い口調で言い、織田の側で控えていた明知と林は驚いた表情を見せた。
「織田様の穏やかな表情など、珍しいですね。さすが華鈴」
「華鈴が来たらもっと穏やかになるんじゃないでしょうか。ね、林殿」
突然囲い込まれそうな勢いに、私は動揺してしまう。織田も賛成のようで止めるつもりは一切ない。
「駄目だ。華鈴はうちのだからな」
突然背後から現れたのは、石口だった。「そうだそうだ」と言う豆臣と、静かに頷く島。
徳海も織田も納得いっていないようで、何か言いたげにしていたが、私は先に質問をする。
「そういえば、枯野親子は?」
「今それを聞くのか……」
石口は心底面倒臭そうな表情を見せたが、説明してくれた。
久遠は闇属性を持ったままだったため、あやかしの討伐や躾をさせている。「こんな仕事をするためにお父様に力をもらったわけじゃない」と嫌がっているが抗えるほどの力はなく、あやかしを使って畑仕事などを任されているのだとか。
枯野は牢屋に入れられている。ただ、闇属性が完全に自身の体から抜け落ちたため、生きる価値もないと塞ぎ込んでいると言う。
「心の傷って癒せるのかなぁ」
「やめておけ。元気になったらなったで面倒なことになるだろ」
島は容赦無く拒否をする。まあ、小さな国に住んでいた人を全てあやかしに変え、聖女をも殺そうとした親子だ。救おうと思う方がおかしいのかもしれない。
「もう三国で争わず現状維持にしません?」
「藪から棒に何? 心配しなくても、一時休戦だよ」
豆臣が言うには、かなり兵も兵糧も消耗したらしく戦っている暇はないのだとか。
織田は私をじっと見た。何を言われるのかと思い構えていると織田はわずかに口角を上げた。
「戦は休みだが、俺は聖女――華鈴がほしい。華鈴、織田に来るつもりはないか?」
「いやいや! 徳海だって華鈴がほしい! 体験みたいなのでもいいからさ、うちに住んでみてくれよ〜」
二人に迫られ、その二人の背後では期待の眼差しを向ける部下達。あまりにも、あまりにも断りづらい。
「ダメだと言ったはずですが?」
石口は私と二人の間に割って入り、ムスッとした顔をする。
「なんだよ、石口。お前は独占欲が強いなぁ」
「最終決戦の時も、お前が頑なに華鈴と一緒にいると言っていたな」
「なっ!? 本人がいる前で言わなくでもらえませんか!?」
石口の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
わちゃわちゃと賑やかな皆の声に、胸がいっぱいになりかけたその時――
「……華鈴、こっちへ来い」
石口は私の手をぐいと引き、庭の喧騒から離れた廊下の奥へと歩き出す。
二人きりになったところで、ようやく振り返った。
「お前は豆臣を去らないよな?」
「去るつもりはありませんけど……まさか私、追い出されます!?」
「違う、早とちりするな。お前はずっと豆臣にいていい。むしろここに居ろ」
そう言って口を閉じた石口だったが、視線を逸らしながらぼそっと呟く。
「……他にやるのは、癪だ」
唐突すぎるその言葉に、胸が跳ねた。
あまりにも驚きすぎて、うまく声にならない。
そんな私を見て、石口は「……なんでもない」とぶっきらぼうに言い直した。
――けれど、その耳が赤いのを私は見逃さなかった。
この先どうなるのかは、まだわからない。
でも少なくとも、今はこの世界に生きて、彼らと共に歩んでいく。
それだけで十分だと思えた。――少なくとも、今は。
おとねは「あらあらあらあら!」と何度「あら」を言ったかわからないほどに繰り返す。
「おはようございます。七日間ほどお眠りになっていたんですよ」
「そんなに?」
「ええ。心配なのでしょうね。皆さん豆臣に滞在しているままなんですよ」
おとねはそう言った後「話していないで早く伝えに行かなくては」とすぐさま部屋を出て行ってしまった。
一人部屋に残されてしまった。体を起こした途端、ズキッと痛む手のひらと頭。そして喉。
「チート無双じゃないんだね」
怪我をした手に手をかざしてみれば、すぐに傷口は塞がった。もちろんその時に頭痛と喉の痛みともおさらばだ。巻かれていた包帯を全て取り払い、念の為手を動かしてみる。もう大丈夫そうだ。
寝ずに治療ができれば迷惑をかけなかったかなと思いつつ、襖を開けた。すると、庭に大勢の人だかり。見知った顔ばかりだ。
「華鈴! もう起きて大丈夫なのかい!?」
すかさず私の名を呼び、駆け寄ってきたのは豆臣だった。包帯の取れた手を見て、豆臣は大きく息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。
「よかった……治療術もちゃんと使えるんだね」
「もちろん大丈夫ですよ。ただ、いろいろと起こり過ぎて気が抜けただけです」
「それは違うらしいぞ。闇の侵食によるものだと枯野本人が言っていた」
島はいつに増して険しい顔で私を睨んでいる。その様子を木タは苦く笑っていた。
木タは深くお辞儀をした後、少しだけ口角を上げた。
「華鈴様、よくぞご無事で」
「石口に抱きかかえられてるお前見て、すっげー焦ったぞ」
笑顔の木タとは対に徳海は廊下に膝を乗り出し、眉を下げて言った。
私は集まってくれた人々の顔を見て、お辞儀をしてから問いかける。
「ご心配をおかけしました。皆さん怪我は?」
「お前が寝ている間におおかた完治しておる」
織田は軽い口調で言い、織田の側で控えていた明知と林は驚いた表情を見せた。
「織田様の穏やかな表情など、珍しいですね。さすが華鈴」
「華鈴が来たらもっと穏やかになるんじゃないでしょうか。ね、林殿」
突然囲い込まれそうな勢いに、私は動揺してしまう。織田も賛成のようで止めるつもりは一切ない。
「駄目だ。華鈴はうちのだからな」
突然背後から現れたのは、石口だった。「そうだそうだ」と言う豆臣と、静かに頷く島。
徳海も織田も納得いっていないようで、何か言いたげにしていたが、私は先に質問をする。
「そういえば、枯野親子は?」
「今それを聞くのか……」
石口は心底面倒臭そうな表情を見せたが、説明してくれた。
久遠は闇属性を持ったままだったため、あやかしの討伐や躾をさせている。「こんな仕事をするためにお父様に力をもらったわけじゃない」と嫌がっているが抗えるほどの力はなく、あやかしを使って畑仕事などを任されているのだとか。
枯野は牢屋に入れられている。ただ、闇属性が完全に自身の体から抜け落ちたため、生きる価値もないと塞ぎ込んでいると言う。
「心の傷って癒せるのかなぁ」
「やめておけ。元気になったらなったで面倒なことになるだろ」
島は容赦無く拒否をする。まあ、小さな国に住んでいた人を全てあやかしに変え、聖女をも殺そうとした親子だ。救おうと思う方がおかしいのかもしれない。
「もう三国で争わず現状維持にしません?」
「藪から棒に何? 心配しなくても、一時休戦だよ」
豆臣が言うには、かなり兵も兵糧も消耗したらしく戦っている暇はないのだとか。
織田は私をじっと見た。何を言われるのかと思い構えていると織田はわずかに口角を上げた。
「戦は休みだが、俺は聖女――華鈴がほしい。華鈴、織田に来るつもりはないか?」
「いやいや! 徳海だって華鈴がほしい! 体験みたいなのでもいいからさ、うちに住んでみてくれよ〜」
二人に迫られ、その二人の背後では期待の眼差しを向ける部下達。あまりにも、あまりにも断りづらい。
「ダメだと言ったはずですが?」
石口は私と二人の間に割って入り、ムスッとした顔をする。
「なんだよ、石口。お前は独占欲が強いなぁ」
「最終決戦の時も、お前が頑なに華鈴と一緒にいると言っていたな」
「なっ!? 本人がいる前で言わなくでもらえませんか!?」
石口の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
わちゃわちゃと賑やかな皆の声に、胸がいっぱいになりかけたその時――
「……華鈴、こっちへ来い」
石口は私の手をぐいと引き、庭の喧騒から離れた廊下の奥へと歩き出す。
二人きりになったところで、ようやく振り返った。
「お前は豆臣を去らないよな?」
「去るつもりはありませんけど……まさか私、追い出されます!?」
「違う、早とちりするな。お前はずっと豆臣にいていい。むしろここに居ろ」
そう言って口を閉じた石口だったが、視線を逸らしながらぼそっと呟く。
「……他にやるのは、癪だ」
唐突すぎるその言葉に、胸が跳ねた。
あまりにも驚きすぎて、うまく声にならない。
そんな私を見て、石口は「……なんでもない」とぶっきらぼうに言い直した。
――けれど、その耳が赤いのを私は見逃さなかった。
この先どうなるのかは、まだわからない。
でも少なくとも、今はこの世界に生きて、彼らと共に歩んでいく。
それだけで十分だと思えた。――少なくとも、今は。


